鬼退治そして、親の愛
僕は早くに父親を亡くしたので、だからこそこの話を書きたかったのかもしれません。
稚拙な文章ですが、よろしくお願いします。
慎也は夜の森を全速力で走っていた。狼の嗅覚と視覚、強靭な身体能力で迷うことなく義父の敵のもとへと。
「待ってろよ…!!」
怒りの炎を心に灯しながら。
「……!」
匂いが強くなったと思い立ち止まると、繁みの向こうに巨体が二匹存在していた。間違いなくオーガである。
「見つけたぞ…猿ども」
魔力を全身へと回していき屈んでいく。クラウチングスタートに近い体勢でためを作る。筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がり、爆発の瞬間を今か今かと待ちわびていく。
「てめえら、骨も残らず捕食してやるよ」
ドキュッ!!
地面を深くえぐり、弾丸のような速さでオーガへと向かっていく慎也。あと一息で手が届くところで一匹が慎也の存在に気付く。
「遅えよっ!!」
気付いたほうのオーガにその勢いのままに飛びつき喉元を引き裂く。立ったまま絶命したオーガを支えにその勢いを殺し、地面へと着地する。地面には雪が降り積もり、オーガのまき散らす血液がその雪を赤く染め上げる。
一瞬のうちに片割れが死んだせいか、油断なく棍棒を構えるオーガ。その様子を見て、フンと鼻で笑う慎也。
「構えたところで、てめえらは俺には勝てねえよ。不意打ちでなければ、親父にも勝てねえくせに」
理解しているかわからないが声をかける。オーガは低く唸ると棍棒を大きく振りかぶり勢いよく振り下ろした。
「ゲギャアアアア!!!」
「だから?」
それを慎也は避けなかった。右肩から先が抉り取られ、地面に磨り潰されるが気にしない。怒りのためか、バルドから力を受け取ったためか痛みは気にならない。すぐさまスキル「超速再生」を使い復元させる。
「お前、もう死んでいいよ」
そう言い放ち、棍棒を握りつぶす。
「ゲグ…グウウ!!」
本能的に危険を察知したのか逃げようとするオーガ。それを先回りし、目の前に立つ慎也。
「てめえらは、殺す。これは決定事項だ」
さらに慎也の魔力が高まる。魔力が高まるにつれ、顔が、体が、足が狼のそれに近づいていく。まさに、狼男と呼ぶにふさわしい姿になっていく。
「グルルル…」
「ゲギャアア!!ガアアアア!!」
恐怖に耐えかねたのかオーガがこぶしを振り上げる。
「餌の分際で」
振り下ろしたこぶしを難なく受け止める慎也。オーガのこぶしには慎也の鋭くとがった爪が深く食い込んでいる。
「ゲヒイイ!!!」
「調子こいてんじゃねえよ!!」
捕まえたこぶしを自分の方へと引っ張る。自然、オーガは前のめりになり…
「ガアアアッ!!!!」
喉元を大きな咢で噛み砕かれるのであった。
オーガと接触してから数分の出来事であった。慎也は倒したオーガをつかみ、最初に倒した方へと引きずっていく。
「さて、体を動かしたからな。栄養補給と行きますか」
そう呟き、そのままオーガヘと喰らいついていく。骨ごと、バキバキと音を立てながら咀嚼していく慎也。
闇夜の雪降る森に、異様な音が響くのであった。
◇
喰らい尽くした後、慎也は考える。
あの二匹のオーガは妙な奴らだったと。バルドはもちろんのこと、慎也だってこの2ヶ月で魔物の気配くらいは読めるようになっている。
それなのにあのオーガは二度も、バルドに気付かれずに接近している。
気配が読めなくとも、あの巨体なら森の中を歩くだけで木々と擦れ合い落ち葉や雪で足音が鳴る。
それがなかったということは、元からあの場所にいてとんでもない技術で気配を殺していたか、一瞬でその場に召喚されたかのどちらかだと思われる。
「前者は現実味がねえな、気配を殺したからといってもあの巨体だ、気付かないはずがない」
ならば必然的に後者の召喚された方になるわけだが…
「問題は、誰が何のために召喚したか…か」
慎也は深く考えそうになるが、頭を振ってかんがえるのをやめた。
「やめだやめ、考えるにしても情報が少ない。とりあえず、犯人は殺して喰う。それでいい」
慎也は自分に言い聞かせるように、呟く。
「あの猿どもを召喚したやつと、俺の邪魔をするやつはどんな奴だろうと殺して喰らい尽くす…!」
ースキル「捕食吸収」を得ましたー
「あ?」
頭に響いた言葉。それは超速再生を得たときと同じものであった。
「捕食…吸収…?」
食べる、そして吸収する。そんなのは普通の人間でもすることである。ならばスキル「捕食吸収」とはなんなのか。
「待てよ…?俺の魔力が…回復している?」
回復ではなく、明らかに魔力量が増えていた。
オーガを仕留める為に、オーバーキルとも言えるほど魔力を消費し、超速再生も今までの比ではない速さで再生させた。
魔力が枯渇していてもおかしくないほどに暴れまわったというのに、今はもう全回復している。
考えられるのはオーガを捕食したこと。
オーガを捕食し、そのエネルギーを自らの魔力へ変換し吸収する。そして、今までの魔力量に一部が上乗せされるのではないか。
(こんなところか…?いや、スキルを吸収する可能性もなくはない。あの猿どもがスキルを持っていなかったかもしれないしな)
なんとなく納得しのいく解析を終え、慎也は歩き出す。
町に出て冒険者になる為、必要なものを持っていかなければならない。
そのために、義父と生活をしていた穴倉へ向かったのだ。
バルドと慎也が生活していた穴倉は崖の麓にあり、入って突き当たりまで5メートル、そこから右に5メートルのL字形をしている。
これはもともとゴブリン達が住んでいた所をバルドが殲滅し、さらに横に穴を掘ったものである。最奥には冒険者時代の道具と、大切なものを入れている木箱が置いてある。
慎也の目的はその木箱で、町に出るのにバルドの私物をここに置いたままではいけないと思い、取りに来たのである。
「中身、見たことなかったな…」
バルドはとくに見るなとは言っていなかったが、勝手に見るのも憚られ、かといって聞いて見るほどにまで興味があった訳ではなかったので今回初めて見ることになる。
木箱の蓋を開けると中には一つのカバンと3つの手紙が入っていた。
3つのうち1つの手紙の表面に「シンヤヘ」と書かれたものがあったので、読むことにする。
「我が親愛なる息子、シンヤヘ
お前はこの半年間、死に物狂いで頑張っていたな。
その努力は必ずこれからの生活に生きてくるだろう。
さて、単刀直入に言おう。
私はお前に私自身の力を託そうと思う。
そのためには、私は死ななければならない。
この力の譲渡は、渡す者の命が条件だからだ。
私の祖先は神狼だと前に話したな。
そして、神狼が人間と交わって生まれたのが私たち人狼だ。狼の獣人ともいえず、狼とも人とも言えない私たちを人々は蔑んだ。
穢れた思想の下に生まれた、穢れた血の一族、と。
そんな穢れた血を受け入れさせるのは心苦しいが…
なぜ、力を託すのか。
初めてシンヤと出会った時に話したと思うが、私の目的は子孫の繁栄である。
伴侶を見つけ、子を育てる。
そのはずだったんだが、お前を育てているうちにお前自身が、息子のような感覚になっていた。
嫌がるかもしれないがな。
つまり、俺はお前に力を託すことで、目的を達成することができる。
シンヤ。お前は死ぬことを酷く恐怖しているな。
お前の話を聞いて、今まで命の危険などほとんど無かったのなら気持ちはわかる。
だが、この力があれば、そう簡単に命の危険にはならないはずだ。
お前には、寂しい思いをさせてしまうかもしれないな。
だが、俺はお前の中で生き続ける。
思想や宗教ではなく、この力を受け継ぐと言うのは、私の魂をお前の魂と混ぜ合わせると言うことなんだ。
お前が酷く傷つき、精神的にやられてしまったときは、そのことを思い出すがいい。
あと、この手紙と共にギルドマスターへの手紙と、紹介状。そして、アイテムボックスであるカバンを入れておく。
ポートレスへ行ったらギルドへ行き、手紙を渡せ。
アイテムボックスは選別だ。
そいつは、見た目はただのカバンだが中身は違う。
空間魔術によって拡張されており、自分の魔力に応じた広さを持つことができる。
中では時間の経過がないらしく、肉が腐ることもない。
食いしん坊なお前にはぴったりだな。
さて、話が逸れてしまったが、最後だ。
愛する息子よ。生きてくれ。
町へ出て、様々な人と触れ合い、生きる目標を見つけてくれ。
お前の進む道に、神狼の導きがあらんことを。」
バルドの手紙はそこで終わっていた。
内容の通り、カバンはアイテムボックスであるようだ。
慎也は穴倉の中のものをすべてカバンにいれ、1つ息を吐き出す。
この世界に来てから、初めてただいまと言える場所であった。そこから今日、旅立つのだ。最後に言う言葉は決まっている。
「行ってきます…親父」
慎也はその日、町を目指して森の中を進む。
進んでいる間、慎也は夜通し泣き続けた。
泣くのはこれが最後だと言わんばかりに。
森の広さは岐阜県一個分ほどです。
次回から、町に入ります。
ヒロインを出せたらいいなと思っております。