王家へ献上? アホ抜かせ。相場の『十倍』で売りつけたるわ!
エリが発見した『燃焼石』。それは、ただの石炭とは比較にならないほどの高火力を、極めて長時間維持する魔法の燃料だった。この資源の恐ろしいところは、エリの領地にだけ、地表近くにゴロゴロ転がっているという点だ。
(……よし。王都の方では、ちょうど『冬の燃料独占ギルド』がストライキ起こして、暖房用の薪が枯渇しとる頃やな。……勝機や!)
エリは、泥まみれの元刺客たちに「お疲れさん、これボーナスの『塩飴』や。次はこれをもっと掘って、綺麗に箱詰めしなはれ」と指示を出す。
数日後。
荒野の入り口に、豪華な意匠を施した一台の馬車がやってきた。
降りてきたのは、王子の側近であり、会計官を務める気取り屋の男、バロンだった。
「……ひどい砂埃だ。おい、そこの公爵令嬢! エリザベス!」
「やかましいわ。ウチの敷地内で大声出さんといて。……で、なんの御用? まさか借金の返済に来たん?」
エリが鼻をほじる勢いで現れると、バロンは屈辱に顔を歪ませながらも、本題を切り出した。
「ふん、相変わらず下品な女だ。……閣下から聞き及んでいる。ここで『燃える石』が見つかったそうだな? 王都が燃料不足で困っている。慈悲として、その石をすべて王家に献上しろ」
「献上? あんた、頭の中にハトでも飼うてるんか?」
エリは耳を疑った。
「これはウチの私有地の資産や。タダでやるわけないやろ。……売ったげてもええけど、今の相場の『十倍』やな。あ、それと送料・梱包費・王都への越境手数料は別やで」
「じゅう……十倍だと!? 正気か! そんなの暴利だ!」
「嫌なら買わんでええよ。ウチ、『一見さんお断り』がモットーやねん。今までウチをないがしろにしてきた王家が、困った時だけ顔出すなんて、商売の筋が通らんわ。お引き取り願えます?」
バロンが激昂して剣を抜こうとした瞬間、背後にいたカシムが、音もなく彼の喉元に剣先を突きつけた。
「……エリザベス様は、『正当な対価を払えない不心得者とは取引しない』と仰っているのだ。これぞ公正なる騎士道……! 恥を知れ、バロン!」
「なっ……カシム!? 貴様、なぜこの女の肩を――」
「お帰りなはれ。……あ、どうしても欲しいんやったら、あっちの『キャンセル待ち・待機列』に並びなはれ。先客は、隣国の商人や。あんたらの番が来るのは、たぶん来年の春ごろやと思うけどな?」
エリが指差した先には、何もない荒野が広がっているだけ。つまり、売る気はゼロ。絶望の表情で去っていくバロンを見送りながら、エリはニヤリと笑った。
(……ええ感じや。飢えさせれば飢えさせるほど、価値は上がる。次に来る時は、土下座して白紙の小切手持ってくるまで待ったるわ!)
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