【悲報】かつての婚約者、泥まみれの借金奴隷に成り下がる
「……はぁ、はぁ……。なによ、どこもかしこも『ナニワ商会』ばっかり。あんなの、ただの成金じゃないの!」
アウトレットモールを追い出されたセレスティーヌは、怒りに任せて裏通りを歩いていた。だが、進めば進むほど、彼女が知る「神ゲー」の世界は削り取られていた。
路地裏の壁には『借金でお困りの方はナニワ商会・相談窓口へ』という張り紙が踊り、パン屋の親父は「エリザベス様への利息を払うために、今日も残業だ」と死んだ目で回転釜を回し続けている。
「……待って。あそこにいるのって……」
街外れの汚水処理場。そこは帝都中の泥が集められ、肥料として加工される最も過酷な作業場だった。その異臭が漂う中、腰まで泥に浸かって作業をしている男の背中に、セレスティーヌは見覚えがあった。
煤けた金の髪。泥で汚れてはいるが、仕立ての良すぎる(今はボロボロの)シャツ。
「アルベルト……様? アルベルト王子なの!?」
彼女が駆け寄ると、男の肩がびくりと跳ねた。ゆっくりと振り返ったその顔には、ゲームで見た傲慢な自信など微塵もない。目の下に深い隈を刻み、頬はこけていた。
「……あ……ああ、なんだ。新しい、徴収員か……? 待ってくれ、あと一時間……あと一時間で、今日のノルマの十箱分が終わる……。だから、鞭はやめてくれ……!」
「なっ、何言ってるの! 私よ、セレスティーヌよ! あなたを救いに来た、聖女なのよ!」
セレスティーヌがその泥だらけの手を取ろうと踏み出した瞬間、アルベルトは悲鳴を上げて距離を取った。
「触るな! その……その綺麗な服! 泥をつけたら、また損害賠償だって、カシムに言われる! これ以上、俺の負債を増やさないでくれ!」
「アルベルト様……? そんな、どうしちゃったの……。一緒に逃げましょう? 私が奇跡の力で、あんなエリザベスなんて追い払って――」
「馬鹿なことを言うな!」
アルベルトは狂ったように笑い出した。
「どこへ逃げるんだ! この帝都の外も、隣の村も、逃げ込むはずだった離宮も、全部エリザベスが奪い取ったんだ! 俺が逃げれば、利息は倍になる。一族全員『地の果て』行きだ! ……あぁ、嫌だ、あんな場所二度と……!」
「…………」
セレスティーヌは絶句した。彼女が愛し、救い、ハッピーエンドを勝ち取るはずだった「王子様」は、もういない。目の前にいるのは、「借金」という名の鎖に心を折られた、惨めな奴隷。
「……嘘。こんなの、私の大好きなゲーム『ルミ・ラヴァ』じゃないわ……」
膝をつき、悪臭の中で震えるセレスティーヌ。
その時。
「――可哀想に。神に見放されたこの世界で、独り、泣いているのですね」
頭上から、すべてを包み込むような、慈愛に満ちた声が降り注いだ。
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