錬金術をやってみて
「錬金術の基礎の内容は今日で終わりだ。お前はもう錬金術の基礎知識は十分に身についたし、錬金術ができるかどうかはお前次第だ」
僕が12歳になった月、師匠はそのように言った。
錬金術の基礎が身についたということは、錬金術師にはなれなくても錬金術で作られた物品を取り扱う承認にはなれるくらいにはなったということだ。なる気はないけれど。
「錬金術の基礎が身についたんだ。錬金術を試しにしてみるかい?」
師匠が僕に対してそう問いかけた。
「はい!」
と僕は食い気味に返事をした。
師匠は錬金術の基礎が固まるまで僕に錬金術は試しでも絶対にするなと言っていたので、これが僕の錬金術デビューとなる。
「なら早速、『組込』をやってみようか」
『組込』というのは物質に魔力が流れた時に特殊な動作を行えるようにする錬金術のことで、動作をする回路さえ組み込めれば良い分魔力が少なくても行える。
「これに熱変換の『組込』をしてごらん」
師匠がそう言って掌くらい大きさの銅の塊を持ってきた。
熱変換は込めた魔力を使って熱を発するようにするもので簡単な錬金術の一つだ。熱変換を組み込んだ金属は貴族の暖房に使われている。
「やってみます」
僕はそう言うと師匠から塊を受け取り、それを机に置いた。
置いた塊に手を当てて、座学で学んだ回路をイメージする。
イメージした回路を魔力を用いて塊の中に刻み込む。
少ない魔力でも行えると言われていたが、実際やってみると全魔力の4分の1くらい使った。
人間は錬金術師にはなれないと言われている理由が分かった気がする。
「できたかい?実際に魔力を入れてみよう」
僕が言わなくても師匠には錬金術が終わったことが分かったらしく、師匠はそのように言って塊に魔力を流した。
「ほお、これはすごい。初心者にしては上出来じゃないか」
師匠はそう言って塊を渡してきた。
師匠から受け取った塊は体温くらいに温かくなっていた。
師匠から教えてもらったように温度を調節し組み込んだので成功と言える。
「錬金術なんて基礎習得に10年と言われているくらいなのによくやったね。これなら本当に錬金術師になれるかもしれない」
師匠は今までの冗談か本気か分からない言い方ではなく、真剣見を帯びたトーンで言った。
「僕は最初からそのつもりです。何年かかったとしても錬金術師になります!」
師匠はそれを聞くと「基礎が終わっただけだ。これから内容は難しくなるし、魔力訓練も激しくしないと上達は見込めないよ」と脅すように言った。
僕があっけにとられていると、「まあ、お前が本気で取り組めば上達するさ。頑張りな」と師匠は言った。
声のトーンから明らかに上機嫌だった。
こうして、僕の最初の錬金術は成功した。
ちなみにその日の夕食は普段出ないような豪華なステーキだった。