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かけや姫

作者: 竹富士 刑斗



昔々あるところに様々なパロディ小説を書く事で生計を立てる『猿真似の翁(さるまねのおきな)』という老人がいました。


翁は屋敷で伴侶であるお婆さんの助言を受けながらパロディ小説を書いているといつの間にか本棚に見覚えの無い金色に輝く本が収まっている事に気付きます。


不審に思った翁がその本を手に取り、開くと本から女の子の赤ん坊が飛び出して来ました。

子宝に恵まれなかった思った翁とお婆さんは元気に泣き声を上げるその子を育てる事に決めました。


かけや姫と名付けられたその子はすくすくと育ち、美しい女性に成長しました。

かけや姫の美しさはたちまち周囲の噂となり、屋敷の周りにしばしばかけや姫の姿を一目見ようとする輩がいる事もありました。


ある日、五人の貴族の男たちがそれぞれにかけや姫に求婚してきました。


かけや姫は男たちに自分の出すお題の通りの小説を書いてもらい、自分を満足させる出来の小説を書いた者と結婚すると言いました。


ある男は『龍の玉を奪い合う話』。


ある男は『火鼠の衣に身を包んだ青年が冒険を繰り広げる話』。


そんなふうにかけや姫は五人の男にそれぞれ別々のお題を出して、小説を書いてくるまでここに来ないように言い含めて屋敷から追い出しました。


五人の男たちは馬鹿正直に自分で小説を書いたりせず、プロの小説家を雇って代わりに小説を書かせました。


そうして、男たちは自信満々に自分で書いたと偽って、かけや姫に小説を見せました。

しかし、かけや姫はどの男にも


「どこかで読んだような展開ばかりでつまらない。

次はもっと斬新な話を書きなさい。」


このようにダメ出しして屋敷から追い出しました。

それでも諦めずに何度も男たちは挑戦しますが、そのたびにダメ出しを食らうばかりで一向にかけや姫から認められません。


そうこうするうちにかけや姫の噂は帝の耳にも届きました。

興味本位でかけや姫を身に来た帝は、一目見ただけでかけや姫に恋して、その場で求婚しました。


しかし、かけや姫は帝相手でも五人の男たちと同じ条件を出しました。

帝はその条件を受け入れ、五人の男たちとは違い自分自身で小説を書く事にしました。


最初のうちは帝の小説を酷評していたかけや姫でしたが、何度も書き直されていくうちに、


「まだまだですが見所はあります。」


「この場面は良かったですよ。

他はダメですが。」


などとある程度、肯定的な評価も聞くようになり、帝が小説を書き始めて二年が経ったころ、


「この二年間、良く頑張りましたね。

これだけ素晴らしい小説を書かれては私もあなたを認めざる負えません。」


帝の小説はかけや姫についに認められたのです。


「それでは私の求婚を受け入れてくださるのですね。」


「それなのですがもうその時間が無いのです。」


それはどういう事かと帝が問うと、

涙ながらにかけや姫が語ります。


「私は月の国の貴族でありながら、月で一番の文豪を監禁して、自分好みの小説を書かせようとした罪で、月よりも文芸的に遅れた地上に流刑となり、この屋敷の老夫婦に拾われて生きてきましたが刑期が終わるので月から私を連れ戻しに迎えがやって来るのです。」


それを聞いた帝は選りすぐりの兵隊をかけや姫の屋敷に集め、月からの迎えを追い返そうとしました。

しかし、月から来た迎えの者たちは帝の兵隊をあっと言う間に薙ぎ倒してしまいました。


観念したかけや姫は、


「私のためにここまでしてくださっただけでもう十分です。

私が大人しく連れ帰られればこの場は収まるはずです。」


落ち着いた声で帝を諭しました。


「しかし、それでは。」


「良いのです。

帰る前に貴方にこれを渡しておきましょう。」


かけや姫はそう言って懐から小瓶を取り出しました。


「この薬は『永文不老(えいぶんふろう)秘薬(ひやく)』といって、これを飲めば小説を一年に一作以上のペースで書き続ける限り不老となります。

どうか、私が居なくなっても執筆を続けてください。」


帝に秘薬を渡すとかけや姫は迎えの者たちに連れられて行ってしまいました。


残された帝は秘薬を飲みませんでした。

かけや姫以外の者に読んでもらうために小説を書く気にはなれなかったのです。

帝は秘薬を高い山の上に捨ててしまい、二度と小説を書く事は無かったそうです。


昔々、どこかの異世界であったかもしれないお話でした。




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