最強の魔竜、ナニワ令嬢に教育されて「地獄の取り立て屋」に転職した件
帝国騎士たちが豪華な食事と酒に溺れ、平和にどっぷり浸かっているその頃。王都から遠く離れた秘境の渓谷では、『黒銀の魔竜』とワイバーンたちが、怪しげな集会を開いていた。
「……えー、それでは復唱。……『毎度おおきに、お命頂戴いたします(キャンペーン価格)』」
魔竜が低い声で、拙いながらも確かな言葉を発した。その巨大な瞳には、かつての獣としての狂気ではなく、帳簿をつける学者のような理性が宿っている。
「……ギル……様。その……『キャンペーン価格』という……部分は……必要なのか?」
一匹のワイバーンが首を傾げた。そう、エリザベスの「エサ代(投資)」によって、彼らは言葉を理解し、高度な知性を獲得しつつあった。
「当たり前だ! エリザベス様は仰った。……『ただ殺すだけなら、そこらの害獣と同じや。恐怖に“価値”を乗せてこそ、一流の商売やで』とな!」
黒銀の魔竜――今はエリザベスに『ギルさん』と名付けられたその巨体は、前足で地面に描かれた「帝国の進軍ルート」を指し示した。
「帝国軍の本隊が来た時、我らはただの魔物として襲うのではない。……奴らの心を折り、命という名の資産を完璧に回収するんだ」
魔竜たちが練習していたのは、戦術だけではない。エリザベスが叩き込んだ「顧客(敵)の心理を掌握し、逃げ場を失くしてから高値で売りつける」というナニワの商法そのものだった。
上空では、言葉を覚えたワイバーンたちが編隊を組み、静かに旋回している。彼らの背には、元王子をドナドナしたあの「カゴ」が改良され、最新式の「空爆用・商品投下スロット」が装備されていた。
カシムが密かにその訓練を視察し、武者震いを隠せない。
「……恐ろしい。帝国の騎士たちが腹を膨らませて寝ている間に、この魔物たちは言葉を覚え、軍隊以上の統制を得ている。……エリザベス様、これこそが、きたるべき『契約破棄(帝国への逆襲)』の主戦力ですな」
執務室でソロバンを弾くエリザベスは、遠くの空を見上げてニヤリと笑った。
「カシム。言葉が通じへん相手とは、交渉すらできへんやろ? せやから、彼らには『話せる魔物』になってもらいましたわ。……帝国軍が攻めてきた時、空から魔竜に『まいど! 不法侵入の延滞金、払ってもらいましょか!』って言われたら、奴らどんな顔するやろね?」
帝国はまだ知らない。自分たちが「管理」しているはずの領土で、言語を解し、経済観念を叩き込まれた「最強の軍事資本」が着々と育っていることを。
ナニワの商売人に飼われた魔竜。それは、大陸の歴史上もっとも「話が通じるけど、一円の妥協も許さへん」地獄の取り立て屋だった。
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