願いをかなえる魔法の翼
暑い砂漠の国に、なんでも持っている裕福な王様がいました。
王様のほしいものは、どんなものでも手に入れることができます。
しかし、いつも何か物足りないと感じていました。
ある日王様は考えました。
『わたしは、ほしいものはすべて手に入れた。
この砂漠の国にいるのは、もう飽きた。
そうだ! わたしの知らない、いろいろなところに行くことができる魔法がほしいぞ』
やがて、国中の魔法使いが集められましたが、
王様の願いをかなえる魔法を知っているものは、だれもいませんでした。
あきらめられない王様は、遠い東の国にも使者をつかわして
願いをかなえる魔法を知っているものを探させました。
やがて、東の果ての国から、ひとりのまじない師が連れて来られました。
まじない師は、王様に言いました。
「千の種類の鳥を集め、その羽を一枚ずつ抜いて、ひとつがいの翼を作るのです。
その翼を付ければ、自分が望んだところにどこでも飛んでいくことができるのです」
さっそく王様は、さまざまな種類の鳥を集めさせました。
しかし、国の中だけでは、千の種類の鳥など、とても集められません。
遠い国からやってくるキャラバンや、旅芸人にもおふれを出して、
世界中の鳥を集めさせたのです。
その中に、傷ついた大きな白鳥がいました……。
王様の娘は、傷ついた白鳥やとらわれた鳥たちを見て、こころを痛めました。
召使いたちが、鳥たちの羽を一枚ずつ抜いていきます。
集めた鳥の羽は、つぎつぎと翼の形にぬい合わされていき、
魔法の翼は、あと一枚の羽をたせば、できあがることになりました。
あと一枚は、傷ついた白鳥の羽です。
しかし、弱っている白鳥の羽を抜いたら、白鳥は死んでしまうでしょう。
お姫様は、こっそり白鳥を連れて、自分の部屋に隠しました。
その晩、白鳥を抱きかかえて眠るお姫様の夢の中に、美しい北の国の風景があらわれました。
あたり一面、真っ白な大地。
暗い夜空に、無数の星が光り、天高く光のカーテンが揺れています。
白鳥のふるさとの美しい景色を夢に見たお姫様は、
なんとかして白鳥をふるさとに帰してあげたくなりました。
ある日、お姫様は、魔法の羽を盗み出し、鳥たちをすべて逃がしてしまいました。
魔法の翼で、白鳥を北の国に送り届けてあげようと考えたお姫様は、
翼を背中につけると、白鳥を抱きかかえて、夢で見た北の国の風景を思い浮かべました。
「北の国の、光のカーテンの下に連れていっておくれ!」
すると、お姫様と白鳥は、空高く舞い上がりました。
砂漠と海と山と森を越えて、
あと少しで北の国に着くというとき、
力をなくした翼は、お姫様と白鳥を、深い森の中に下ろしてしまいました。
翼は、羽が一枚たりないために、お姫様の願った場所まで飛ぶことができなかったのです。
お姫様は、白鳥を背負って、北の国を目指しました。
しかし、暑い国に育ったお姫様には、北の森の寒さはつらいものでした。
いくらも行かないうちに、お姫様は動けなくなってしまいました。
白鳥は、お姫様に言いました。
「私を助けてくれてありがとう。
北の国の近くまで来ることができて、よかった。
もう、砂漠の国に帰ってください」
そして自分の羽を抜くと、魔法の羽に差込みました。
弱っていた白鳥は、そのまま息絶えてしまったのです。
白鳥が残してくれた翼をつけて、砂漠の国を思うと、
翼は一気にお姫様を砂漠の国に連れて戻してくれました。
砂漠に帰ったお姫様は、それから、ただただ、北の空を眺めて悲しみ続けました。
やがて、お姫様の姿は、『砂漠のバラ』ととばれる美しい石になってしまいました。
王様は、ひどく悲しみました。
魔法の翼にもう用はありません。
「好きなところに飛んでおいき」と言うと、魔法の翼はどこへともなく飛び去ってしまいました。
王様が『砂漠のバラ』をそっとだき抱えると、
北の広い森の中や、白い雪原や、夜空に浮かぶ光のカーテンが目にうかびました。
お姫様は、白鳥を思って、石になっても北の風景を思い浮かべているのでしょう。
~おわり~