通行料は「命の次に大事なもの」で払(はろ)てもらうで?
帝国軍の精鋭騎馬隊が踏み固めた大地は、皮肉にも王都と近隣諸国を最短距離で結ぶ、見事な「バイパス道路」に変貌を遂げていた。エリはその街道のど真ん中に、丸太を組んだだけの粗末だが頑丈な遮断機を設置した。
「よし。ここから先は『ナニワ・ハイウェイ』や。無断立ち入りは不法侵入、通るならキッチリ通行料払てもらうで」
エリはゲートの横に、手書きの看板を立てかけた。
『通行料:金貨一枚。または、それに見合う価値のある情報か現物』
カシムが門番として、神々しいまでの威圧感を放ちながらゲートの横に立つ。その後ろには、帝国軍から接収した馬たちが、大人しく物流用の荷車を引く準備をして待機していた。
「……エリザベス様。王都からやってくる商隊が見えました。皆、燃料不足と寒さで疲弊しきっているようです」
「カシム、あんた『可哀想やなぁ』なんて顔したらあかんで? 奴らは『お客様』や。お客様は神様やけど、神様からもお賽銭はもらうのが鉄則や」
やってきたのは、燃料不足の王都を救うために他国から薪を買い付けに行こうとする商隊だった。彼らは荒野に突如現れた関所に呆然としたが、エリはすかさず営業スマイルを繰り出す。
「はい、いらっしゃい! ここを通れば三日短縮できるで。時間は金より尊いって、商売人なら知っとるやろ?」
「な、なんだと……! 街道で金を取るなど聞いたこともない!」
「ほな、あっちのデコボコ道を通っていきなはれ。一週間は余計にかかるし、魔物も出放題やけどな。あ、それとこれ。長旅で腹減っとるやろ?」
エリが差し出したのは、領地で収穫した穀物の粉を燃焼石の熱で一気に焼き上げた、香ばしい「特製ナニワ・ガレット(粉もん)」だった。バターの代わりに燃焼石で煮出した薬草の香りが食欲をそそる。空腹の商人たちは、その匂いに抗えなかった。
「……くっ、このガレットはいくらだ?」
「通行料払った人には特別価格や! ちなみに関所を通る人には、王都で十倍の値段で売れる『燃焼石』の試供品もつけたるで。……な? 損はさせへんやろ?」
商人たちはソロバンを弾いた。通行料を払っても、時間が短縮でき、さらに燃料という「お宝」を仕入れられるなら、むしろ利益が出る。次々と金貨がエリの懐へと吸い込まれていく。
「まいどありー! はい、次の方どうぞ!」
カシムは、その光景を見てまたしても涙を流していた。
「……素晴らしい。エリザベス様は、飢えた商人に食料を与え、停滞した流通に光をもたらしておられる。金貨はあくまで、彼らの感謝のしるし……なんと高潔な仕組みなのだ……!」
(……よし、これで『現金』が回りはじめた。燃料を売るだけやなくて、流通の『心臓』を握れば、王家はもうウチに逆らわれへんで)
エリのソロバンの音は、乾いた風に乗って、凍える王都へと響き渡っていった。
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