映画
『で?結局どうすんの?』
「話をつける。親分の親のヤクザ軍団に。それが無理だったら、制裁を加える。私の全てをかけてね…」
一人の少女が、ヤクザの一グループを相手にしようとしている。
どう考えても普通な状況などではないが、
『ま、正直な話、君ならやりかねないけどね……』
浩はそう言った……。
「美結……。大丈夫なの?」
「ん?何が?」
「何もない?」
「どういう意味?」
「だって……。親分に…何も……されてない?」
「あ、うん。机の中に、『昼間になったらいつもの場所に来い』っていう置き手紙があったくらいかな?」
「…………行くの?」
「うん。行くよ。だって、春菜の家族と、あなた自身のためだしね」
「……ありがとう……。
でも…、
今すぐに来るように伝えろって……さっき…親分に……」
「言われたの…?」
「……そうよ」
「………全く。私に直接、言えばいいのに…っ」
凜は座っていた席を外し、外に、人の通りが少ない、溜まり場へとやって来た……。
「来たな…美結ちゃ〜ん」
「で?何のようですか…?」
「大した用事じゃない。一緒に遊ぼうぜ?授業さぼってよ〜」
「用件はそれだけ?」
「あぁ。で?行くか?行かないのか?」
「行かないって言っても、無理矢理連れて行くでしょ?だったら、行くわ……。私は暴力を振るわれたくないから」
凜は着いていく決心をしたのだった……。
「どこに行くの?」
「映画行こうぜ、映画」
「映画…?」
「ヤンキーの溜まり場とかにでも行くと思ってた?そんなとこには行かねぇよ…。だってお前は俺だけのものだからな。他のやつに見られたくはないね」
「……(何その独占欲……)」
本当に彼らは映画を見にいった。
親分はやはり相当すごいヤクザの人間らしく、映画館の無料招待状を十数枚持ち合わせていた。
確かこういうのは、株主とか、特別な待遇者とかそういうのじゃないともらえないと思うんだが……。
「へへへへ。映画をただで見られるなんざ、俺らぐらいのもんだからな」
「……どうして?」
「それは家庭的な事情さ。詳しくは教えられねーけどよ。で?何の映画を見るんだ?」
「…………『サマー・ライジング』って映画、おもしろそう」
「『サマー・ライジング』って……アニメ映画じゃ…」
「だって、この映画の監督が、めちゃくちゃすごい人で、何回も名作を産み出してる巨匠なの。特に前回作った、『時をかえる少年』って映画がすっごく人気だったから……」
「おい…、美結が何言ってたかわかるか?」
「いや……、全く」
そうそう、いい忘れてた……。
凜はアニメ映画が大好きで、オタクのような節がある。
別に大したことじゃないが、さっきの説明は、美結としてではなく、凜としての素であった…。
『まさか…凜、本気で見るつもり?』
「だって…、見たかったし……。映画がただで見られるんだよ?ただで。見ないわけにはいかないでしょ?」
凜、声がかなり楽しそうなんだが……。
「もしものときはちゃんと動くから」
そうは言ったが……正直なところ不安で仕方がないんだ……俺は。