「客がけえへん店はただの箱や」――物流を支配した追放令嬢、自滅する王都へ最終宣告に向かう
冬が深まると同時に、王都の「心臓」が止まった。市場から荷馬車が消え、大通りを歩くのは腹を空かせた野良犬と、寒さに震える衛兵だけ。各国の商隊が、示し合わせたように王都を避け、ナニワ領へ直接向かうようになったからだ。
「おい、王国へは行かないのか?」
「馬鹿を言え。あんな薪もねえ、食いもんもねえ、物価だけが高い死に体に何の用がある。今はナニワ領に行くのが商人の常識だ」
彼らは本能で察していた。今のこの大陸の「財布」を握っているのは、震えるだけの王子ではなく、あの追放令嬢であると。ナニワ領には、エリが帝国から接収した「重機(馬)」で整備された最短ルートがあり、魔竜とワイバーンによる「即日航空便」まで稼働している。商売人にとって、そこはもはや不毛の地ではなく、『大陸最大の物流拠点』へと変貌していた。
「お嬢! 帝国の商隊から『通行許可証』のおかわり入りました! あと、隣国のギルドが『支店』を出したいと金貨積んで待ってますわ!」
ナニワ領の執務室。王都から逃げてきた元・役人たちが、今はエリの配下としてテキパキと書類を捌いている。彼らにとって、年功序列の王国より、成果主義のナニワ流の方が肌に合ったのだ。
「ええよ、場所代は昨日の倍で。あと、王都向けの荷物は全部『積み替え』や。ナニワ印のラベル貼って、手数料三割乗せてから運ばせなはれ」
エリザベスは、ホットワインを片手にテキパキと指示を飛ばす。
*
一方、王都の惨状は極限に達していた。物価は十倍、二十倍と跳ね上がり、銀貨一枚でパンの耳すら買えない異常事態。飢えと寒さに耐えかねた市民たちは、ついに王宮の門を叩き、暴徒と化した。
「エリザベス様を呼び戻せ!」
「あの温かい『燃焼石』をよこせ!」
「無能な王子を引きずり出せ!」
王宮の奥底、凍りついた玉座の間で、アルベルト王子はマリアと共にガタガタと震えていた。
「……な、なぜだ……。なぜ誰も、王家の私に食べ物を運んでこない……ッ!」
「アルベルト様……もう、限界ですわ。わたくし、こんなに寒いのは嫌……」
マリアの聖女としての輝きは、空腹と霜焼けですっかり色褪せていた。
*
「カシム。王都の『在庫』はもう空っぽやな?」
「はい。主のお導きの通り、王宮の蔵までスッカラカンにございます。今や彼らが持っているのは、使い道のない『王家のプライド』という名のゴミだけ。……ああ、なんと素晴らしい。国一つを丸ごと『掃除』し、新たな法で塗り替えようとされるとは!」
カシムが窓の外を見上げ、うっとりと呟く。その視線の先、雪雲を切り裂いて、巨大な『黒銀の魔竜』が咆哮を上げた。
「……よし。ほな、そろそろ『最終宣告』しに行こか。魔竜の背中に、温かい炊き出し用のスープ、たっぷり積んどきや」
情けを売るのではない。「救世主」という名の「新しいオーナー」として君臨するつもりだ。
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