不毛の地? いやいや、立ち退き料いらずの「神物件」やん!
馬車の車輪が、乾燥してひび割れた大地を軋ませながら止まった。王都の喧騒からも、華やかな社交界の光からも切り離された、地の果て。
視界の先に広がるのは、生命の鼓動を拒絶する灰色の荒野だった。かつては森だったのか、立ち枯れた樹木が墓標のように点在し、吹き抜ける風は砂を巻き込み、乾いた音を立てて大地を削っている。遠くにそびえる岩山は、牙を剥く獣と化してエリザベスたちを睨みつけていた。
カシムが馬車を降り、絶望に満ちた表情で周囲を見渡す。
「……なんという、無慈悲な。王家は、エリザベス様にこの死の地を賜ることで、静かな処刑を命じたというのか……!」
カシムは拳を震わせ、膝をついた。騎士としてのプライドが、この不遇に耐えかねていた。だが、その横で馬車を降りたエリは、眩しそうに目を細め、腰に手を当てて「ほーっ」と感嘆の声を漏らした。
「……なんやこれ。最高やんか」
「エ、エリザベス様……? お気を確かに! ここには水も、緑も、民の家一つございません……!」
カシムの悲鳴のような訴えに対し、エリの視界では『天下の台所 (システム)』がピコピコと狂ったように反応していた。
【 地点:ナニワ領(未開地) 】
【 評価:伸びしろしかない 】
【 鑑定結果:地盤がガチガチ → 地震に強い / 遮るものがない → 日当たり良好 / ライバル店舗 → ゼロ 】
「……当たり前やんか、カシム。なにもないっちゅうことはな、『地上げ』も『立ち退き交渉』もいらんっちゅうことや。これ全部、ウチの好き勝手にしてええ土地なんやろ?」
エリには、灰色の荒野が、黄金に輝く「一等地の分譲予定地」に見えていた。
「あんた、何をさっきから湿気た顔してんねん。水がない? ほな掘ればええやん。家がない? ほな建てればええやん。……見てみぃ、この広大な土地。ここに、王都より賑やかな『あきんどの街』つくったるんや」
「……あきんどの、街……?」
カシムが呆然と呟く。エリは、近くに転がっていた乾燥した木の枝を拾い上げると、灰色の土の上に力強く、一本の直線を引いた。
「ここがメインストリートや。右側には巨大マーケット、左側にはフードコート……あ、クレープ屋は一等地に配置せなあかんな。看板娘は、そうやな。あんたのそのイケメンな顔、看板にしたるわ」
「わ、私を……看板に……!? 殿下への当てつけで、この地に、私の姿を刻んでくださると……!?」
カシムの脳内で、またしても「高潔な勘違い」が高速回転を始める。だが、エリはすでに次のステップを見ていた。
(まずは、このガチガチの土を耕すための『労働力』やな……)
不毛の地に、一人の令嬢の「野望」が鳴り響く。世界を書き換えるための開拓劇が、今、幕を開けた。
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