【悲報】ウチ、国を捨てて帝国の「加盟店オーナー」になりましたわ
インスパイア帝国からの返答は、小切手ではなく「特使」という名の軍事的圧力であった。謁見の間に現れたのは、帝国でも指折りの武闘派として知られるロストフ公爵。背後には、威圧感を放つ精鋭騎士団がずらりと居並んでいる。
「エリザベスよ。貴殿の請求書、しかと皇帝陛下に届いた。……だが、我が帝国がこの程度の『端金』に動くとでも?」
ロストフ公爵が、重厚な革の手袋を叩きつけるようにテーブルに置いた。
「条件は一つ。旧王国の領土はすべて帝国の直轄領とする。『ナニワ商会』も帝国の管理下に置き、利益の八割を上納せよ。さすれば、先日の不祥事は水に流し、貴殿を『名誉帝国市民』として雇ってやろう。……断れば、次は先遣隊ではない。帝国の本隊がこの地を地図から消すのみだ」
謁見の間が凍りついた。カシムが剣の柄に手をかけ、元刺客たちも鋭い殺気を放つ。誰もが、エリザベスが「お断りですわ!」と啖呵を切ることを期待した。
ところが。
「……分かりましたわ。その条件、丸ごと飲み込ませてもらいますわ」
エリザベスは、短く頷いた。
「エ、エリザベス様!? 何を仰いますか!」
「主! 我ら一同、命を捨てて戦う覚悟はできておりますぞ!」
カシムたちの絶叫を、彼女は静かに手で制した。
「公爵さん。ウチも商売人のはしくれ。勝ち目のない戦に銭突っ込むほど、ウチはアホやありません。……ただ、一つだけ提案させてもらえます? どうせ帝国が支配する言うんやったら、中途半端なことはやめときましょ」
「……何だと?」
エリザベスは、カシムが持っていた旧王国の『玉璽』と、膨大な負債が記された帳簿をロストフ公爵の前に放り出した。
「本日をもって、旧王国は正式に『自己破産』を宣言させてもらいますわ。王権やら法律やら、腐りきった貴族の既得権益……そんなもんは全部、ゴミ箱行きです。この国は今、この瞬間、完全に消滅したんです!」
公爵が呆気に取られる中、エリザベスの唇が不敵に吊り上がる。
「そこで相談ですわ。白紙になったこの土地で、帝国の『素晴らしい看板』と『統治システム』を運用させてもらえませんこと? 名付けて、『インスパイア帝国・ナニワ領フランチャイズ契約』ですわ!」
「フラン……チャイズだと?」
「ええ。ウチらは帝国の部下ではなく、帝国の『システム』を借りる『加盟店オーナー』になるんです。帝国には毎年、莫大な『ライセンス料 (ロイヤリティ)』を納めますわ。その代わり、軍事、法、通貨……帝国の信頼という名の『OS』を、使わせてくれまへんか?」
公爵の目がぎらりと光った。
(……ほう。支配の手間をかけず、この小娘を働かせて、座っているだけで金が入るというわけか。帝国にとっては、属国にするより遥かに効率的な『集金装置』よ)
「……面白い。その『ライセンス料』とやらが、帝国の満足いく額であれば、検討してやってもよい」
「オホホホ! 話が早うて助かりますわ。……カシム、契約書の準備しなはれ。帝国様が納得しはる、ウチにとっては目ぇ剥くほど不利な、美味しい契約書をな!」
カシムは絶望的な顔で筆を執った。
謁見の間の様子は、エリザベスの指示であえて広場の魔導水晶に映し出されていた。
それを観ていた民衆も、「エリザベス様が帝国に屈した」「国を売った」と、お通夜さながらの沈黙に沈んでいる。
契約書にサインする彼女の手は、震えていた。しかし、その瞳の奥には、強欲なソロバンの音がパチパチと鳴り響いている。
(……ええわ。たっぷり太りなはれ、帝国さん。『金』いう名の麻薬にどっぷり浸かって、ウチがおらな予算も組めん体に……きっちり『調教』したるさかいな)
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