魔道具屋にて
家から出ていつも通りの道を1時間程度歩くと町が見えてきた。
町は海に面しており、町に近付くと潮の香りが感じられるようになる。
この町は港町として発展してきた歴史があり、漁業を中心としてそれなりに活気付いている。
町には1万人くらいの人が暮らしており、昼に中央の通りに行くとはぐれてしまうくらいの賑わいを見せている。
僕は生まれてからこの町以外の町は見たことがないけれど、師匠の話によると1万人を超える町は少ないらしい。
町が大きいと店もそれなりに種類がある。
港町として魚屋が多いのはもちろん、果物屋や肉屋、八百屋やパン屋といった食料品店が中央の通りに所狭しと並んでいる。
食料品店だけでなく、雑貨屋や鍛冶屋と言った生活に必要な店も数多くあり、この町で生活をする分には困らない。
この町周辺では魔物は出ないため普通の人はあまり行くことはない武器屋や防具屋なんて店もあったりする。
普段の僕は町に行くのはあまり気乗りしないけれど、今日は事情が違う。
今日は魔道具屋に行くのだ。
魔道具とは錬金術で作られたものの事を言い、魔道具屋は基本的にそれを販売するお店だ。
魔道具屋は魔道具以外にも錬金術関係の本や魔導士用の杖なんかを売っていたりする。
この街の周辺に錬金術師は師匠しかいないので、この町の魔道具屋に並ぶ魔道具は必然的に師匠のものがほとんどになる。
たまに師匠作のもの以外が並ぶことがあるけれど、師匠作の物に比べると二束三文で売られている。
サフィに買い物より先に魔道具屋に行こうと誘い、魔道具屋への道へ進む。
魔道具屋は町の中央通りから少し離れた通りにある。
魔道具は高級品として扱われているため、魔道具屋はブランド物を扱うアパレルショップや高級家具屋が並ぶようないわゆるハイブランド通りにある。
「いらっしゃい」
魔道具屋のドアを開けるといつものように店主のやる気のない挨拶が聞こえる。
ハイブランド通りにあるけど、店主の接客態度はハイブランド通りに似つかわしくない。
この人はフゼイさんと言って、師匠の魔道具をいつも買い取ってくれる人だ。
「おや、アルスとサフィじゃないか。今日はアリスゼロさんと一緒じゃないのかい?」
来店者が僕とサフィと気付いたフゼイさんは声をかけてきた。
「うん、今日は一緒じゃないよ。今日は僕の作った魔道具を引き取ってほしいんだ」
そう言って僕は昨日作った魔道具を置いた。
この魔道具は練習がてら銅の塊に熱変換を組み込んだものだ。
初めての時より練習したことで洗練された回路を組み込めた気がするので持ってきて見てもらおうと思ったのだ。
「ほう、アルスが作ったのか。これは何の効果があるんだ?」
「これは熱変換を組み込んだんだ。魔力を込めると人肌くらいに温かくなるよ」
「ほう。値段はつかんと思うが、一応見てみよう」
そう言ってフゼイさんはカウンターから魔力石を取り出した。
魔力石は魔力を蓄えた石で魔道具に魔力を流すこともできるため、フゼイさんは魔道具の検査によく使っている。
フゼイさんが僕の渡した銅の塊に魔力石を触れさせると魔力石が鈍く光った。
そしてフゼイさんが「ほう……」と言いながら驚いた表情を見せた。
「アルス、これは本当にお前が作ったのか?」
「そうだけど、何かあったの?」
「よくできている。魔力効率が悪くない上に温度も適切だ」
フゼイさんは愛想は悪いけど悪い人ではないし、嘘をつくこともない。
そのフゼイさんが言ったということは本当に良くできたものということだ。
フゼイさんの言葉を聞いて僕は嬉しくなった。
僕は長い間、錬金術の才能はなく錬金術は出来ないかもしれないと思っていて、師匠に錬金術について上出来だと言われても不安が残っていた。
目の前に自分が作った魔道具があったとしても実感がなく、師匠の言葉に関しても師匠は親代わりであり慰めで言ってくれているのではないかという気持ちが拭えなかった。
第三者の人の意見を聞いてその気持ちが払しょくされた気がしたのだ。
「フゼイさん!値段はつくの!?」
僕は興奮してフゼイさんにそう聞いた。
「これなら銅貨1枚ってところだね」
「やった!」
僕は返事を聞いて声を出して喜んだ。
「銅貨1枚で喜ぶのか……まあいいが、買取でいいのか?」
フゼイさんが困惑しながら聞いてくる。
「お願いします!」
僕が返事をするとフゼイさん銅貨を1枚取り出す。
「はいよ、銅貨1枚」
僕は銅貨を受け取ると自分の錬金術で実績を上げたことの実感を再度得られた気がした。
「今日はありがとう、フゼイさん!」
僕はフゼイさんにお礼を言った後、手に入れた銅貨を握りしめ魔道具屋から上機嫌で出た。
貨幣の価値は
銅貨1枚100円
銀貨1枚1000円
金貨1枚10万円
白金貨1枚100万円
のイメージです。