【悲報】ウチ、帝国に屈して「経済的植民地」になりましたわ(嘘)
王都の広場に設けられた特設ステージ。そこは本来、エリザベスの勝利を祝う場所になるはずだった。けれど、今そこに漂っているのは、冷たい冬の風よりも厳しい「敗北」の空気。
高座にふんぞり返る帝国特使、ロストフ公爵。その足元に近い低い席に、エリザベスは静かに座っていた。
「では、契約条項を読み上げる。……一つ、ナニワ領はインスパイア帝国のフランチャイズ加盟領とし、全利益の三五パーセントを『ライセンス料 (ロイヤリティ)』として永久に上納すること」
広場の民衆から悲鳴が漏れた。三五パーセント。それは、働いても働いても、利益の三割以上が何もしない帝国に吸い取られることを意味している。
「……一つ、帝国商人の入国関税を全廃する。また、帝国ギルドはナニワ領内の資源を優先的に買い付ける権利を有する」
これにはカシムが拳を血がにじむほど強く握りしめた。これでは、国内の産業が育つ前に帝国の巨大資本に食い荒らされてまう。
「……一つ、帝国の派遣する監査役が常時、帳簿を監視するものとする。……以上だ。異論はあるか、ナニワ令嬢」
公爵の勝ち誇った声が響く。カシムが、耐えきれずに一歩前に出た。
「お待ちください! これでは主は帝国の小作人に成り下がるも同然! これほどの不平等条項、とても受け入れられ――」
「カシム。……控えなはれ」
エリザベスの声は、驚くほど細く、弱々しかった。ゆっくりと立ち上がり、公爵に向かって深く頭を下げた。
「……異論なんて、ございません。帝国の素晴らしい法律、そして世界で最も信頼されるインスパイア金貨……それらを使わせていただけるんやったら、これくらいの『授業料』、安いもんですわ」
「フ、ハハハハ! 流石は商売人、話がわかるではないか!」
公爵は満足げに笑って、エリザベスの肩を、まるで出来の悪い部下をねぎらうみたいにポンポンと叩いた。その屈辱的な光景に、民衆は目を逸らし、元兵士たちは悔し涙を流した。
「……あ、あの、公爵さん。最後に、一つだけ。形式的な付帯書類を追加してもよろしいでっか? 帝国の古い慣習法にある『加盟領土における相互互換性に関する第百十八条』ですわ。ウチも帝国の看板を背負う以上、形式だけでも帝国と『一体』でありたいんです」
「第百十八条……? ああ、あの形だけの規定か。よかろう、認めよう。帝国の広大さを示す、慈悲の証としてな」
中身を精査することもなく、公爵は鼻で笑いながら、重厚な印章を契約書に叩きつけた。
――こうして、ナニワ領は事実上、帝国の「経済的植民地」になったんや。
調印式が終わり、静まり返った執務室。カシムは力なく床に膝をつき、絞り出すような声で言った。
「……エリザベス様。なぜです。あんな……あんな奴らに、屈してまで……」
窓の外では、免税特権を得た帝国商人の馬車が、我が物顔で王都へ入り始めていた。それを見つめるエリザベスの背中は、さっきまでの弱々しさが嘘みたいに、ピンと張り詰めている。
「……カシム。あんた、面白いこと言うやん。屈した、やて?」
エリザベスがゆっくりと振り返る。その瞳に宿っていたのは、絶望ではなく、獲物を罠にハメた瞬間の、ゾッとするほど鋭い「野生」の輝きやった。
「逆やで。……帝国商人が入ってくるいうことは、帝国の金が、合法的にウチの懐に流れ込んでくるいうこと。そして……」
エリザベスは、カシムも見たことがない不敵な笑みを浮かべ、ソロバンを一回だけ、鋭くパチリと弾いた。
「あの『第百十八条』を認めさせた瞬間、帝国の金融ネットワークは、ウチの決済システムと連結されたんや。……おめでとう、帝国さん。今日からあんたらの財布の紐、ウチが握らせてもらうで」
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