王都は極寒、ウチはTシャツ。――燃料(ライフライン)を握る者が勝つのは世の常やで?
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エリザベスの守銭奴(商魂)パワーと、カシムの圧倒的武力の勘違いが生んだ「魔竜航空」。
どうぞ今回もお楽しみください!
王国を襲ったのは、単なる寒波ではなかった。それは、エリザベスという「計算高い死神」による、最悪の経済包囲網だった。
例年なら市場を埋め尽くすはずの薪の山、暖炉から立ち昇る賑やかな煙。それが、王都から忽然と姿を消した。王都へ続く主要街道にエリザベスが「私設関所」を築いて以来、王国へ向かうはずのあらゆる燃料資源が、ナニワ領という名の巨大な「ブラックホール」に吸い込まれていったのだ。
「寒い……。アルベルト様、なぜお部屋に火を灯してくださらないのですか?」
王宮の私室。かつては贅沢を極めたその部屋も、今は石造りの冷蔵庫と化していた。聖女マリアは、かつての美貌が嘘のように鼻を赤くしてガタガタと震え、恨みがましく王子を睨む。
毛布を三枚も重ね、その上から厚手の冬用マントやマリアの予備のガウンまで無理やり着込んだ王子の姿は、着膨れして雪だるまのようで、もはや王族の威厳など微塵もなかった。
「……あ、あの悪女の領地から出る『燃焼石』など、呪われた石だ! 王家の誇りにかけて、あんな出所不明の燃料に頼るわけにはいかん……ッ!」
王子は白く凍る吐息を吐きながら見栄を張る。だが、王家が「誇り」を守るために、数少ない薪の在庫を通常の百倍の値段で買い占めた結果、王都の平民たちは凍死の危機に晒され、城下の灯りは一つ、また一つと消えていった。
一方、その頃。王国との国境付近に位置するナニワ領は、別世界のような熱気に包まれていた。
「お嬢、これ。新作の『ナニワ・厚焼きガレット』や。食べてや!」
そう言って笑うのは、少し前まで王都で飢えていた元パン屋の男や、帝国軍から『脱走』してエリの配下に収まった巨漢の戦士たちだ。彼らは、エリザベスが開発した最新型『燃焼石ストーブ』が完備されたヌクヌクの詰所で、冬だというのにTシャツ一枚(?)で過ごしていた。
エリザベスは、事務所の窓から見える雪景色を眺めながら、通行料代わりに徴収した最高級のホットココアを啜る。
「……カシム。王都の方、そろそろ『熟して』きたかな?」
「はい。王都の薪価格は暴騰し、もはや薪一本が金貨数枚で取引される異常事態にございます。市民の怒りは爆発寸前……。ああ、なんと尊い。あえて彼らを極限まで追い詰め、絶望の果てに『真の救済(主の支配)』を悟らせようとされるとは。その慈悲の深さ、まさに聖母……いや、救世の女神にございます!」
カシムは熱気で蒸せかえる部屋の中で、ストーブ以上に熱い涙を流していた。
「女神? いらんわ、そんな不確かな肩書き。ウチが欲しいんは、王家が独占しとる『関税自主権』と『中央銀行の経営権』、それから……」
エリザベスは、手元のプラチナ製のソロバンをパチリと弾いた。
「……アルベルト王子の、全財産を賭けた『泣きの土下座』や。あ、これは精神的苦痛へのオプション料金として、一千万金貨くらい上乗せしとこか。ま、端数はサービスしたるけどな? (ニッコリ)」
ナニワ領の温かな湯気の向こう側。凍える王都が、完全に「買い叩かれる」準備を終えた瞬間だった。
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