真実の愛? その前に王家の借金、返してから言うてな?
広間を埋め尽くす貴族たちの間に、波紋のような動揺が広がっていく。「裸で帰れ」――公爵令嬢の口から出たとは思えない破天荒な言葉に、近衛騎士たちは剣の柄に手をかけ、王子は怒りのあまり声も出せずにいた。
高いドーム型の天井に反響したエリザベスの声が消えた後、残されたのは、重苦しい静寂と、冷え切った大理石の床を打つ冷気の音だけだった。アルベルト王子の青い瞳には、燃えるような憤怒が宿り、その背後のステンドグラスから差し込む月光が、彼の影を歪に引き伸ばしている。
「……狂ったか、エリザベス。金の話など、この神聖な場で口にするとは。貴様には誇りというものがないのか!」
ようやく絞り出した王子の声。それに対し、エリザベスはフンと鼻で笑い、ドレスのどこに隠していたのか、一束の紙を高く掲げた。
「誇りで飯が食えるんやったら、ウチも苦労しませんわ。ええですか、殿下。これ、うちの家が代々つけてる『王家への特別融資目録』の写しです。あんたがマリアさんに贈ったあのバラの花束も、週末の忍び会い(デート)で使うた隠れ家の維持費も、全部ここから出てんねん」
パサッ、と彼女がその紙を床に投げ捨てる。それは雪のように舞い、王子の足元に散らばった。
「婚約破棄? ええですよ、願ってもない。でもな、契約解除っちゅうのは『原状回復』が基本や。ウチがこの三年間でドブに捨てた投資、全部返してもらうまで、一歩も引かへんで?」
「くっ……! そんな不遜な態度、陛下が許すと……」
「陛下? ああ、国王様のことなら心配いりませんわ。あの人、先月ウチの親父から『新しい離宮の建築費』借りたばっかりやから。……ねえ、マリアさん。あんた、さっき『運命』って言いましたよね?」
エリザベスの鋭い視線が、聖女を射抜く。マリアは「ひっ……」と短く悲鳴を上げ、王子の背後に隠れた。
「運命を信じるんは勝手やけど、その運命の維持費を、婚約者に払わせ続けようっちゅうのは、図々しいにも程があるわ。そういうのが流行りなん? 大阪やったら、これ『詐欺』って言うんやで」
「……なっ、なんて言い草を……!」
「……もうええわ。話にならん。殿下、一週間以内に『手切れ金』の全額入金、頼みます。あ、端数は切り捨てたげますわ。ウチ、そんなにケチやないから」
エリザベスはくるりと背を向けた。シャンデリアの光を浴びながら歩き出す彼女の背中は、どの貴族よりも気高く、そして――誰よりも「清々しいほど、商売人」だった。
「……あ、最後にもう一つ。出口のビュッフェのクレープ、あれウチの領地から仕入れた粉使てますから、勝手に食わんといてな。……ああ、生クリーム。もっと増量しとけばよかったわ」
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