期待と失望 テンプレ回避
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夜の間に走り続け、空が白み始めてきた頃。
慎也は森からでて、草原を歩いていた。
目指すはポートレスという名の町である。慎也がやるべきことは3つ。
・ギルドマスターに手紙を届ける
・冒険者登録をする
・活動拠点にする宿を決める
である。最後の宿は最悪野営でも良かったのだが、やはり人の目が気になる。
なので、寝る場所さえあればいいレベルの宿屋を探すことにする。
お金はアイテムボックスに入れていてくれたが、あまり使おうとは思わない。
自分で稼いだお金で生活をすると決めたのだ。
「匂いが強くなってきた…いい匂いだ」
まだまだ10㎞ほど町まであるというのに、ここまで匂いが届く。それは、慎也の強化された嗅覚だけでなく、ポートレスが大きな町という証明でもあった。
慎也がここまでくる中で、気づいたこともいくつかあった。
まず義父バルドから受け継いだ能力。地球の物語同様、満月の夜のみ、もしくは夜にならなければ使うことが出来ないと思っていたのだが、魔力さえあれば使い続けることができる。
そして、魔法の存在だ。
この世界に来てから半年、慎也は未だに魔法を見ていないし、教えられていない。
その為、魔法は存在しないと思っていたのだがそんなことはなかった。
夜の森で見つけた冒険者の死体のうち、一人がローブを羽織ってワンドを持っていたのだ。
慎也は死体を穴に埋めて供養してから、そのワンドをアイテムボックスにしまった。
魔術師然とした冒険者がいるのなら魔法は使えるのではないか。
ラノベなどである程度知識のあった慎也は自分の魔力を右手に集めてみた。
そこに炎が灯るイメージをすると、右手が突然燃え出した。慌てて火を消して超速再生で傷を癒す。右手を覆うように魔力を集めたのが問題だった。
次にワンドを取り出して持つ。先ほどと同じように魔力を集め、今度はファイヤーボールをイメージしてみる。
するとワンドの先に小さな火球が出来上がり、狙った木へ飛んでいく。
当たった木は勢いよく燃え始め、しばらくすると崩れ落ちた。
それを見た慎也は心底びびった。あれが人であればどうなるかわかったものではない。
因みにだが、慎也の放った火球は一般の魔術師の火球よりも遥かに強力である。それは、火球に込める魔力量の差であると言える。
誰に教えてもらうでもなく火球を作り出した慎也にはわからないことであった。
そんな発見を思い出しながら、足を強化して速度を上げる。
この匂いを嗅ぎながらゆっくり歩いていられるほど慎也は大人ではなかった。
しばらく走っていると町を囲む大きな壁が見えてきた。
道が続く先には門があり、そこ以外は全て壁となっている。
門番が立ち、町に入るもののチェックをしているようだ。その門番の後ろには長蛇の列があった。
(これは大分時間かかるだろうな…)
そう思って気持ちを切り替える。
匂いに我慢できなければ、飯を食べればいいのだ。
アイテムボックスから燻製されたオーク肉と枯れ枝を取り出す。
地面に枯れ枝をおいて、極力魔力を込めないように抑えて火をつける。今度は成功したようだ。だが、周りはそれをみて騒然とする。
今も商人たちが囁いている
「お、おい、見たかよ。あいつ、ワンドも詠唱も無しで火をつけたぞ!」
「なんだって!?そりゃほんとかい!?」
「ああ、俺はこの目でみた!」
「落ち着けよ。枯れ枝に火をつけるくらい、上位の冒険者なら同じようにやるさ」
「そうなのか?」
「ああ、赤竜の牙ってパーティの魔術師は同じようにやってたぜ?」
「てことはあいつは…」
「それほどの実力者ってことだろうぜ…!」
「な、なるほど」
「見ろよあの腰の剣。ありゃ業物だな、そしてよく使い込んである。幼少の頃からずっと使い続けてんじゃあねえかな?」
「そ、そこまでわかるのか!?」
「おう、俺は今まで色んな強者を見てきたからな」
幼少の頃、慎也は友達にダンゴムシを服の中に入れられで大騒ぎをしていた。
知ったかぶりで話を大きくする商人を尻目に慎也は疲れていた。
(はぁ、威力抑えるのってめちゃくちゃ気を使うんだな…)
内心ため息を吐きながらもオーク肉を炙っていく。
慎也の周りの人々は町からの匂いとオーク肉の焼ける匂いで空腹が限界に達していた。
そんな周りの様子を知ってか知らずか、焼けたオーク肉を美味そうにかぶりつく。口から肉汁が溢れ、肉を咀嚼し飲み込む音が辺りを支配する。
「「「「「ゴクッ」」」」」
「な、なぁあんた…もし良かったら、うちの果物とその肉の一部、交換しないか?」
一人の商人が限界を迎え、交渉を持ちかける。しかし、周りにいた人達からは冷ややかな視線を浴びる。
それは物々交換の基本である対価が釣り合わないからである。
冒険者に委託して仕留める魔物の肉と、栽培可能なそれこそどこでも手に入る果物では釣り合うどころかバカにしているようなものなのだ。
しかし、慎也は常識は学んでも物価までは教わっていないし、オーク肉は比較的よく食べる肉である。商人の出した果物は地球でいうオレンジのようなものだったが、こっちでは食べたことがない。その為嬉しそうにその交換に応じる。
「え、俺は全然いいけど…それ、もらっていいの?」
「ああ!いくらでもやるよ!はっはー!君が話のわかる男でよかったよ!」
「え、そんなに褒められても」
商人の喜びように戸惑う慎也。まぁ、美味しい肉には違いないので、よほど食べたかったのだろうと納得する。取り出した肉を渡してオレンジを20個ほどもらう。もっと渡そうとしてきたが丁重に断った。
「う、うめえ!!うめえー!!」
よほど空腹だったのかものすごい勢いで食べる商人。
それをみた慎也は良いことをしたと思い、新しい肉を焼く。
「なあ、君」
「なんだ?」
「オークの肉は…どれくらいあるんだい?」
「えっと…8匹くらいは捌いてるけど」
「「「「「「ガシッ」」」」」」
「…え?」
こうして慎也のアイテムボックスには多種多様な食材が入ることになった。
一部の商人から、肉の買い取りの話をされたがそれは断った。自分が食べる分は売るつもりはないのである。
そうして、オーク肉パーティーとなった一部の集団は、不審に思った門番がくるまで続いたのだった。
なかなか門番がこなかったのは、一心不乱に肉を食べる20人前後の集団に対し恐怖し、何かあった時取り押さえられるように応援を呼んでいたからであった。
そして、15.6人を連れてその集団に近づき、事の真相を知ったのである。
◇
「いやー、遠くから見ると新手の宗教かと思うほどある種異様な光景だったよ」
「そうですかね?」
門番とようやく話すことができた慎也だが、本人は普通に肉を食べていただけなので客観的に自分たちを見れていなかった。自覚のない慎也に門番は肩をすくめるのみだった
「さて、君は何をしにこの町へ?」
「ああ、冒険者になろうと思ってるんすよ」
門番が目を見開き驚いた顔をする。
「ん?なにか変なこと言いましたか?」
「い、いや…すでに冒険者だと思っていたからね、貫禄というか、迫力というか…とにかく、一般市民だとは思わなかったよ。すまないね」
「ああ、そういうこと。だったら親父のお陰かも。親父はこの町でBランクだったらしいし、この先の森で半年間鍛えてもらってたし」
「この先って…メフィールの森かい!?…よく無事だったね…」
「けっこう楽しく過ごせてたけどね」
「そ、そうかい…まあ、そういうことならまだギルドカードも持っていないんだね?」
「ああ」
「じゃあ、申し訳ないけど一万メルクもらっていいかい?」
「通行料ってこと?」
「そうだね、住民でない人には必ずもらってるんだ。ここを拠点にするなら、今日中にギルドカードは作っておいたほうがいいね」
「顔見知りでもそいつを持ってなかったら取られるんすか?」
「そうなるね」
「じゃあ、はい」
そう言って、アイテムボックスから銀貨一枚を渡す。
この世界では円の単位がメルクになり
十円→石貨
百円→大石貨
千円→銅貨
万円→銀貨
十万円→金貨
となっている。
「はい、銀貨一枚、ちょうど一万メルクだね。ようこそ!我が愛する町、ポートレスへ!」
異世界に来て半年、慎也は初めて町に入る。
辺りをキョロキョロと見渡しながら歩いてく。町は基本的に石造りで、ラノベでよくある中世ヨーロッパよりは多少技術が発展しているようだった。
ふと何かを思い出したかのように門番へと走り寄る。
「すいません!あの、えーと…。…名前は?」
「僕かい?僕はユーリ。君は?」
「俺はシンヤ、よろしく。ところでユーリさん、ギルドって何処にある?」
「ああ、それならこのまま真っ直ぐ大通りを進むと町の中央に広場がある。その広場から右に曲がってすぐに大きな建物が出てくるよ。そこがギルドだよ」
「わかった、ありがとう!」
「いえいえ、道案内も門番の仕事だからね。じゃあ、頑張るんだよ」
「おう!」
教えてもらった通りに大通りを駆ける。人ごみを避けながらもスピードは落とさない。そして、走りながらさっきの会話を思い出す。
(あー…バルドにはタメ口だったけど、どうしよう…敬語とタメ口が混ざってたよなー。よし、明らかに目上、もしくは貴族以外にはタメ口でいいや)
なんて、しょうもないことを考えながらも前を見ると、広場が見えてきた。
「ここを右に曲がってすぐ…ここか」
慎也の目の前には三階建ての石造りの巨大な建物だった。表看板には冒険者ギルドと書かれているので間違いない。
慎也はテンプレのような絡んでくる冒険者に期待しながら扉を開く。中に入ると、正面には受付があり、受付嬢が三人並んでいた。右を向くとそこは酒場になっていて、すでに出来上がっている冒険者もいた。左を見ると大きな掲示板があり、たくさんの紙が貼り出されている。恐らくはクエストはあそこで選ぶのだろう。そうやって、入り口で辺りを見回していたのだが不意に後ろから声がかかる。
「おい、こんなとこに突っ立ってんじゃねえよ!」
「え、あ…ごめんなさい」
「ごめんなさいだー?ったく、こんな奴がここに何の用だよ!」
「ああ、俺は冒険者になろうと思ってて、今初めてギルドに来たもんだから感動しちゃって」
「はーん、冒険者ねぇー?そんななりで大丈夫なのかよ、ああ!?」
慎也は初めてテンプレ通りになったので思わず嬉しくなる。異世界に来てみたら王国じゃないし、狼が人になったら馬並みのおっさんだし、初めての戦闘では上半身と下半身がサヨナラするし、思い返せば涙が出る。
慎也は意気込んで答える。
「もちろん!」
「…そうか!だったら俺は何も言わねえ!せいぜい頑張んな。ただ、無理はするんじゃねえぞ?命を粗末にするやつは早死にするんだ。いいか?勇気と無謀を履き違えるんじゃねえぞ?もう一度言うぞ、命を粗末にするやつは早死にする。
何か困ったことがあれば俺を頼ってこい。こう見えてもCランクとして長く活動してんだ。聞いたことないか?『炎熱の陽炎』って…え?聞いたことないのか?俺はそこのリーダーをしているガノンって言うんだが。…おう…ふむ…なんだって!?あの森で?二人で?半年間?…その前はど田舎にいたのか…そうか…よしよし、わかった!お前はもう俺の弟分だ!
兄貴の俺をしっかり頼れよ!
おっと、初めて来たってことは冒険者登録しに来たんだろ?
よしよし、俺が一から教えてやるよ。前も後ろも右も左もわからんやつを導くのも先輩ハンターとしては当たり前だからな!」
「いえ、遠慮しときます」
テンプレ通りに進まなかったことと、やたらと親切なせいで途中で話をきれなかった慎也はすでにぐったりしていた。
このまま登録まで一緒に来られてはこっちの身がもたない。丁重にお断りすると、炎熱の陽炎は名残惜しそうな(?)ガノンを引きずって酒場へと向かっていった。
(いい人なんだけどな。…はぁ…)
何度目かわからないため息を吐き、ようやく慎也は受付へとたどり着いた。
「いらっしゃいませ!ご用件は?」
「ああ、冒険者登録がしたいんだけど…紹介状があれば本当にDまで上がれるのか?」
「ええ、その方の実力がCランク以上でしたら大丈夫です。どなたかの紹介でしょうか?」
「えっと、そのことについて、その人からギルドマスター宛に手紙を書いてもらったんだよ。これを渡してくれないか?」
「ええ、かしこまりました。それではしばらくお待ちくださいね」
またしても、慎也は深く傷ついた。
あくまでも事務業務と割り切っているのか受付嬢の態度が壁があるようで寂しい。予想では、お姉さんタイプか、仲良くできそうなフレンドリーな人だと思っていたのに…。
「お前がシンヤか?」
「あ、はい、そうです…が…」
慎也が傷ついていると声がかけられた。声の主を見ると、恐らくは40代半ば。しかし、その身体を包む筋肉は今純度の塊で殴られればタダでは済まないと思わされるほどだった。
金色の髪をオールバックにし、目は睨んだだけでチンピラなら漏らすほどの力強さをもち、鷲鼻が特徴的だった。
なによりも、その全身に刻まれた傷。
冬であるというのにめくり上げられた袖の下にはとんでもない量の傷があった。
そのどれもが古傷だとわかる。いったい、どれほどの修羅場をくぐれば、ここまで傷つくのか。
「どうした?」
「いや、筋肉がすごいなーと」
「わっはっは!!そうだろうそうだろう!俺は筋肉が大好きだからな!おっと、自己紹介だ。俺はここのギルドを任されているマスターのバーンズだよろしくな!」
そう言いながらバンバンと背中を叩かれる。半端なく痛い。
「ところでよ」
「はい?」
いきなり低い声になったバーンズ。変化は声だけでなく、本人からは殺気が漏れ出している。そして。
「ちょっと訓練所にいこうや」
体育館裏への呼び出しの如く、訓練所に呼び出されることとなったのだった。
なんども言いますが、私はオークの肉は食べる派です。
高校の時、体育館裏への呼び出し係を何度かしました。呼び出し係であって、呼び出す側でも呼び出される側でもありませんでした。
なにか?
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