不意に襲う無重量
「やあ、やっと来れたよ」
聞き覚えのある声が、はっきりと窓の外から聞こえる。
羊飼いのおじさんだ。
「ハマルさん。待っていましたよ」
「これで3人目だ。やれやれ」
宙に浮かびながら、ハマルさんが教えてくれる。
私以外の物も、家に固定をされていない物は、一緒に浮き上がっている。
下の方から悲鳴が聞こえてくるのは、娘さんが浮かんでいるからだろう。
「でも、私の居場所がよく分かりましたね」
「そりゃ、私は羊飼いだからね。羊はどこに逃げても分かるようにしておかないと」
「はぁ」
そんな適当な答えしかできなかった。
そのとき、どうにかして私の部屋にたどり着いた娘さんが、ドアにしがみつきながら私を見た。
「だれ!」
「私の友達、かな」
「ねえ、あなた、何者なの?」
私は窓へとたどり着くと、窓を大きく開け放つ。
娘さんへをちらっと見ると、その目は驚愕で見開かれていた。
「私は天界の渡し守。こっちの世界に遊びに来た時には、案内するわね」
娘さんがどう思って聞いたかは分からない。
ただ、娘さんから見て、月へ向かって飛んで行ったように見えただろう。
私は別れをこれだけしか言えなくて、すこし残念だった。
だが、今は戻ることを最優先にすべきだろう。
それまで、再び会うことを目指して、待つしかない。