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不死身の異世界人  作者: ぱにっく
1/17

プロローグ  異世界転移から早すぎた絶望

狼男ってかっこよくないですか?


よろしくお願いします。

山の紅葉が綺麗で肌寒く感じるこの季節、三者面談を終えた竹中慎也は大いに悩んでいた。

高校三年生の秋、慎也は友達が進路を決めて勉強したりすでに大学が決まっているやつがいる中でただ一人、将来について何も決まっていなかった。


「やばいなー、どうすっかなー」


なりたい職業も行きたい大学もない中での三者面談は相当に気まずかった。

担任は大学に行くべきと言っていたが、慎也としては卒業してからフリーターでしばらく生活したかった。理由は単純に、自由な時間が欲しかったから。

決まった時間に起きて、決まったことをひたすら繰り返す事に嫌気がさす。しかし、そんな理由で先生が納得するはずもなく、母親は息子に任せるの一点張り。

最後の方は先生も投げやりになるほどだった。その場からはやく帰りたくて仕方がなかった慎也は、ひたすら謝っていたのだった。


「あーあ、異世界に召喚されたりしないかな、そうすりゃ勉強せずに英雄になれるのに」


慎也は結構なオタクでライトノベルが、特に異世界召喚物が大好きだった。因みに転生物は好きではない。理由は子供の振りって疲れそうというものである。

異世界に行って魔王を打ち倒し、英雄となりその国の姫様と幸せな家庭を作る。そんな事を考えているといきなり目の前が激しく輝きだした!


「うわっ目が!目がああああ!」


ム◯カの有名なセリフを吐きながら光の原因を探す。心の中では(え、これ異世界いけんじゃね?召喚?転生?)などと考えている。

やがて光が消え、慎也の目の前には大きな魔法陣が描き出されていた。


「す、すげえ…」


慎也は心の底から感嘆の声をあげる。ふと、慎也は自分の周りを見渡す。そこには同じ下校中の生徒が沢山いるがこの魔法陣に気づいている人間はいない。つまり、この魔法陣は自分の物なのだと納得する。


「やったぜ…ついに異世界にいけるんだ…!」


恐れるものは何もない!とばかりに全速力で魔法陣に突っ込む慎也


「うおおおおおおお!」


周りの痛い目なんて気にしない。自分はこの世界からいなくなるのだから。


「おおおお!!……ん?」


魔法陣まであと少しのところで慎也は突然大きな不安に駆られる。

それは、数あるライトノベルのなかでもちらほらと書かれている可能性。そう、これが望まれた召喚なのかどうかである。

もし召喚先で不審者扱いされればどうなるか。そんな不安に負けて、とりあえず魔法陣一直線だったコースを右に曲げ一回スルーしてみようとする。




「え?」


ドンっ!!


走り出した慎也がいきなり右に曲がったため、通り過ぎようとした車に轢かれてしまう。幸いなことに住宅地の下校中だったためスピードはそこまで出てはいなかった。まぁ、それでも人を吹っ飛ばす威力はあるが。

吹っ飛んだ慎也はそのまま魔法陣へ近づいていく。


(き、強制イベントかよっ!!)

「うわああああ!!」


慎也の記憶はここで途切れた。





エミ大陸にあるグランツ王国では今まさに勇者召喚の儀が行われていた。国王アランの名により大陸の中でも最高峰と言われる魔術師10人が集められ、一つの巨大な魔法陣に魔力を注ぎ込んで行く。

そこへ、50代後半のメガネをかけた長身の男性が現れる


「うまくいっているのかい?」

「これはこれはペトロフ様。勿論ですとも。我々の力を持ってすれば、召喚の儀など容易いものです。」

「ふむ、期待しているよ。無論、国王様もな」

「ははっ!必ずや成功させます!」

「まぁ、あまり根を張って倒れんようにな。無理はするな」


自信満々に言い放つ魔術師に対してペトロフは優しい目つきで労う。それに感動したのか魔術師は涙ぐむ。


「は、はい!ありがたきお言葉でございます!!」

「うむ、では私はもう行く。くれぐれも無理のないように。失敗してはならんからな」


そう言い放ち魔術師に背を向けるペトロフ。今の彼の目は驚くほどに冷たい。


「さて、憎き敵国に宣戦布告でもするか、あるいはケモノ狩りか……勇者が召喚されれば思いのままよ……!」


慎也の懸念通り、このペトロフという男は召喚された人間を国の利益のための駒としか見ていない。しかも、今回グランツ王国で試される召喚の儀は過去の英雄録に基づき四人を同時に召喚するものである。高い金を払って魔術師たちを集めたのだ。失敗は許されない。


「他国への報告もせねばなるまいな」


取らぬ狸の皮算用。まだ召喚されていないにもかかわらず勇者と言う自らの駒の価値に酔いしれていく。

そうこうしているうちに召喚の儀が始まった。


「おかしい!!途中まであった四人の力のうちの一人が妙にぶれている!!」

「なんだと!?」

「く…このままでは他の人間にも影響が!」

「…仕方ない。そのぶれた一人を切り離すんだ」

「しかしペトロフ様!それでは切り離した人間が!」

「全員そうなるよりはましだろう!はやくしろ!」

「は、はい!」


魔術師たちがぶれのある一人だけ転移陣から切り離す。異界から連れてきているので、途中で切り離せばどうなるのか…。運が良ければ転移前の世界、またはこちらの世界へと渡ることができる。渡れるだけで場所は海であったり火山であったりする可能性もあるが。運がなければ、世界と世界のはざまで永遠彷徨うことになってしまう。それを懸念したのだが、ペトロフのいう通り、全員を失うわけにはいけないのだ。

そして激しい光が一室に溢れ、しばらくはそれが続く。ややあって、光が収まり皆が目にしたものは


やはり、三人の人間だった





慎也が目を覚ますとそこは森の中だった。


「目を覚ましてこれって…テンプレから外れてんじゃねぇか!

っ……!い、いてぇ……」


車に轢かれた影響か全身が痛い。しばらく痛みに耐えていると、後ろの茂みが揺れ始める。


「ぐっ…こんな状況で…!!誰かいるのか!?」


返事がない。そられはつまり人間ではなく、野生生物の可能性があるというわけで


「ご、ゴブリンぐらいならなんと…か…」


ゴブリンくらいなら何とか倒せるかも。そう言おうとして茂みを見て愕然とする。慎也の目の前には日本の大型犬をふた回りも大きくした一匹のオオカミがいた。


「っ……!」


慎也は絶望した。恐らく異世界であろうここに来たことはまだよかった。車に轢かれたのもまだいい、深刻なダメージは多分ない。

しかし、今の状況で自分を守ってくれるものはなく、しかも森の中。人知れず死んだとしてもおかしくないのである。

そんな慎也を一瞥する狼。少しずつ近づいてくる。

慎也は一歩ずつ確実に迫ってくる死に恐怖した。


「い、いやだ!死にたくない!死にたくねえよ!くるんじゃねぇ!」


言葉が通じることは無いと思いつつも叫ばずにはいられない。せめて、身体のダメージが無ければ走って逃げることくらいならできるのだがそれも出来ない。


「治れ!治れ!治れ!!」


慎也は必死に叫ぶ。心の底から生きたいと、死にたくないと思いながら。



ースキル「超速再生」を取得しましたー




「…へ?」


頭に響いた言葉に一瞬惚ける。今、頭になって響いたかを思い出す。


(スキル?…超速再生?)

「生きられるのか!?…ぎっ!?あ、熱い…!!」


そう叫んだ途端に身体が熱くなる。骨まで溶かすような熱が全身を包む。

それを見ていた巨狼がわずかに目を見開いた気がするがそれどころではない。身体の痛みが引いていくたびに身体が熱く、息が荒くなる。やがて、すべての痛みが治まると熱も引いていく。かわりに激しい頭痛が慎也を襲う。


「うっ!?ぐぁっ、あああああああ!!!」


急速に万力で潰されるような激しい頭痛に転がり回る慎也。やがて意識が遠くなっていく。そんななか慎也はみた。

近づいて慎也を咥えようとする狼の後ろに大きな怪物がいることに。

自分を狙っているというより、この狼を狙っているような視線。大きく振りかぶった右手には巨大な棍棒が握られていた。思わず慎也は呟いた。


「う、うしろ…逃げろ…」


狼はそういわれ、後ろを振り返る。すでに振り下ろされた棍棒を間一髪で避けて離れた場所に着地する。先ほどの棍棒の衝撃に今度こそ慎也は意識を手放した。





どっぷりと暗くなった夜の森に巨大な狼と慎也姿があった。慎也は未だに眠ったままである。


「起きろ」


そんな言葉を投げかけられ、慎也は目を覚ます。身体の痛みや頭痛はなく、ぼうっとするのは寝起きのせいか。

声のした方を見るとあの狼がいた。


「う、うわっ…」

「おちつけ、とって食ったりはせん」

「え、しゃべった…?狼が?」

「確かに私は狼の血を受け継いでいるが、狼ではない。詳しくは話さないが」

「そっか」

(俺の記憶が正しければ怪物に殺される一歩手前だったはず。てことは…)

「あんたが俺を助けてくれたのか?」

「ああ、そうだ」

「すまん、助かった」

「気にするな、借りを返しただけのことだ」

「借り?」

「お前が教えてくれなければ今頃俺は死んでいた」

「ああ、あの怪物か」


思い出すのは異様な巨人。赤黒い肌に二本の角、そして巨大な棍棒。そこから導き出されるのは


「あれは、オーガか?」

「ああ、あの強さを見るにBランク相当だと思う」

「Bランク?…それってやっぱり強いのか?」


魔物には冒険者ギルド(やっぱりあったんだ)で定められた強さのランキングがあり、SSS〜Fランクまでが存在する。一般的に一人前の冒険者が一人で討伐するレベルがDランク。それ以上になるとパーティが推奨される。

Bランクとは、二つのBランクパーティが力を合わせてなんとか倒すことができる強さである。そこまで話を聞いてふと疑問に思う。


「なぁ、なんでお前が冒険者ギルドのことなんてしってるんだ?」

「ああ、それは私がギルドのある町に住んでいたからだ」

「え!その身体で!?」


慎也の驚きはもっともで、話せるといっても姿は狼なのだ。町へ入れば大騒動になるのではないか。

そんな疑問は狼の発言で解決された。


「私は人になることができる。野生で生きる上で一番の脅威は人間の知性だ。それを学ぶためにポートレスという町で生活していた。」

「まじか」

「まじ…?なんだその言葉は」

「え?ああ、本当かって意味だよ」

「む、疑っているのか?ならば見せてやろう!」


そう言うなり、狼が光りだした。光る物体が一度完全に球体になる。そして、人の形になっていく。そんななか慎也が考えていたことは


(大体異世界で出会ったモンスターで人型になるやつってロリ少女じゃね?ドラゴンとか。もしくは巨乳のお姉さんで年齢は300歳だったり…)


完全に現代日本のサブカルチャーに毒されていた。そんな事を考えていると狼の光が薄れはじめる。


(俺的には巨乳のお姉さんがいいなー。ロリは守備範囲じゃないし…


「待たせたな」


…かといって同い年は…え?有りじゃね?…てか、狼の寿命って…


「おい?」


…んーやっぱり犬と同じなのか?…なら何歳だ?…5歳くらいか?…え、結局ロリ…


「おい!」


ゴツン!


「やっぱロリ…いた!?」


物思いにふけっていた慎也に鉄拳が降ろされる。そして文句を言うために相手を見る。


「いっ……!!何しゃがんだ!…よ…?」


絶句した。


「ん?なんだ?私の顔に何か付いているか?」


慎也が見たものはまごう事なき男の裸(・・・)だった。30代ほどで髪は短く整っている。端正な顔立ちで輪郭には不潔さを感じさせない髭があり首から下は、しっかりと鍛えられているのがわかる筋肉と狼の名残なのか所々にまとまって生えている毛。尻からは尻尾が生えており、狼の獣人といってもいい状態である。因みに犬耳はある(誠に遺憾ながら)

くまなく全身をチェックしてしまったため、股間にぶら下がるモノをみた慎也は己の男としてのプライドがいとも簡単に砕けた。

この日最大の絶望が、慎也を襲った。


「殺してくれ…」

「む、どうした?大丈夫か」

「は、裸で近寄るんじゃねぇ!!」

「夜の森で大声は感心しないな」

「とにかく服をきろおおおおおお!!!」

「布を持っていない」

「誰か助けてくれええええ!!!」

「私がいるぞ安心しろ」






馬並みだった。

私は中学の修学旅行で絶望しました。

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