錬金術の姉弟子
初めての錬金術をしてから数日後、師匠の応用編の講義を受け終わった後に自室で錬金術の勉強に励んでいると勢いよくドアが開かれた。
「アル!買い物に行くよ!」
大きな声で僕の愛称を呼びながら僕の姉弟子のサフィが部屋に入ってきた。
彼女はサフィゴン=ローゼリーナ。13歳になる師匠の娘である。
物心つく前から一緒に暮らしていたこともあり、兄妹同然の間柄である。
彼女は師匠譲りの金色の髪をなびかせながら僕の横に立った。
「早く行かないと日が暮れちゃうよ!アルはいつも勉強ばかりで他の事には目もくれないんだから!」
「はいはい、今準備するよ~」
錬金術の勉強を進めたかったが、断ると本を取り上げられてしまうため準備を始める。
そもそも今日の買い物に行く当番は僕だし、勉強に熱中して買い物を忘れてしまったことが何度かあったから何も言えない。
僕が買い物に行く準備を進めていると、サフィも買い物の準備をしているのが目に入った。
「サフィも行くの?」
「私も行くよ。町をぶらつくのも楽しいし!」
いつものことだが、僕が買い物に行くときはサフィがついてくる。
それのせいか、町の人たちには錬金術師さんの家の仲良し兄妹と認識されている。
町をぶらつくのが楽しいとのことなので、「買い物代わりに行ってきてよ、代わりに家の中の家事代わるから」と言ったことがあるが拒否された。
理由を聞いたら「2人で行くのが楽しいの!」と返された。
兄妹ではあるがよく分からない。
そうこうしているうちに準備が終わって2人で家から出た。
町は家から歩いて1時間くらいの距離にある。
何故そんなところに家を建てて住んでいるのか師匠に聞いたら、「町の近くに住むとうるさい」と返ってきたことがある。
ドラゴンなので距離に関してはあまり問題にならないんだろう。
ドラゴンではない僕にとっては1人で食材とかの買い物をして1時間かけて持って帰ってくるのは結構キツイので、サフィが一緒に来てくれると助かっていたりする。
サフィとは歩きながらよく錬金術の話をする。
話をすると言っても、基本的にサフィが最近やった錬金術の内容を僕が聞いている形が多い。
サフィの方が1年早く師匠に教えてもらっていることと、ドラゴンという種族柄生まれながらに魔力に慣れていることから、錬金術は僕よりも先に進んでいる。
だから自然と僕が聞く形が多くなる。最初は答えてくれているサフィも20分くらいずっと根掘り葉掘り聞く形になると飽きてくるのか露骨に話題を逸らそうとする。
いつもの形で僕が質問責めにしてサフィが飽きたころ、
「アルもドラゴンだったら買い物に行くのに楽なのにね」
と言って宙に浮き始めた。
サフィはまるで重力がないかのように空中を自由に動き回る。
前に10mくらい一気に進んだかと思えばUターンして円を描くように回ったり、まるで天使が遊んでいるような風景を作り出している。
サフィが使っているのは魔法。
ドラゴンは生まれながらにして魔力を持っているだけではなく、自分の身体に刻まれた魔法を使うことが出来る。
サフィは魔法を息を吸うように扱えるので、空中では自由に動き回ることが可能なのだ。
この魔法を使ってサフィは町まで5分で行くことが出来る。
ドラゴンに生まれていれば魔法を扱える。錬金術も難なく出来る。
サフィが魔法を使うたびに種族の差というものを実感する。
もう慣れたけど、幼少期は悔しくて泣いたこともあったっけ。
物思いにふけっているとサフィが前方で「置いてくよ~!」と呼び掛けているのに気が付いた。
「そんなに早く行けないから待ってよ~」と大き目な声で返事をする。
種族に差はあるけれど、錬金術はできるようになった。
いつかはドラゴンと同じくらいできるようになるんだと。そんな気持ちを胸に秘めながら目の前のサフィを追いかけた。