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  作者: 牧村エイリ
2/3

追憶

「父ちゃん!」


「父ちゃんと呼ぶな!アンちゃんと呼べ!」


と幼いあきに言ったのは、彼の名付け親であった男であった。




「アンちゃん…」


夜。適当な寝床を確保し、2人は横になっていた。


自分に寄り添いながら眠る子供の寝息を確認しながら、あきは自分に与えられた銃を見つめていた。


その銃は、幕府の重要機密であり、かつ…あきの名付け親から受け継いだものだった。


重要機密であるが故に、その銃には、自爆ボタンがあった。


どうしても守れない時は、銃は破壊しなければならなかった。


あきは、銃口を月に向けながら、じっと押し黙っていた。


名付け親は、あきという名前をくれた後に、死んだ。


その時の記憶はない。


しかし、銃を最後に渡してくれたことだけは覚えていた。


そして、最後の言葉も…。


「XXXより…長生きしろよ。あき」


しかし、その最後の言葉を覚えているのに、その時の名付け親の顔だけがぼやけていた。





「ああ…」


あきは、引き金に指をかけると、頷いた。


「心配するな。もうすぐ、アンちゃんより、長生きになるよ」


自然と微笑むと、あきは銃を懐にしまい、起き上がった。


仕事の時間である。





夜が明けた。


「アンちゃん」


子供のそばには、いつのように、あきが眠っていた。





「このところ、幕府の要人が殺される事件が多発している。その動きから見て、下手人は1人ではありません。何故、野放しにされているのですか?」


江戸城の松の廊下を歩く旗本は、前を歩く上司にきいた。


上司は目を細めると、


「野放しではない。だが…止まることはないのかもしれぬな」


外に目をやった。


「流れはな」





「アンちゃん」


町の外れを歩く武士。


その前から、あきと子供は手を繋いで歩いてくる。


薄汚れた2人の子供を、武士は少し顔をしかめた後、気にすることなく、歩き続けた。


当然のこととして、あき達は、武士に道を譲った。


端によけ、武士が通り過ぎた瞬間、あきは懐から銃を取りだし、頭に向けて、引き金を引いた。


頭を狙う撃ち方は、あきの名付け親の殺し方を見て、あきが自然と覚えたものだった。


殺した後は、あきは振り向かない。


子供の手を引き、歩き続けた。


今回は町中であった。


処理班はすぐに来る。


辻斬りとして、処理する為に。


外れを出ると、笠を被った武士がいた。


次の指令であった。


「…」


あきはそのまま、次の仕事に向かった。


「アンちゃん」


手を引かれながら、子供は言った。


「はらへった」






再び仕事を終えたあきの前に、また笠を被った武士が来た。


「忙しいな」


しかし、今度は仕事ではなかった。


武士とあき達は、町中を抜け、街道にある茶屋に向かった。


「名前は、決めたのか?」


「まだだ」


武士の問いに、あきは即答した。


隣では、子供が団子を頬張っていた。


「早くした方がいいぞ」


武士は、茶を啜った。


三人から少し離れた席に、女と男の町人がいた。


「聞いたかい?もうすぐ、異人が攻めてくるらしいよ。なのに、お上は及び腰らしいよ」

「しっ!」


女の話を、男は人差し指を立てて、止めた。


そして、目で遠くの席に座る武士の背中を示した。


「名前は、残る。証しとしてな」


武士はそう言うと、じゃり銭を席に起き、そのまま茶屋から離れた。


「名前ねえ」


あきは、ため息をついた。


「アンちゃん」


団子を食べ終わった子供がきいた。


「名前って何だ?食べものか」





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