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HAPPY CLOVER  作者: 北館由麻
夏休みの魔物
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 人間の目には限度がある。


 目の悪い私ですら、視力を矯正すれば世界の全てが見えると思っていたが、それは全くの思い上がりで、人間の目に映るものはごく限られた光彩の情報でしかない。


 なんて言いながらも、実は人間の目のしくみを正確に理解しているわけではなくて、単に清水くんの話の受け売りだったりする。


 何気なく始まる清水くんの話はいつも面白い。話題は様々で、たぶんそのとき心に浮かんだことを思いつくままに喋っているのだと思うが、彼の守備範囲の広さには本当に驚かされる。


 しかし今まで読書が友達のような生活をしていた私にとって、人と会話するということは少し面倒で億劫だったのに、最近この何気ない会話が楽しくて変な気分だった。


 だって本は、いつどこで開いても同じことしか語りかけてこないけれども、清水くんとの会話は、そのときその場所でしか起こりえない、いわばライブなわけで、しかもそれは彼と私の限定ライブなわけだ。


 清水くんと私にはほとんど共通点がないと思うのだけど、二人で話をしているとなぜか心地よい。だからつい私はもっと彼と話をしたいと思ってしまう。そう思う自分がやはり変だと思う。


 変だと思うけどやめられない。


 これでもし、急に清水くんと別れるようなことになったら、私はどうなってしまうのか。いや、どうにもならないだろうけど、また一人で本を読むだけの生活に戻ることなどできるのだろうか、と不安になるのだ。


 読書は楽しい。でも読書をしているだけだと、たとえ百冊、いや千冊読もうが、どこまで行っても一人だ。


「ねぇ、どうしてここはこうなるの?」


 と聞いても誰も答えてはくれないだろう。


 ――誰かと付き合うってこういうことか。


 そんな重い実感を噛み締めながら、私は今日も夏期講習へと出かけた。






 講習日程も残り少なくなってきた。始まる前は一週間の講習なんて長いな、と思っていたけど、講義内容に満足しているせいか、今は終わってしまうのが惜しい気がしている。


 今日は土曜日。講習は日曜日で終わる。


 いつものように電車で清水くんと一緒にS市までやって来たのだが、私の心の中はいつもとは少し違ってあたふたしていた。


 さすがに清水くんは鋭い。電車を降りて駅の構内歩いていると、隣から「それで?」と唐突に問われた。


「さっきからそわそわして落ち着きないけど、どうした?」


 私は清水くんの顔を見上げた。歩くスピードが落ちる。


「あの、今日は土曜日で」


「うん」


「講習が終わる頃、母が迎えに来るって」


「ああ、了解」


 なんだそんなことか、という表情で清水くんは前を向こうとした。私は思わず彼の腕を引っ張る。


「それで、伯母の家に行って泊まることに……」


「え!?」


 私の声は情けないくらいか細くなり、逆に清水くんの声は周囲の視線を集めるくらい大きかった。


 ――行きたいって言ったわけじゃないんだよ。私はやめておこうって言ったんだよ!


 清水くんの顔が急に強張るのを見て、私は心の中で懸命に弁明する。


 そもそも伯母の家は父方の繋がりだ。私の母も伯母も高橋家からすると嫁になるわけで、仲が悪いわけではないが特筆するほど親密ではない。それに車で一時間半くらいの距離だから、今まで遊びに行っても泊まるようなことはなかったのだ。


 それがどういうわけか今回に限って「泊まる」という話になったらしい。まだ高校生の私には母の決めたことを完全に拒否できる権限はない。


 清水くんはしばらく私の顔を見ていたが、急に視線を外すとため息をついた。


「お母さんと一緒なんだよね?」


「勿論!」


 私は勢いよく答える。


「でも嫌だな」


 清水くんの心境がはっきりと伝わってくる一言だった。これで講習初日に諒一兄ちゃんが現れなかったら清水くんにこんな想いをさせずに済んだのに、と思う。


「あの諒一ってヤツもいるんでしょ?」


「たぶん。今、大学も夏休みだし」


「そういえば、あの人、どこの大学?」


「確か……あれ、どこだっけ?」


 私たちは改札をくぐり、駅を出て予備校へと近づいていた。


 この話題になってからずっと不機嫌だった清水くんがクスッと笑う。


「舞も忘れちゃうような大学?」


「いや、大学の名前とかあまり興味なくて。N大だったかなぁ」


 そう言った途端、清水くんは「ふーん」とわざとらしい相槌を打った。意外だと言いたげな顔をしている。


 N大は私が受験したい大学より少しランクが高いはずだ。でも疎い私は上位校の偏差値などいちいち覚えてはいない。


 ついでによく考えてみると、私は清水くんが志望する大学も知らないのだ。


 ――勝手に自分と同じ大学かと思い込んでいたけど、清水くんのレベルだったらもっと上……だよね。


 そう思った途端、私の胸の中にはナイフで抉ったような鋭い痛みが走る。


 しかも今更「志望大学は?」なんて聞きにくい。だけど彼女なのにそんな大事なことも知らないのは変じゃないか?


「まぁ、気をつけて」


 清水くんは諦めたようにそう言うと、私の背中をポンと叩いた。


 でも時間が止まったかのように私の頭の中はぼんやりしていた。じっと清水くんの顔を見てみるが、彼はただ不思議そうな顔をしているだけだった。


「ん? どうかした?」


「……いや、気をつけます。……って何を!?」


「『何を!?』じゃないだろ。諒一だよ、諒一!」


「ああ」


 一応、納得したように頷いたが、何を気をつけろというのだろう。私はほんの少し首を傾けた。


「何を気をつけなきゃいけないのか、よくわかんないけど」


「舞、それ本気で言ってる?」


 予備校の手前まで来て、清水くんは立ち止まった。私も仕方なく足を止めた。


「だって諒一兄ちゃんは従兄だし、私は清水くんと付き合っていて、そのことは諒一兄ちゃんも知ってるんだし」


「だから?」


 いかにも苛立たしいという口調だ。背中につめたい汗が垂れる。


「あの、何をそんなに心配……」


「心配するなっていうほうがおかしいよ」


 清水くんはきっぱりと言い切って私を一瞥すると、その場に固まっている私を振り切るように予備校の玄関前の階段を駆け上がっていった。


 ――怒らせちゃった……。


 何となくこんなことになるような気がして、母にやめようと懇願したのだが、結局全て最悪な方向に進んでいる。つくづく私は無力だと思う。


 ――でも心配するようなことなんか起こるわけないよ。


 万が一、諒一兄ちゃんに清水くんが心配するような下心があったとしても、母も一緒に伯母の家にいる限り、絶対大丈夫だと断言してもいいと思うのだが。


 何か釈然としない気分のまま、予備校の階段を一段ずつ踏みしめながら上がり、数学の授業を受けるためにとぼとぼと教室へ向かった。






 一人ぼっちの数学の授業が終わり、お昼になった。


 清水くんはまだ不機嫌だろうか。ため息をついて立ち上がる。気が重いと身体まで重く感じるものだな、と思いながら、とりあえずトイレに立ち寄った。


 沈んだ気分のせいか視線までも下向きだ。しかし女子トイレに入り、さすがに目を上げる。何しろ狭い空間だ。下ばかり向いていたら他人に迷惑をかける可能性が高い。


 それにトイレに入った瞬間、恋の悩みよりも、まずはお手洗いの任務を遂行するという本能のプログラムにスイッチが入ったと言うべきか。


 しかし、顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、洗面台のガラスに映る満面の笑みを浮かべたユウの姿だった。


 鏡の中のユウと一瞬目が合い、頭の中でバチッと音がする。我に返った私は何も見なかったようにそそくさと彼女の後ろを通り過ぎ、個室へと駆け込んだ。




 ――な、なんなんだ!?




 ドアの鍵をかけると、ユウが出て行ったと思われる足音がして、すぐにトイレ内には静寂が訪れた。


 首を傾げながら任務を遂行し個室を出ると、ユウが立っていた隣の洗面台で手を洗ってみた。それから鏡を見る。


 ユウは片手を後頭部に当ててポーズを取り、歯を見せて爽やかな笑顔を作っていた。まるでファッション雑誌のモデル気取りだった。


 ――でも、どうしてこんなところであんなポーズ?


 私は何の変哲もない四角い鏡を眺める。そこには不思議そうな顔をした自分が映っているだけだ。世の中にはいろんな人がいる。訳がわからないことだって一つや二つ存在するのは当然だ。


 だがしかし、ユウは私と目が合ってもその表情を変えず、むしろこのタイミングでトイレに入った私が悪いと言わんばかりの態度だった。それがすごいと思う。


 ――すごすぎてついていけない。


 S市の高校生はみんなあんなふうに自信満々でいるのだろうか。何だか妙な敗北感が私の胸の中に広がった。田舎出身者という心の底にある劣等感を笑われたような気がする。


 ――ま、いいや。


 壁に備え付けのエアータオルに手を突っ込んで、トイレを出た。


 田舎育ちで何が悪い、とも思う。どうせ都会育ちのお嬢様には自然の雄大さ、そして厳しさなどわからないでしょう、というひねくれた感情が湧いてくる。


 ロビーまで来て清水くんの姿が目に飛び込んでくると、私の心はまたしても鉛色に塗りつぶされた。深いため息をついて、自分を奮い立たせる。


「ねぇ、高橋さん」


 重い足取りで清水くんの元へ向かう私を、背後から誰かが呼び止めた。


 振り返るとユウがいた。一瞬、気まずくて目を逸らすが、ユウは全く動じていないので渋々視線を戻す。清水くんとユウに挟まれたこの状況はまさに四面楚歌だ。


「私もお昼、ご一緒してもいいかしら?」


 この前とは言葉遣いが全然違うな、と思いながら清水くんのほうをチラッと見る。彼は無表情でこちらへ近づいてきた。


「何?」


 やる気のなさそうな声だ。私に腹を立てているからか、ユウが絡んできたから機嫌が悪いのか、両方かもしれないが、とにかく面白くないという顔をしていた。


「私も一緒にご飯食べたいの。いいでしょ?」


「いいですよ。一緒に行きましょう!」


 私は思い切って返事をした。向かい側で清水くんが目をむいたが、気にしない。ユウは私の腕を掴んで先ほどとは全然違う自然な笑みを浮かべた。


「嬉しい! じゃあ食べに行こう! お腹空いたー!」


 明るい声を上げたユウは私の腕を掴んだまま歩き出した。清水くんも仕方なくついてくる。


 それから私たちはS駅構内のファストフード店へ直行した。昼時ということもあって混雑していたが、ユウが持ち前の強引さを遺憾なく発揮し、三人が座るテーブルは何とか確保される。


「私、高橋さんと話がしたかったの」


 ――え!?


 いきなり名指しされて胸がドキッとした。


 それからすぐに先ほどのトイレの一件を口止めする気か、と勘繰るが、まさか清水くんの前で自らあの話をするとは思えない。私は注意深くユウの次の言葉を待った。


「高橋さんって文系?」


「そうですけど」


「志望大学はどこ? H大?」


 ――いきなり核心をついてきたな……。


 そう思うと同時に清水くんが「おい」とユウをたしなめるような声を上げた。


「そんなことお前に関係ないだろ」


「私は高橋さんに聞いてるんだけど」


 ユウは強気だ。彼女に怖いものなどないのだろう。その性格が少し羨ましいと思いながら、私は「まぁそんなところです」と返事をする。


「へぇ、それではるくんは迷ってるわけだ」


 ――迷ってる?


 私は清水くんの顔をチラッと見た。ちょうどサンドイッチにかじりつく瞬間で、小麦胚芽入りのパンの間から野菜やチキンがはみ出してくる。


「お前に関係ない」


 口をもぐもぐさせながら清水くんはそっけなく言った。


 彼の食べているサンドイッチのほうが美味しそうだな、と思いながら私もサンドイッチをほうばった。食べてみるとこれはこれで美味しい。


「関係なくはないでしょ。同じ医学部を目指してるんだから」


 ユウはそう言ってドリンクのストローをくわえる。




 ――同じ医学部……?




 ほんの一瞬だけパンをかじることを忘れて、私はあっけに取られていた。だが、すぐに平然と食事に専念するふりを努めた。頭の中のどこかが麻痺して脳の思考回路が働いていないのだが、自分でもどうにもできないのだ。


「医学部に決めたわけじゃない。それに俺がどこの大学を受験しようと、お前には関係ないって」


「それはそうかもしれないけど、気になるじゃない。ライバルとしては」


「いつから俺とお前がライバルになったんだよ」


「ていうか、どうしてS市の高校に進まなかったのよ!?」


 ――ホント、そうだよね。


 かねてから疑問に思っていたことをユウが口にしたので、私の脳は少しだけやる気を出したようだ。


 清水くんは相変わらずサンドイッチを食べる手を止めず、咀嚼する合間に面倒そうに答える。


「朝、早起きしたくないから」


 ――そんな理由ですか……。


 ユウも私と同じように思ったのか、少し口を尖らせてため息をついた。


「ね、高橋さんからも言ってよ。もっと上を狙える成績なんだから、挑戦しなさいって!」


 私はきょとんとしてユウを見返した。どうして私がそんなことを言わなければならないのだろう?


「挑戦?」


「だってはるくんが本気になれば最難関の大学だって狙えるのに、どうして迷うことなんかあるわけ?」


 狭い店内で熱く語るユウの姿を見て、案外彼女は熱血だったのだな、と変な感慨に浸っていた。しかも彼女も医学部を目指しているというのが、正直に言うと私にとっては相当な衝撃的事実だった。


 そもそも、最初に出会ったときの喋り方と、今ここで進路がどうこうと話しているユウの口調はほとんど別人だ。彼女は一体どういう人なんだ、と私の頭の中で混乱が起こっている。


 清水くんの進路のことだけでも混乱しているというのに、ここまでくると脳がパンクしそうだった。


「市村は将来医者になりたいんだろ。だったら医学部を目指せばいい。俺はまだ将来の具体的な目標が定まってないんだよ。それなのに簡単にどこを目指すかなんて決められないだろ」


 冷静で真っ当な答えがサンドイッチを食べ終えた清水くんの口から出た。思わず私は頷いてしまう。そしてその回答にホッとしていた。


 ――なーんだ、やっぱりまだ決まってなかったんだ。


 彼女のクセに彼氏の志望大学を知らないという恥ずかしい事態は何とか免れたので、ユウとランチを共にしたことは大正解だったな、と自分の判断を自画自賛する。


「高橋さん! それで満足なの!?」


「へ?」


 急にユウは私に噛み付いてきた。慌てた私は残り少ないサンドイッチをトレーの上に落としてしまった。清水くんが隣で「あーあ」と呆れた声を上げる。


 ユウは何かのスイッチが入ってしまったらしく、私と清水くんが空中分解したサンドイッチの残骸を処理している間も熱弁をふるう。


「彼氏が自分と一緒の大学に行きたいというだけでわざわざ志望大のランクを下げるなんて……私ならそんなの全然嬉しくないけどっ!」


「つーか、お前に彼氏いたことあるのかよ?」


「うるさいっ! 私は高橋さんに聞いてるのよ」


 二人のやりとりが可笑しくて、失笑しそうになるのを懸命にこらえながら、私は質問の答えを考えた。


「もしそんな理由でランクを下げるなら失望するかもしれないけど、清水くんはそうは言ってないし、……それに自分の進路は自分にしか決められないから」


 急にテーブルが静かになって、私は変なことを言ってしまったのかとドキドキする。誰かが何か言ってくれないと間が持たないのだが、誰も何も言わない。


 ユウは少し考えるように宙を睨んでいたが、急にサンドイッチにかぶりついた。やけくそになったかのような豪快な食べっぷりだ。


 そして食べ終わると紙ナプキンで口を拭いて、言った。


「私、いいこと思いついた」


 私はユウの顔を見てギョッとした。先ほど予備校のトイレで見た満面の作り笑いが目の前に再現されたからだ。


「どうせお前のいいことは最悪のことだろ」


 小声で清水くんが突っ込む。その声を無視してユウは続けた。




「この際、高橋さんも医学部を目指そうよ!」




「……はい!?」




 私の頭の中はまたパニックになり、軽い眩暈のようなものまで感じた。ユウという人は一体何を考えているのか、全く理解不能だ。


「市村。舞の名言を聞いてなかったのか?」


 清水くんが立ち上がってユウを見下ろした。


「お前、頭はいいんだから、他人のことにあれこれ口出しするより、自分のことをもっとよく考えたほうがいいぞ」


 そう言うと私の腕を引っ張って、清水くんはファストフード店を後にした。


 振り返ると店内に残されたユウの姿が小さく見えて、ほんの少し胸が痛む。


「アイツ、昔から成績はいいのにわがままで依存心が強くて、手に負えないタイプ。かまわないほうがいい」


 清水くんが私の顔を見て、そう言った。




 ――……ん!?




 さっき一瞬だけユウが気の毒に見えたのだが、そんな感傷は彼の一言で霧散し、間違って石を噛んでしまったような違和感が私の中に充満する。


 そして、頭の中で何かがブツッと切れた。




「かまわないほうがいい? かまってるのは清水くんじゃない?」




 言ってから、自分のセリフに驚いた。清水くんも目を見開いて私を凝視する。


「だいたい数学をやりたいとか言ってたのは何? 医学部? はぁ? 私、初耳ですけどっ!」


 ――え、ちょっと待って、私。どうしたんだ。


 困ったことに止まらない。


「それに、私と諒一兄ちゃんのことをあれこれ言うけど、ご自分はどうなんですか!? 言い寄ってくる女の人みんなにいい顔して……」


 土曜ということもあり、人がごった返すショッピングモールのど真ん中で、私は清水くんを責め立てていた。




「結局、女好きなんだ!」




 ――あっちゃー! ついに言っちゃった……。


 ――いやいや、あースッキリした! ていうか、これくらい言ってやらないとこの男にはわかんないのよ、女心なんて!




 過度の興奮状態で心の中は達成感と後悔がぐちゃぐちゃに混ざり合い、呼吸も荒くなっていた。


 そこへ背後からポンポンと優しく誰かが私の肩を叩く。


 ――ん? あれ、清水くんは前にいるし、誰が……?


 目の前にいる清水くんは私の背後に視線を移し、更に仰天した表情になっている。


 肩で息をしながら、おそるおそる首を後ろに回す。


「舞? こんなところで勇ましく仁王立ちして、何してるの?」




 ――ひ、ひゃーーーっ!




「しかも『女好き』とか大声で叫んでるし。恥ずかしいわよ」




 ――ま、ま、ま……




「ママ、どうしてここに!?」




 情けないことに声が掠れる。


 私の後ろには、いつもより濃い目のメイクで嫌味なほどニヤニヤと笑う母の姿があった。

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