取り立てに軍隊動かすとか、コスト意識ゼロなんか? ~ナニワ流・地獄の近道(デス・ルート)へご案内~
「ひぇぇぇ! 帝国の旗や! 本当に来てしもたぁ!」
「もうおしまいや、この国は……!」
王宮の門前、地響きと共に現れたのは帝国の重装騎兵団だった。鋼鉄の鎧に身を包んだ兵士たちが、まるで黒い波のように押し寄せている。先頭に立つ将軍が、抜剣して吠えた。
「ナニワ商会を名乗る不埒な女、エリザベスを出せ! 借金のカタに、今日からこの地は帝国の直轄地とする!」
文官たちが腰を抜かして震える中、ウチは扇子をパサリと広げ、玄関先へ優雅に歩み出た。左手には愛用のソロバンを携えて。
「ちょっと待ち。朝っぱらから騒々しいなぁ。将軍さん、あんたら軍隊動かすのに、今日一日でどんだけ経費かかってるか分かってます?」
「な、何だと……?」
「兵糧に馬の飼料、兵士の危険手当。これだけの人数、一歩歩かせるだけで金貨が飛んでいく。そんな無駄金 使て取り立てに来るとか、帝国さんは経営センスが絶望的やね」
ウチは爆速でソロバンを弾き、パチリと指を止めた。
「そもそも、ここはもう王国やなくて民間の私有地、『ナニワ商会・王都出張所』ですわ。あんたら、アポもなしに土足で上がり込んで……。ほら、そこの馬! ウチの特製絨毯、泥で汚したな? クリーニング代と、軍の『不法占有料』、きっちり請求させてもらいます。あ、支払いは帝国通貨やなくて金貨でお願いな」
「貴様……! 屁理屈を並べるな! 逆らうなら武力で踏み潰すまで!」
怒り狂う将軍に対し、ウチは冷ややかな笑みを浮かべて「爆弾」を投げ込んだ。
「ええよ。潰せば? でもな、あんたらが門を破った瞬間、ウチはこの王宮の資産、金目のもん、食料、全部燃やして逃げる準備ができとる。残るのは灰と、あんたらが背負う莫大な遠征費の赤字だけや。焦げ付き一〇〇パーセント。それでもええの?」
「……っ!?」
将軍の顔から血の気が引いた。武力で勝っても、回収すべき「資産」が消えれば、帝国皇帝から「大赤字を出した無能」として処刑されるのは彼の方だ。
「殺し合いはコストの無駄。それより将軍さん。このまま一旦、本国へ帰りなはれ。改めて『商談』の招待状を送らせてもらいますわ。お互い、損はしたくないですやろ?」
ウチはニヤリと笑い、懐から一枚の地図を取り出した。
「ただし、来た道を戻るんは時間の無駄や。この地図にある森の『近道』を通りなはれ。そこならウチの息がかかった領地やから、安全に最短距離で帝国まで抜けられます。……軍隊の維持費も、かなり浮きますよ?」
「……。ふん、小賢しい女め。だが、資産を燃やされては元も子もない。……野郎ども、引き上げるぞ! この近道を通って本国へ帰還し、再編したのちに改めてこの国を呑み込んでくれるわ!」
将軍は功を焦りつつも、「経費が浮く」という甘い言葉とエリザベスの気迫に押され、軍を翻した。遠ざかっていく帝国軍の背中を見送りながら、ウチはパチンと扇子を閉じた。
「カシム、手配は済んでるな?」
「はっ。森には既に、牙を研いだ連中が。……案内した道は、彼らの『狩り場』でございます」
「よろしい。……さぁ、不法侵入者たちから、たっぷり『清算』させてもらお。知らんけど」
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