「これは泥やない、やりがいや」――元刺客、帝国軍にブラック労働を説く
「突撃ィッ!!」
帝国軍隊長の怒号と共に、数百の重装騎馬が地響きを立てて駆け出した。狙いは、生意気な口を叩く令嬢一人。だが、エリザベスは逃げるどころか、ストップウォッチを片手に満面の笑みで指揮を執っていた。
「はい、角度ええ感じ! そのままのスピードで、あっちの杭が打ってある場所までノンストップで走り抜けなはれ!」
帝国軍が駆け抜けた後には、カシムが「慈愛」の心で設置しておいた落とし穴……もとい、絶妙な「地盤改良用の溝」が待っていた。次々と馬が足を取られ、勢い余った重装騎兵たちが地面に激突する。
「ぐわっ!?」
「なんだ、この地面の凹凸は!」
「お疲れさん! ちょうどそこ、地固めしてほしかったんや。あんたらの鎧の重さ、ええ仕事するわぁ。手作業やったら何日かかるか分からん作業が、たった一回の突撃で終わってもうた」
エリがパチパチと拍手する。怒り狂った隊長が泥まみれで立ち上がり、剣を突きつけた。
「貴様ぁ! 帝国最高の軍勢を、あろうことか『土木用のローラー』扱いするかぁ!」
「扱いするか、やなくて、実際そうなってるんやからしゃあないやん。……あんちゃん、冷静に考え。今あんたらが通った道、めっちゃ綺麗に踏み固められてるで? これで資材運搬の馬車がスムーズに通れるわ。おおきに!」
「ふざけるな! 全員、この小娘を切り刻め!」
殺気立つ帝国兵たち。だが、彼らの行く手を遮るように、一人の男が立ち塞がった。元刺客のリーダー。今は「現場主任」の腕章(エリの手作り)を巻いた男だ。
「……よせ。お前らの気持ちは分かる。俺たちも最初はそうだった」
「なんだ、貴様は……。まさか王家の刺客か!? なぜそんな泥まみれの格好で……!」
「これは泥じゃねぇ……『やりがい』っていう勲章だ。……いいか、このお嬢様に逆らうのはやめとけ。俺たちが一日中耕した後に飲む『水一杯』の味を知ったら、もう戦場になんて戻れなくなるぞ」
刺客たちの虚無の、それでいて悟りを開いたような瞳。その異様な光景に、帝国兵たちがたじろぐ。
「カシム、あんちゃんらの馬、回収しといて。あんなええエンジン(馬)、戦わせたらもったいない。これからは物流の要として、第二の人生歩んでもらうから」
「承知いたしました。エリザベス様。戦うためではなく、運ぶために生まれた馬……。これぞ『平和の運び手』。なんと尊いお考えか……!」
カシムが神々しいオーラを放ちながら、帝国軍の馬を次々と「差し押さえ」ていく。
「……さて。あんちゃんら、馬もなくなったし、帰る足もないな? ウチ、ちょうど『道路工事の第二工区』の人手欲しかったんや。……サイン、しはる? それとも、そのまま荒野のゴミになる?」
エリの手には、またしてもイチゴの汁(朱肉代わり)と契約書が握られていた。
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