刺客やと思てたら、タダで使える「派遣スタッフ」が来たわ
荒野に一本の線を引いた翌朝。カシムが「せめて風除けのシェルターを」と、騎士の誇りをかけて大きな岩を運んでいた時のことだ。
地平線の彼方から、砂煙を上げて数騎の馬が迫ってきた。見るからに柄の悪い、黒ずくめの男たち。腰には抜き身の剣が鈍く光っている。
「エリザベス様、下がってください! 王家の放った刺客です!」
カシムが剣を抜き、悲壮な覚悟で前に出る。だが、その後ろで朝食のパンをかじっていたエリは、パッと目を輝かせた。
(……来た! 待ちに待った『自走式・労働資源』やんか!)
「エリザベス様……覚悟を決めてください。多勢に無勢、せめて私一人が盾となり――」
「カシム、あんた何言うてんねん。盾なんかになられたら、資産が傷つくやろ。……おい、そこの黒ずくめのあんちゃんら! 止まりなはれ!」
エリが馬車の前に躍り出た。急停止した刺客のリーダー格が、冷笑を浮かべる。
「ほう、命乞いか? 公爵令嬢。……お前を殺せば、俺たちは一生遊んで暮らせる報酬が手に入るんでな」
「一生遊んで暮らせる? どこにそんな金あんねん。そもそも王家、ウチの家への借金を踏み倒そうとしてるくらい火の車やんか。そんな『不渡り手形』みたいな報酬信じて、この炎天下に馬走らせたん? 損害賠償もんやで、それは」
エリの正論パンチに、刺客が「え……?」と毒気を抜かれる。
「ええか、あんちゃん。その報酬、たぶん振り込まれへんわ。それよりウチ、今ちょうど『人手』探してんねん。あんたらのそのガタイ、岩運ぶのに最高やん」
「な、何を……俺たちは刺客だぞ! 殺し屋だ!」
「殺し屋? 効率悪いわぁ。人間、殺したら一回きりの利益やん。でもな、体を動かして働いたら『継続利益』やねんで? あんた、どっちが賢いかソロバン弾いてみぃ」
エリは懐から、一晩で書き上げた『臨時雇用(強制)契約書』をバサリと広げた。
「罪人として突き出されたいんか、ここでウチの直轄スタッフとして『更生』したいんか。……ちなみに、断る権利はないで。ウチの騎士、これでも腕だけは一流やから、逃げようとしたら脚一本くらいは『担保』としてもらうけど?」
エリの背後で、カシムが凄まじいプレッシャーを放つ。彼は彼で、「エリザベス様は、極悪非道な彼らにさえ更生の機会を与えようとなさっている……! なんという慈愛!」と、本日三度目ぐらいの勘違い(高潔)を爆発させていた。
「……さあ、判押しなはれ。朱肉がないなら、そこらへんのイチゴの汁でもええから」
震える手で契約書にサインをする刺客たち。こうして、ナニワ領に「第一期・土木工事作業員」が誕生した。
(……よし、人件費は食費のみ(タダ)。初期投資ゼロ。これぞナニワの商売道や!)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




