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  作者: 牧村エイリ
3/3

最後の仕事

「この国の行き末を考え、我々は一つにならなければならない!その為には、無能な幕府ではなく、天子さまを」


茶屋の二階で、密会する地方から来た武士達。


その部屋の戸を開けたのは、数人の子供達であった。


彼らの手には、銃が握られていた。


子供でも、人を殺せる武器として。






「太平の世を数百年保ち続けた我々が、終わる訳はない。そう思わぬか?平治」


役所に戻り、笠を脱いだ武士に、上司がきいた。


「…」


平治はこたえない。


「我々は、いつも通りすればよい。道具は、ある。やつらは何人でもおる」


上司はにやりと笑い、


「我々はただ、道具を使い、始末させるだけだ」


平治に向かって歩き出した。


「そう言えば、1人…。使用期限の切れる道具があるようだな」


そばで足を止めると、平治の耳元で言った。


「破棄しろ。道具は道具のままでいなければならない。それは、お前もわかっているはずだ」


「はい」


平治は頷いた。






「名前ねえ〜」


あきは、悩んでいた。


『俺の名前は、確か…秋につけたからだったな』


手を繋ぐ子供を見下ろし、


『今、秋だしな…。同じようにはつけれねえなあ』


ため息をついた。


「アンちゃん。でっかい船!」


次の仕事の命があるまで、2人は海が見える丘まで来ていた。


「あの船は、どこにいくの?」


子供の質問に、あきは適当にこたえた。


「異国じゃないか」


「異国ってどこ?おいらもいけるのか?」


目を輝かせ、船を見つめる子供に、あきは嘘をついた。


「ああ…。大きくなったらな」


「じゃあ。いっしょにいこうね。アンちゃん」


子供は、にこりと笑った。



「あき」


船を見つめる2人の後ろに、笠を被った平治が姿を見せた。


「名前を決めたか?」


平治は、幸せそうな2人の背中に目を細めた。


「おっさんか」


あきは振り返り、


「まだだ」


とこたえた。


「じゃ…」


平治は笠に手をやると、さらに深く被り、


「今すぐつけろ。それが、最後の仕事になる」


目を地面にやった。


すると、それが合図となり、あきの周りから数人の武士が姿を見せた。


そして、二人の武士が近づき、戸惑うあきの手から、子供を引き離した。


「おっさん!なんだ、これは!?」


「アンちゃん!」


引き離された子供は、他の武士によって、平治のもとに連れて来られた。


平治は、包みを子供に渡した。


「アンちゃんと仕事の話がある。これを食べて、お前は待っていろ。すぐに迎えに来るからな」


そして、子供の頭を撫でる平治の姿を見て、あきは大きく目を見開いた。


「思い出した!」


最後に見た名付け親の姿。


あの時、握り飯を貰ったのは、自分であったと。


「待て!」


武士に手を引かれ、遠ざかっていく子供を見ながら、走り出そうとするあきに、平治は静かに銃口を向けた。


「名前を決めるまで、待ってやる。あき」


「お、おっさん!」


「お前の名付け親も最後まで、決めれなかったな」


平治は、無理に笑った。


「あ!」


あきは、思い出した。


『あいつより、長生きしろよ。あき』


そう自分に言ったのは、名付け親ではなかった。


平治であったのだ。


あきという名前の由来を、自分に教えてくれたのも、平治であった。


「おっさん!」


あきも銃を取りだし、平治に向けた。


その動きを見て、刀に手をかける周りの武士に、平治は言った。


「やめろ。こいつは撃てない」


「撃てるぜ!」


あきは、平治を睨んだ。


「子供はどうする?」


「な!」


「自分はどうなっても、構わない。しかし、子供はどうする?」


平治は敢えて、銃口をおろした。


「な、何だと!?」


あきは絶句した。


「お前達に何故、幼い子供がつけられるのか。その理由の一つは、幼き頃から、殺しを学び、抵抗力をなくす意味がある。もう一つは、お前達に対してだ。もし、我々を裏切る場合に、子供は人質になる」


「俺は、あんたらを裏切ったか?」


あきの手が、震えた。


「十六までと、期間が決められている。幼き頃から、殺しをしているお前達は、危険だ。だからこそ、自我が芽生え、我々に逆らう前に、処分する。それが決まりになっている」


平治は、淡々とこたえた。


「おっさん!」


「早く名前をつけてやれ!」


平治は再び、銃口を上げた。


「こうやって、俺の親も殺したのか!」


あきの目から、涙が流れた。


「そうだ」


「俺達は、何だ!」


「道具だ。幕府を…徳川の世を支える為のな」


「ふざけるな!」


引き金を引こうとするが、あきの脳裏に、子供の笑顔が浮かんだ。


「あき…。早くしろ」


平治は、ゆっくりとあきに近付いていく。


「おっさん…。だったら、俺に言った…長生きしろは、なんだったんだよ」


あきは、涙の為に、平治の姿がぼやけて見えた。


「それは、俺とあいつの願いだった。しかし、俺は…役人だ。徳川の世を守らなければならない」


「く、くそ」


あきは、銃口を下ろした。


「名前を決めろ」


「名前は、かいだ!海と書いてな!」


あきは、覚悟を決めた。


「いい名だ」


平治は微笑み、引き金を引いた。


「く、くそ!海!」


銃声が響いた。




それも二発。


「え」


あきは、痛みのないことに気付いた。


「生きろ!あき!」


平治が撃ったのは、あきのそばにいた武士達だった。


「海といっしょにな!」


平治は、周りにいる他の武士に銃口を向けた。


「おっさん!」


あきは、顔を上げた。


そして、反射的に状況を理解したあきは、銃口を武士に向け、発砲した。


「ここはいい!海のもとにいけ!」


「おっさん!」


あきは発砲しながら、海のもとに走った。


少し離れた場所で、1人の見張りとともにいる海の姿を見つけ、あきは何度も引き金を引いた。


「アンちゃん!」


見張りを殺すと、あきは海を抱きしめた。


「お前は、今日から海だ。お前の名前だ」


「海?」


握り飯を頬張りながら、首を傾げる海の頭を撫でると、あきは命じた。


「この辺で隠れていろ!アンちゃんは、やることがある!」


そして、平治のもとに戻った。





「裏切りものが!」


銃を撃ちつくし、刀に変えた平治を、四方から斬りつける武士達。


「おっさん!」


駆け付けたあきは、正確に武士達の頭を撃ち抜いた。


1人を一発で始末するあきの腕前を見て、血塗れの平治はフッと笑った。


「流石だな」


ゆっくりとその場で、崩れ落ちる平治のそばに、あきが駆け寄った時には、敵は全滅していた。


「おっさん!」


倒れた自分を抱き上げるあきに、平治は微笑んだ。


「本当は…お前の親の時もしたかった。しかし、俺は役人だ」


「おっさん!」


「だが…時代が変わる。もうすぐ、お前らの用な道具はいらなくなる」


「どうして、俺を…助けた」


「幕府内は今、疑念の嵐になっている。道具に名前をつけさせる俺も…おかしな目で見られていた。近い内に、俺も…うっ」


平治は、血を吐いた。


「おっさん!」


「あき…。江戸から離れろ」


「おっさん!も、もしかしたら…あきって名前は…」


「俺は学がないな…。そんなのしか思い浮かばなかった」


平治は最後の力で、あきの頬に手を伸ばし、


「でも、いい季節だ。来年もきっとな…。長生きしろ」


笑いながら、息を引き取った。


「お、おっさん!」


あきは、平治の体を抱き締めた。


涙は枯れていたが、心の中の涙は止まる事がなかった。






「アンちゃん」


数分後、海のもとに戻ったあきは、銃を渡した。


それは、平治が持っていたものだった。


「こいつは、生きる為の道具だ。俺達が生きる為のな」


あきは、銃を海の懐にしまわせると、手を取った。


「だが、俺達は、道具じゃねえ」


「アンちゃん?」


海は、首を傾げた。


「行くぞ!」


「どこにいくの?」


「そうだな」


あきは、前を見つめ、


「海の向こうでもいくか」


微笑んだ。


「船でか!」


目が輝く海。



その後、彼らがどうなったのはかは、わからない。


しかし、道具でなくなった彼らが、どうなろうか…。


それは、自由である。



終わり。

月下の契りに続く、時代もの第二弾は、ぺっという店で構想を思いつきました。奇しくもママの誕生日!お誕生日にプレゼントになりました。言葉使い等、時代を考えたら間違っているかもしれませんが、よろしくお願いします。

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