不良債権の最終処分 ――『地の果て』行きの片道切符
かつて王族や重臣たちが優雅にシャンパンを傾けていた港の特設デッキ。今はそこが、旧王国の「負債」を清算する強制労働の監督所となっていた。
「ひぃっ、重い……! な、なぜ私がこのような、獣の泥を運ばねばならんのだ……!」
金糸の刺繍が施された高級な礼服を、粘り気のある泥で汚しながら、バートン公爵が泣き叫ぶ。その横では、旧国王が腰をさすりながら、震える手でスコップを握っていた。
「公爵、私に泣きつくな……。手を止めれば、あの恐ろしい取立人が来るぞ」
視線の先には、帝国軍の制服を貸し与えられた借金取りたちが、鋭い眼光で彼らを監視している。そしてそのさらに先、港の広場には、二つの大きな「檻」が晒されていた。
「エリザベス様ぁ! お願いです、出してください! 私は聖女なんですよ!? こんな泥水を飲むような生活、耐えられません!」
檻の中で、ボロボロの聖女服を着たマリアが鉄格子をつかんで喚き散らしている。だが、かつて彼女を称賛した臣民たちは、今や誰も目を向けない。
「聖女のブランド価値は暴落して、今は二束三文や。あんたの維持費(食費)の方が高くつく不良在庫なんやで?」
エリザベスが冷たく言い放つと、隣の檻から「俺は王になる男だ……」と、壊れた機械のような呟きが聞こえてきた。アルベルトが虚ろな目で地面を見つめ、現実に背を向けている。
「アルベルトも、そんなとこで夢見てんと、早く起きてや。あんたの借金も一銭残らず働いて返してもらうで。利息が大きすぎて、元本はずっと減らへんけどな」
エリザベスは、彼らが乗ってきた豪華客船の船首に、特大の『売却済・差し押さえ』の赤札を叩きつけた。
「……さて、カシム」
「はい、エリザベス様。これより皆様には、『地の果て』へドナドナされていただきます」
エリザベスは、絶望に染まる一行を振り返ることもなく、ギルさんの背に飛び乗った。




