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その日の名は  作者: 篁 石碁
その日の名は
7/11

その日の名は⑦

という美々の叱咤も耳に入らぬのか、小次郎はなおも叫んでいるが、そんな小次郎の叫びも虚しくエレベーターは下降し続け、反対に小次郎は目線を上昇させる。

 もう呆れ顔の美々が「だめだこりゃ……」と呟くが、自分もステージ中央にいるエスコート役の男達の中に、愛しの君らしき青年を発見すると、ガラスにへばり付く。

(……ベベルゥ君。もうすぐ会えるね)

 そうこうしている間にエレベーターは到着。扉が開き、目の前に広がる光景に、美々は思わず感嘆の声を上げていた。



「中将! 琉球大学の研究チームを中心とした国際海洋調査団の乗船する深海潜水調査艇支援母船『MーU』です!」

「ヒラニプラ遺跡と新種の生命体を発見したというレイジ=アキオ教授のチームか……」

「どうしますか中将」と、クランシー艦長が指示を仰いだ。

 ヘイズ中将は、ブリッジから『MーU』が強制停船させられている海域に目を向けた。

「作戦開始時刻の変更は認められない。……実験を目にしない様に、『MーU』の船室にでも軟禁しておけ。ま、見たところで、それを話しても誰も信じないだろうがな。どうせ、彼等が今目にしている原潜は、あと数分後にはいなくなるのだ……」

「タイゾー=モード博士の船です」

 下士官が叫んだ。実験海域では全ての作業が終了したようだ。各原潜に接舷していた小型船は全て離れ、タイゾー=モード博士の乗る船が、今フリゲート艦『カーツ』に横付けされた。

「何か問題ですか」と云ったのは、今『カーツ』のブリッジに上がって来た博士の助手のマクスウェル=ラガーとレイモンド=タイラーだ。


「何でもない。イルカが迷いこんだけだ。それより作戦は予定通り……」

「当たり前だッ!」と、遅れてブリッジに上がって来たタイゾー=モード博士が叫んだ。顔を紅潮させての激しいその口調に、博士の白髪の頭が前後に揺れる。

 その時、「作戦開始時刻十分前!」という声がブリッジに響きわたった。

 その声を聞いた博士は冷静さを取り戻すと、タイラーに命じて太平洋の海図を海図台に広げさせた。左端にはユーラシア大陸と日本、右端には北米・南米大陸。下にはオーストラリア大陸。そして、その三つの大陸に囲まれるようにして、もう一つの巨大な大陸がその海図に点線で書き込まれていた。その大陸の真ん中に赤く大きく書かれた文字……。


 それは、『MU』。


 そして、最終的なブリーフィングが行われると、

「こちら『カーツ』のヘイズである。『リーブス』『ファイフ』は指定位置に付けッ!」

 ヘイズ中将はマイクを持ち、他のミサイルフリゲート艦に通信を送った。そして更に、

「ロサンゼルス級『シカゴ』『カンサス』『デンバー』。現在状況を知らせッ!」

と通信を送ると、各原潜より「異常無し」との報告が入った。

「……サターン級一番艦『サタネル』。……トワイニンング大佐、異常ないか」

「こちら『サタネル』艦長マーク=トワイニング。異常無し」

 というその声を聞いたヘイズ中将は、今までとはうって変わった表情で、


「マーク……」と呟いた。


「何でしょうか、司令」


「……生きて、現代に戻って来い。……貴様のワイフを、我が娘を泣かせる様な事はするな。以上だ……」


「……アイッ! サーッ!」


 通信機を通じて聞こえるトワイニング艦長の声は掠れていた。そして、潜水艦乗り達に鬼と呼ばれたヘイズ中将もまた……。だが、ヘイズは帽子を目深に被り直して、

「各員が無事帰還する事を、太平洋潜水艦隊司令として強く願う……。健闘を祈る!」

 と、毅然とした口調で言い放った。

「カウント入りますッ! 作戦開始時刻一000Z、五分前ッ!」

 このブリッジにいる全ての士官、ロス級、サターン級原潜全てのサブマリナーは、この作戦の危険性を充分に知っていた。彼等はあの『エルドリッジ号』での惨劇の一部始終をフィルムで見ているのだ。だが、彼等にこの作戦への参加に対する拒否権はなかった。



 『エルドリッジ号』での透明化実験で偶然起こったテレポート。それを、アメリカは極秘に研究をし続け、終にタイム・テレポートの技術を得た。有人実験をする前に、軍は色々な物体を過去に送り込んだが、それが現在オーパーツ、即ち、その当時では技術的に絶対製造不可能とされる太古の遺物として発見されているのだ。

 だが、それは過去に送っただけで決して未来に戻って来ない。そして、一人の人間を過去に送っても、その人間は過去から未来には戻っては来れないのだ。だから! そのタイム・テレポート装置ごと過去に送ればいい。そうすれば、現在⇔過去、両方通行のタイム・テレポートが可能になる。

 しかし、一番のネックはそのエネルギー問題だった。即ち、過去に行った時に現在に戻る為のエネルギー、即ち磁力線を発生させたり、テスラコイルに流す膨大な電気をどう供給すればいいのか?それを解決したのが、原子力潜水艦である。

 原子力エンジンで得られる豊富な電力。過去に行き、そこでウランを補給しなくとも現在に戻って来られるだけの電力は充分供給出来る。何より、原潜は原子力船と共に今現在原子力で可動する乗り物である。然も、潜水艦は海に潜水していれば、過去の人間、過去の事象への干渉の恐れが殆どないと云っても過言ではない。だからこそカフィー博士も今回の作戦に協力した。過去への干渉は絶対しない。これが軍との絶対の約定だった。

 タイム・ワープ・マシン、即ちタイムマシンを、空想的産物としてその実現性を否定する学者が殆どだったのはつい最近の事までだ。相対論研究の泰斗、カリフォルニア工科大学のキップ・ソーン博士が一九八八年に「タイムマシンは可能」という論文を発表してから、プリンストン大学の天体物理学者リチャード・ゴット博士を始め、あの車椅子の物理学者、スティーブン・ホーキング博士が「クロノロジープロテクション・コンジェクチャー(年代保護局仮説)」なる理論を構築し、独特のタイムマシン理論を展開している。

 では、タイムマシンなど出来ないという学者の主張はどうかと云うと、因果律の破壊をもたらす現象は絶対に起きない、という事だ。即ち、タイムパラドックスの問題である。

 これはタイムマシンを題材にしたSF小説のポピュラーな例だが、ある男がタイムマシンを使い過去に生き、未来に自分の祖父となる少年を殺害してしまう。となると、そのある男はその瞬間に消滅してしまうのか?

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