怒りの対人戦
戦闘描写って難しいですね。
よろしくおねがいします!
突然濃厚な殺気と共に訓練所へ来いと言われた慎也は戸惑いながらもギルドマスターのバーンズの後ろに付いて歩く。
「……」
「……」
お互いが何も話さずに気まずい雰囲気の中、ギルドの裏手につく。そこにはやたらと広いスペースが広がり、何人かが剣を交えている。ここが訓練所のようである。訓練中であった一人がバーンズに話しかける。
「ギルマスがここに来るなんて珍しいっすね。どうしたんすか?それに、後ろの少年は?」
「ああ、ちょっと確認しておきたいことがあってな。すまないが、人払いを頼めるか?」
「ええまあ、ギルマスの頼みなら」
そういって、訓練中の全員に声をかけてからギルドの中へと戻っていく。途中何人かから見られていたが気にしないでおく。
「よし、待たせた」
「いえ、そんなに待ってませんから」
「そうか…ところでよ」
「なんですっ…!?」
なんですか?と言おうとしたところでバーンズが殴りかかってきているのに気づきとっさに躱す。
「何を!?」
「ほう…さすがにこれくらいなら躱せる
か」
バーンズの身体の周りを魔力が覆っていく。理由はどうであれ、戦う気でいるようだ。慎也はすぐに体勢を立て直し、腰の小剣二本を手に持ち構える。
「…紹介状があれば、試験はしないって聞いたんですけど…どういうつもりですか」
「なぁに、本当にあの犬っころが鍛えたのかどうか確かめねぇとな。本人が一緒にくるなら別だが、手紙なんてのは信用ならん」
ブチン
慎也の中で何かが切れた。バルドのことを犬っころと言ったのだ。許せるはずがない。
身体に魔力を通していく。オーガを倒した時のように筋肉が膨れ上がり所々黒い毛が生える。
「おい…言葉には気をつけろよ。誰が犬っころだって?」
「は?バルドだろ?違えのかよ?犬っころを犬っころと呼んで何が悪い。犬畜生のがよかったかよ!」
バーンズはその様子を見て更に煽っていく。
慎也の怒りのメーターはその発言で振り切れた。それを見て、笑みを浮かべるバーンズ。
「そうかよ…聞き間違いじゃあなかったんだな」
「ああ、言い間違ってもないからな」
「黙れクソジジイ!食い散らかすぞぁ!」
さらに魔力を込める。最初は叩きのめすだけで済まそうと思っていたがもう我慢できない。大切な義父を犬畜生とまで言われたのだ。オーガを捕食したウェアウルフの状態にまでなる。
胸と腹筋のあたりの地肌は灰色に、そこ以外は漆黒の毛が覆う。
ウェアウルフになったことでさらに魔力が高まっていく。
「力を受け継いだってのは本当のようだな…」
バーンズがつぶやく。強化された聴覚を持つ慎也にもその言葉が聞こえたが関係ないと切り捨てる。偉大な父を侮辱された怒りは治まることを知らない。
「さあ、喧嘩しようぜ!」
その言葉が戦闘に入る合図となった。
ドキュッ!!
オーガを一撃で屠った時よりも更に速く、更に鋭くバーンズの心臓めがけて迫る。心臓に小剣を刺してそれで終わりだと思っていたのだがバーンズはそれを許さない。突如バーンズの目の前に巨大な白い鎧の手が現れたのだ。その手の甲に小剣は突き刺さりバーンズには届かなかった。
「グルルゥ!!!」
巨大な手に蹴りを入れ距離を取る慎也。
「おいおいおい、心臓めがけて一直線とか怖いことしてくれるなぁ」
バーンズは表面上は余裕なフリをしているが内心は冷や汗どころではなかった。
(バルドの現役時代より速えな…まさかここまでとはなぁ。
まあ俺のせいで怒らせちまったんだし、最後まで戦うしかねぇか)
バーンズとしては、本当にバルドの弟子なのか力を受け継いでいるのかそして、闘う力があるのかどうかを見られればそれでよかった。
そのためには本気で闘ってもらわねばならない為、わざとバルドを侮辱したのだが…
虎の尾を勢いよく踏みつけてしまったらしいとようやく理解する。
ふう、とため息を吐き気持ちを切り替える。相手が殺しにかかってきている以上手加減などすれば本当に死んでしまう。
全力で相手をするに相応しいと慎也を認め、出現させた巨大な手に魔力を注ぐ。
「召喚術、目覚めろ豪腕の騎士!!」
魔力を注がれた手は白色から金色へ。手の甲には赤色で紋章が描かれる。
バーンズを護る盾として、外敵を穿つ矛として威圧を放ちながらバーンズの周りに漂い始める。
召喚術。召喚術師が自らの魔力と引き換えに契約を行った魔物、あるいは武具をその場に召喚する術である。
バーンズの豪腕の騎士は意志ある武具であり、最初の召喚ではただの巨大な鎧の手でしかないのだが、更に魔力を込めることで自我が目覚める。
この手は術者を護り敵を屠れと造られた時点で体内に契約文が書き込まれており、自我が目覚めればそのように動くのだ。
「ガアアアアッ!!!」
そんなもの関係ないとばかりにバーンズめがけて飛び込む慎也。両の手はバーンズを護る為、慎也に向けて拳を放つ。
それを慎也は華麗に避け、更には足場にしてバーンズへと迫る。
「しゃらくせぇ!!!」
猛スピードで迫る慎也だったが、豪腕の騎士によって攻撃する方向が狭まってしまった。そこを迎え撃つかのようにバーンズが拳をフルスイングする。
「グルァッ!!」
慎也の顔面に強烈な右ストレートが入る。手の感触から頭蓋骨が砕けているかもしれない。しかも殴られた衝撃で左目も潰れてしまった。
それでも。
「ガアッ!」
攻撃の手だけは止めない。肉を切らせて骨を断つの精神といえばいいのか、頭蓋骨を砕かれ、左目も潰れてなお左手に残った小剣をバーンズに投げつける。
小剣が肩に刺さり、更に追撃をしようとする慎也を豪腕の騎士が捕まえた。
「ぐっ…クソガキがあ!
てめえ死ぬ気かよ!?」
両の手で慎也を捕まえ、圧迫していく。
「てめえには悪いが…これで終いだ。全身バキバキになるかもしれんが殺しはしない」
そう言って、圧迫ダメージによる気絶を狙うバーンズ。完全に掌に収まった慎也が逃げ切る隙はない。
否。
慎也は逃げるつもりはなかった。
身体を再生し、魔力を高める。
思い出すのは魔法を初めて試した時のこと。
手に魔力を纏い、その手ごと燃やしてしまったあの失敗。
それを今度はわざと、全身でやってみせる。
「グルルゥ…ゥゥウウアアア!!!」
ゴウッ!!
慎也の全身を赤い炎が包む。その炎は慎也の魔力を吸い上げてどんどん高温になっていく。赤から青、青から白色へ。身体は焼け爛れ肉を溶かすがすぐに再生される。
やがて鉄をも溶かす温度となり豪腕の騎士を徐々に溶かし始める。
「…!?自殺する気か!!」
慌てて豪腕の騎士を消し去ると、燃え続けていた慎也が姿をあらわす。
「っ……!」
その光景に息を飲む。慎也の身体は高温に耐え切れずボロボロと崩れ落ちていく。そして、崩れ落ちたはしから再生しているのだ。
「グルルゥ…」
(こいつ…ダメージを受けてすぐに回復を…?
いや、んなことよりも…早くクソガキをとめねぇと!)
高位の回復魔術であろうと、もともとの体質であろうと慎也のような無茶をし続ければ身身体は無事でも精神に深い傷を受ける事になる。それだけは避けたかった。
「グルァッ!!」
「くそっ!!」
炎を纏う身体でバーンズに触れることができれば、それだけで大ダメージになる。
しかし、全身が焼け爛れ、崩れてから再生が始まるためにすばやく動くことができない。
「…しょうがねえ!クソガキ!歯ぁ食い縛れよ!!」
バーンズは両手を合わせ魔力を高める。
今までの比ではない魔力量に周囲が歪むほどに。
バーンズの目の前には巨大な魔法陣が出現し、魔力を吸い上げている。
「召喚術!!高貴なる騎士鎧!!」
叫ぶと同時に魔法陣から巨大な騎士が現れた。金色のフルプレートアーマーに身を包んだ姿で、手には儀礼用なのか細部まで模様が描かれたハルバードが存在している。
「すまんが、このまま殺される訳にはいかないんでな!!」
バーンズがそう言うなり、ロイヤルナイトゴーレムは手に持ったハルバードを全力で横に薙ぐ。
慎也は避けようとするが、足の再生が終わらないのか避けることができずに刀身の腹で思い切り叩きつけられた。
あまりに強力な一撃のせいで壁に叩きつけられ、強化された肉体でも脳が揺さぶられる
「ガアッ!!…ガ…グゥ…」
肉体が再生しても気絶してしまえば、慎也にはどうすることもできない。
慎也はなすすべなく、意識を手放したのだった。
「はぁっはぁっはぁっ…くそっ!おっさんに無茶させやがって!」
そういうなり、バーンズはその場に座り込んだ。辺りを見渡すと床は大きくえぐれ、慎也が叩きつけられた壁も半壊している。
慎也が立っていたところは熱によってか土が半液状化していた。
思わずため息がでてしまうバーンズ。
「また減給になんのかねぇ…」
その声に応える者はいなかった。
◇
「……どこだここ?」
慎也が目を覚ますといつの間にかベッドに寝かされていた。どうやら医務室であるらしい。
バーンズと闘い、巨大なゴーレムに攻撃されるまでは覚えているのだがそこから記憶がない。
「てことは……負けたのか」
記憶がなくとも、今ここにいることが何よりの証明だった。本来であれば医務室とは無縁のスキルを持っているはずだが、気絶してしまったら動くことができない。
恐らくその間に運ばれたのだろう。
「強かったな」
そう呟き、先ほどまでの闘いをもう一度思い出す。
バーンズが召喚したナイトオブアームズやロイヤルナイトゴーレム。とくにゴーレム。あれはかくが違った。
記憶はある。しかし怒りに身を任せ、冷静な判断は出来ていなかったと思う。
「俺は…弱いな」
相手の挑発に乗り暴れるだけ暴れて、自滅技も対処され、そして無様にここで寝ていた。
それが自分で許せなかった。
「強くなろう…」
慎也が落ち込んでいると、バーンズが医務室にはいってきた。
「おう、もう大丈夫そうだな」
「…なんすか。笑いに来たんですか?
ちょっとそう言う気分じゃないんで、またこん…
「すまなかった」
「…え?」
突然バーンズが頭を下げ、謝ってきたことに困惑する慎也。その様子を無視して、バーンズが、話し始める。
「お前の実力を見るために本気で闘ってもらいたかった。そのために、バルドを罵ったことを謝りに来た」
闘う前の明るい雰囲気ではなく、どこまでも真剣な眼差しで慎也を見つめるバーンズ。
「それと言い訳に聞こえるかもしれないが、あいつを犬っころって呼んだのは昔の癖なんだ。あいつと俺はパーティを組んでいた時期があってな。
それを聞いたお前が切れたのを見て、バルドの事で怒らせれば本気を出すと思ったんだ。まさか…自殺行為で殺しにかかってくるとは思わなかったが…」
申し訳なさそうに話すバーンズに、慎也はなんとなくだが事情を理解し始めた。
「お前、身体は大丈夫なのか?
手加減せずにぶっ叩いた俺が言うのもなんだが、あんな闘いはもうしないほうがいい。回復魔術かなにか知らないが、魔力がなくなったら死んじまうぞ」
「大丈夫です。生まれつき、傷はすぐに治るので」
「そうか」
しばしの沈黙が流れる。
「あいつは死んだのか」
「っ…!
…はい」
「そうか…わかった。お前の実力を認め、Dランク冒険者として登録しよう」
「え…」
「ん?どうした?嬉しくなかったか?」
慎也は、自分に力を託すためにバルドが死んだことを責められるのだと思っていた。
それが、いきなり話が進んでしまったので頭が追いつかない。
「あ、いえ…責めないんですか?」
「なにを」
「俺は…あなたから見れば戦友が死んだ原因ですよ?」
「あいつも納得の上死んだんじゃないか?手紙からは悔しさは伝わってこなかったよ」
「そう…ですか」
「まあ、今日はもう休め。流石に魔力を使いすぎだ。込み入った話は明日だ明日。それでいいだろ?」
「あ…はい…。」
「じゃあな。
あ、それとな…お前、バルドよりも弱かったぜ」
バーンズは最後にニヤッと笑みを浮かべてそんなことを言う。そして、その言葉を残して去っていく。
自分が弱いと言われても、慎也は嬉しくてしょうがなかった。
バーンズはバルドの実力を認めている。知っている。
お前の親父は強かった。そう、父親を褒められて嬉しくないはずがない。
そして、この町にいれば自分の知らないバルドを知ることができる。
「もっと強くなろう、親父よりも強く…!」
先ほどよりもより強く決意し、もう一度眠ることにする。この町ならば、自分はもっと強くなれる。そう確信しながら意識を手放していく。
全然話が進みませんでしたね。ヒロインなにそれおいしいの状態でございます。
もう少しなので!(汗