魔竜降臨? ちゃうわ、これは「空飛ぶ配送スタッフ」の面接や!
その日の夜明け前。ナニワ領の空は、夜よりも深い絶望に塗りつぶされた。伝説の『黒銀の魔竜』。ただ一吠えすれば城壁が崩れ、翼を羽ばたかせれば街が消し飛ぶと言われる災厄が、数百のワイバーンを引き連れて領地に飛来したのだ。
狙いは、地表に露出した燃焼石から溢れ出す濃厚な魔力の波動。魔物にとってそれは、何物にも代えがたい「極上のエサ」だった。
「……ギギ……。人間、ドケ……。ココハ、我ラノ、領域……」
魔竜の地響きのような声が荒野に響く。そんな緊急事態の中、領地で唯一の馬車(現在は事務所兼住居)の中で、エリザベスは泥のように眠っていた。
(……あかん、あと五分。今、ウチは王太子に『精神的苦痛への慰謝料』を請求する夢を見とんのや……。邪魔する奴は、金貨一兆枚積まれても許さへんで……)
耳栓をガッチリはめ、アイマスクをしたエリは、外の地響きを「心地よいマッサージ」程度にしか感じていなかった。
一方、馬車の外ではカシムが静かに剣を抜いていた。彼の瞳には、悲壮な決意と、それ以上の「高潔な狂気」が宿っている。
「……なるほど。エリザベス様はあえて眠りにつき、私に無言の命を下されたのだ。『この程度のトカゲ、一人で片付けられなくてどうする』と……。そして、昨日おっしゃっていた『空を飛ぶ宅配便があれば配送料が浮く』というお言葉……。左様でございますか、これがその『仕入れ先』なのですね!」
カシムの全身から、凄まじい黄金のオーラが噴き出した。かつて王都最強と謳われながら、その実力ゆえに煙たがられ、悪役令嬢の監視役にまで落とされた。
「主の眠りは、世界の平和より重い。……魔竜よ、貴様の翼、物流の要として接収させてもらう!」
「……!? ナ、ナンダ、コノ、人間――」
魔竜が恐怖を感じる間もなかった。カシムが地を蹴った瞬間、空中に一筋の閃光が走る。魔竜が放った絶望のブレスは、カシムの「勘違いという名の絶対防御」によって真っ二つに切り裂かれた。
圧倒的な剣技。そして「ここで負けたらエリザベス様の寝起きが最悪になる」というカシム独自のプレッシャーが、魔竜のプライドを粉々に打ち砕く。最強の魔竜は、自分よりも遥かに恐ろしい「何か」に仕えているこの男に、本能的な死を感じて地面に平伏した。
数時間後。太陽が昇り、耳栓を外したエリが欠伸をしながら馬車から降りてきた。
「……ふわぁ、よう寝た。なんか外、工事でもしてたん? やたら振動してたけど」
エリが目をこすりながら見上げた先には、翼を震わせて整列するワイバーンの群れと、その中心で縮こまっている巨大な魔竜。そして、彼らに「荷物の積み方」を指導しているカシムの姿があった。
「おはようございます、エリザベス様。仰せの通り、航空便のスタッフを確保いたしました。この魔竜は、その責任者として教育済みです」
「……え、ちょっと待て。カシム、あんた何してんねん。そのデカいトカゲ、絶滅危惧種の魔竜やん。……え、それを『空輸スタッフ』にしたん?」
エリの脳内のソロバンが、目にも止まらぬ速さで弾け飛ぶ。
空路。燃料代ゼロ。魔物による警備付き。しかも、王都のど真ん中に強制着陸して納品できるという「最強の物流インフラ」が、寝ている間に完成していたのだ。
「……あんた、やっぱり天才やわ! これで配送料、全部利益やんけ! 利益率、百パーセント超えるで!」
エリの称賛(利益への歓喜)を受け、カシムは感極まった。
「……おお! もったいなきお言葉! 全ては、主の慈悲深き計画のおかげにございます!」
こうしてナニワ領に、前代未聞の「魔竜航空」がプレオープンした。王都へ向けた「最終通告(請求書)」を運ぶのは、もうすぐそこまで迫っていた。
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