目覚める龍 4
朝食後、学院生活が本格的に始まった
講師は昨日門で到着順を確認していた女性だった
「皆さん、おはようございます
昨日は十分楽しめましたか?
学院では大きいイベントは少ないので、機会をしっかりと活かして下さい
申し遅れましたが、私は相田 麻美と言います
皆さんの担任兼基礎学の担当をして行きます
どうぞ、よろしく」
相田は軽く挨拶すると教本を開いた
「では、さっそく授業を開始します
教本、2ページ『マジックとロジック』
ここには皆さんが知っているマジックとロジックの説明が書かれています
おそらく、大部分の人は両方使えるかと思いますが、確認の意味を兼ねて進めて行きます」
2ページ マジックとロジック
マジックとロジックは形の違う奇跡である
マジックは、己の生まれ持った属性を操るものであり、ロジックよりも強力かつ自由度が高い場合が多い
一方、ロジックは組み上げられた術式にエネルギーを通わせることで発動し、決められた現象を生み出すものである
「はい、これを読む限りロジックがいらないと思われがちですが、優秀なウィザードほどロジックを上手く扱っているものです
まず、ロジックの利点として決められた方向性にエネルギーが向けられているため、燃費が良いと言えます
例えば、火の属性を持ったA君がマジックの火で周囲を照らす際に10の力を使ったとしましょう
ですが、同じA君がロジックで周りを同じくらいの明るさで照らした時の力の消費は3〜5です
これは術式にもよりますが、ロジックは『明るさ』だけを求めているのに対して、マジックは『明るさ』の他に熱量や実体を発生させている分エネルギーを消費してしまいます
次に、ロジックについて少し掘り下げてみましょう
110ページ ロジックの種類を開きなさい」
110ページ ロジックの種類
ロジックには古今東西様々な種類があり、その血脈秘伝のものや暗号化されたロジックなど様々である
東洋では昔から型や印などのファクターを使用することが多く、例えば『忍術』は指で印を作り、それを鍵として体内に保管してあるロジックを起動させる
また、西洋はルーンや詠唱を使うことが多く
『黒魔術』は、外部媒体として魔術書を持ち、詠唱を唱えることでロジックを発生させる
代表的なロジックとしては下記の通りである
東洋式
忍術、仙術、妖術、舞踏
西洋式
黒魔術、白魔術、ルーン、錬金術、召喚術
「無論、他にもありますがあくまでも例ですので気にしないでください
さて、ここまでロジック万能説を唱えてきましたが、そんなことはありません
ロジックには自分の属性と離れるほど習得は難しくなります
例えば、水属性のB君が明かりを灯すロジックを覚えようとした場合、火属性のA君と比べ、約倍の労力がかかると言われています
また、自分にあわないロジックを習得したとしても燃費が悪るいなどのマイナス要素も出てきます」
相田の授業は昼のチャイムが鳴るまで続いた
午前座学、午後実技のカリキュラムを消化し、放課後になった
この時間帯は基本的に自由な時間なのだが、規則の一つに南棟に所属する者は放課後の修練を行う際、何らかのクラブに所属し、監督者の元で励むことと決められている
監督者は、北棟の生徒のみがなること許可されている
現在、学院には五つのクラブが存在する
まず、最大派閥である序列第三位 赤木 静環 (あかぎ せいかん)書記長を監督者とするロジック系クラブ「和同」
二回生、序列第五位 雷門 理恵 (らいもん りえ)会計長が監督するマジック系クラブ「ソーサリー」は、マジックを主体とする生徒に人気だ
金属系の属性をもつ者にとってカリスマ的人気を持つ序列第九位 シルバークレイマー 羽振 銀次 (はぶり ぎんじ) はマジック系クラブ「アトラス」の監督者を務める
革新的なロジックを求める求道者、序列第十位 鏡 譲治 (かがみ じょうじ)はロジック系クラブ「境界」の監督者を務める
そして、最後のクラブは登録者数1名の監督者しかいないクラブ「一」
その監督者は序列第一位 宮本 一 会長が務めており、どこでいつ行われているのかも公表されていない謎のクラブだった
「さて、クラブどうするよ?」
部屋に戻ると景都が訊ねてきた
「…………どうするかな」
「お前は和同か境界か?」
「…いや、正直そのどちらにも興味がわかない
出来ることなら一人でやっていたいんだが…」
「ここは規則がある程度緩い分、それを破ると罰則は重いからな…
それに慣例として新入生は全員、何らかのクラブにはいることになっているらしいし…下手に入らないと講師からの視線も面倒だぞ」
「…そういうお前はどうするんだ?」
「俺か?
俺は…まぁ、普通に考えればソーサリー何だけどよ」
景都がへへへと笑っているを見て、何を考えているかわかった
「……一か」
「流石!
それでさ、お前も悩んでいるなら探してみないか?」
「探す?」
「そう、規則の中にクラブは原則、学業後に開催すること
もし、開催できない場合は生徒会室前に設けられた監督するクラブの札を裏にすることっていうのがある
そして、クラブが一週間以上開催されない場合は廃止とし、それ以降のその生徒を監督者とするクラブの設立を認めないとある
つまり、一週間に一回は必ず何処かでやっているはず」
「…そうだな、どんなものか見て見るのも悪くないな」
二人は部屋を出て生徒会室へ向かった
生徒会室につくと中から彩佳と詩織が出て来た
「よっ、何してんの?」
景都が話しかけた
「何って…仮入部申請書を提出してきたの
これがないとクラブに参加出来ないから
あなた達は違うの?」
「俺らはちょっと野暮用で」
「あらそう
なら、胡座をかいてのんびりしているといいわ」
彩佳はツンツンとした雰囲気で歩き出した
「…どうかしたか?」
詩織に訊ねる
「この間の入学試験の順位が実家にばれて小言を言われたみたい」
「大変だねぇ…」
「じゃぁ、私もクラブに行くから…またね」
詩織も何やら緊張した感じでその場を去って行った
「やつも何か言われたみたいだな」
「考えても仕方ないでしょ
とりあえず、札は………やってることになっている
さて、校舎を組まなく探すと晩飯に間に合うかが怪しい
こういう時は?」
「知っている人間に聞く…か?」
その通りと言いながら景都はノックして生徒会室に入った
「失礼しまーす」
中に入ると二人の男が話していた
一人は高橋、もう一人は190センチくらいの赤い髪の髪の男だった
「新入生か、何か用か?」
「すみません、副会長
少しよろしいですか?」
高橋はこちらに気づくと立ち上がって入り口まで来た
「何の用?
轟君、黒田君」
「単刀直入に用件だけ、クラブ一の活動場所を教えてもらえませんか?」
「あいつならここの屋上にいるはずだよ」
高橋はすんなり、場所を教えてくれた
「ありがとうございます
…お時間を取らせてしまいました、失礼します」
二人が出ていくと赤髪の男が口を開いた
「あいつに師事する気なのか?」
「さぁ?
あいつはめんどくさがりだからね」
全くだと赤髪の男は頷く
「でも…あの二人なら気に入られるかもね」
高橋に言われたとおり、屋上へ行くと一人の男が目を閉じて正座で座っていた
その男は何か特別なことをしていたわけでもなく
その男は雅也達の存在に反応するわけでもなく
その男はただそこいた
この人…
………無想に入っているのか
無想
文字通り、何も思わないこと
それは言うが易し
雑念を取り払い、取り払うということすら取り払い、考えないということを考えない
雅也は男のように座ると目を閉じた
景都もまたそれに習い座って目を閉じた
それから三十分後…
二人の額にはびっしりと汗が滲み出ていた
無想にはいるためには高い集中力が必要となり、そこ入っている間はその集中力を持続しなければならないため、夢想がきれ始めるに連れて疲労が体にのしかかってくる
先に根をあげたのは景都だった
毛糸は崩れるように地面に転がり、目を開いた
雅也も額には大粒の汗をかきながら、疲労と戦っていた
…………パチンッ!
そこに大きな手を叩く音が響いた
すると雅也は夢想を解いて目を開いた
「中々の集中力だった」
その人は俺の目の前でこちらを観察するように立っていた
「見ない顔だな…新入生か?」
「はい、黒田と言います
そっちの寝ているのは轟です」
寝ているのではなく、転がっているのだが大差がない景都をよそに男は思い出すかのように頭をかく
「黒田と轟………ああ、試験でNo.1、2のか
大介が大層気に入っていたぞ
それでその二人がここに何の用だ?」
「会長のクラブにいれて頂きたく、副会長に場所を聞いてきた次第です」
「ああ、構わんが…
言っておくが違うクラブがいいかもしれんぞ?」
会長そういうと景都が疑問の表情を浮かべる
「お前達は何代も続く家系のウィザードだろう?
俺は偶然異能な力に目覚めただけで、そう言った知識はお前等以下だからな
総合評価であれば、大介がはるかに上を行く」
「でも、会長は序列一位ではないですか」
「まぁな、それはこの学院が結果重視で知識よりも力を優先する方針だかだろうよ
それで、前置きが長くなったが…どうするんだ?
はっきり言って監督者として指導は出来ない
出来ることは場所を提供するくらいだ」
二人は顔を見合わせることなく、同時に頷いた
「「よろしくおねがいします」」
「………よし、それなら好きにしろ」
会長はポケットからメモを取り出すと何やら書き込み始めた
「これを明日生徒会に出して来い
これは仮入部許可証だ
ああ、知っていると思うが俺は生徒会長の宮本 一 (みやもと はじめ)だ
明日からもよろしくな」
会長はそういうと階段を下って行った