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生贄、のち寵愛。~魔物たちに食べられるはずがいつの間にか大切にされてます?~  作者: 杏仁堂ふーこ


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72.落ち着かないのは私だけ?

 翌朝、目を覚ますと隣にはルディがいた。

 最近ルーナが目を覚ます前に山に行っていることが多かったので朝まで横で眠っているのを見るのは久々だった。相変わらずふわふわの毛並みで、ついつい触りたくなってしまう。

 ゆっくりと起き上がりながら昨日のことを思い出した。

 買い物に行って、色々買ってもらって、眠れなかったので四人で月を見て──。

 そんなことを指折り思い出し、マチアスに会ったのを思い出したのは最後だった。

 憂鬱な気分にはなるが、絶望的な気分にはならない。恐怖があっても、ここにいる限りは大丈夫だと思える。

 村にいる時は誰一人として守ってくれなければ、味方になってくれる人もいなかった。なのに、レミもジェットもルディも、当たり前のように、あるいは何でもないことのようにルーナを守ってくれたのが嬉しかった。

 そんなことを考えながらぼーっとしているとルディがぱちっと目を覚ます。


「ルーナ、起きた?」

「うん、起きたよ。……おはよう、ルディ」

「おはよう。さっき、アインとトレーズが来て今日は休んでていいって言ってたよ」


 ルディを見つめたまま目を丸くする。昨日も午前だけだったのに、と。


「昨日買ってきた布を見て、修復できそうな使い魔の確認したいんだって。あと昨日のお出かけ疲れと、夜寝るのが遅かったのも心配してたよ~」

「そ、そう、なんだ……」


 気を遣わせてしまったのだろうか。申し訳ない気分になった。

 ルディは起きたルーナを上目遣いに見つめたままで起きようとせず、軽く笑っている。


「もっと休んでもいいんじゃないの~? 僕は昔一日中寝てることあったよ」

「私は置いて貰ってる身なので……」 

「でもその分ちゃんと仕事してるじゃん。使い魔や自動人形がたくさん動けるようになったおかげで屋敷はすっかり綺麗になったしね。レミはそのあたり全然ちゃんとしようとしなかったから、ルーナのおかげだよ~」


 ね。と笑うルディ。無邪気な笑顔にほっとして、「でもでも」と言いたがる自分が引っ込んでいった。


「じゃあ、今日は休んで、明日はちゃんとがんばる」

「そうそう、時間はいっぱいあるしね~」


 心臓の鼓動が跳ねる。ルディの言葉に他意がないのはわかっていても、ルーナにとってはどきりとする一言だった。

 ルディたちは人間よりずっと長生きで、人間であるルーナだって本来ならあと五十年くらいは生きられるはずだ。

 しかし、ルーナに残された時間は一年足らず。呪いのせいで、持って一年だと言われている。あまり気にしないようにしていても、こうやって何気ない会話の中でその現実を思い出して心が冷えるのだ。

 自暴自棄だったとは言え、自分が「やればいいんでしょう!」と受け入れたことなのに。

 まるで心臓の音を聞き分けたかのようにルディが首を傾げた。


「どうかした?」

「う、ううん。何でもない、よ。……今日は、どうしようかな……」


 ゆるゆると首を振って、気持ちを切り替える。

 急にお休みだと言われても何をしようか迷ってしまうのだ。いい天気なので全部の時間を読書に費やしてしまうのは勿体ないような気がする。

 とりあえずベッドに寝たままでいるわけにはいかないのでルディと一緒にベッドを降りた。


「ルーナ、特にやりたいことがないんだったら……今日は僕が選んだ服着て、一緒に遊ぼ? 遊ぶって言うか、庭でのんびりしようよ」

「庭で?」

「そうそう、日向ぼっこするだけでも気持ちが良さそうだし。昨日買った服を外でもちゃんと見たいし~」


 にこにこ笑いながら言うルディを見つめ返し、小さく頷いた。


「うん、そうしようかな。今日は天気もいいもんね」

「じゃあ決まり~!」


 ルディの尻尾が揺れた。魔獣姿のルディは感情表現豊かで、尻尾や耳の動きを見ているだけで何を感じているのかよく分かる。感情のままに言葉が飛び出すのも、最初は慣れなかったが今ではとてもありがたいと感じていた。

 二人でクロゼットの前に立つ。

 アインとトレーズがクロゼットに仕舞ってくれたと言っていたので、ゆっくりと開いてみた。


「……わー。ぎゅうぎゅうだね」

「……う、うん。ぎゅうぎゅう、だね」


 思わず同じことを呟いてしまった。それくらいにクロゼットの中にはみっちりと服が入っていたのだ。

 そもそも以前トレーズが買ってきてくれた服があり、そこに昨日買ってきた服を入れている。トレーズが買ってきてれたのは汚れても良さそうな普段着に近いものが多く、昨日の買った服はどう考えてもよそ行き用だ。しかもコートやらマフラーやらも買ったのでこの部屋にあるクロゼットには今ある分が限界だろう。

 ハンガーにかけられた服を掻き分けて、昨日ルディが選んでくれた服を探す。


「あ、これだね。ピンクの──」


 淡いピンクのカーディガンとスカート。全体的にふんわりとした作りで、裾がひらひらとしている。

 昨日は似合うと手放しで褒めてくれたものの、よくよく見れば可愛すぎるのではないかと不安になった。


「そうそう、それそれ~」

「わっ?!」


 魔獣の姿でいたはずのルディがいつの間にか人間の姿になっていたので驚いた。うっかり服を取り落としそうになったが、ルディが笑いながらハンガーを手に持つ。落ちたりしなくてホッとした。

 ルディはクスクスと笑いながらクロゼットの中から、昨日最後に買った白いショールを取り出す。


「これ羽織ればそこまで寒くないと思うよ」

「あ、ありがとう……」

「あと僕が選んだカチューシャかルーナが選んだバレッタつけて~。バレッタは僕の緑色の石がついたやつ~」

「わかった。そうするね」

「着るものも決まったし、ご飯食べよ? 食べ終わったら着替えてから庭に集合ね」


 言いながら、ルディはハンガーをクロゼットの取っ手部分にかける。

 普段はそこまで気にしないが、確かにこの服を来て顔を洗ったりご飯の準備をすると汚れるのが気になってしまいそうだ。

 ルディの言葉に頷いて、二人で厨房へと向かった。


 顔を洗ってご飯を食べ、もう一度部屋に戻る。

 するとジェットが部屋にいた。

 毎日髪の毛を結ってくれるのでおかしいことではないにしろ、全く気にならないわけではない。


「ジェット、おはよう」

「おはよ。──お前、バレッタくらいなら自分でつけれるだろ?」

「えっ?」


 思わぬ一言に驚き、ジェットをまじまじと見つめる。いつも下手くそだのなんだのと言いながら結局ジェットがやってしまうのだ。

 見れば、ジェットの手にはカチューシャとバレッタがある。

 似たようなバレッタが三つ買ってあって、違いと言えば埋め込まれている宝石の色だ。レミ、ジェット、そしてルディの目の色を思わせる宝石になっている。

 今、ジェットが手に持っているバレッタには緑色の宝石が埋め込まれていた。


「バレッタくらいなら、た、多分……」

「一つに結んで留めるだけじゃん。無理ならこっちにしろ」


 そう言ってジェットはカチューシャを揺らす。

 まるで朝の会話を聞いていたようだ。別に聞かれて困る会話ではないが、妙な違和感を覚える。


「あの、どうかした、の?」

「何が?」

「……わ、わからない、けど。いつもと違う感じがしたから……何かあったのかなって……」


 少し萎縮しているからか、敬語が出そうになった。それを飲み込んでジェットを見つめる。


「別に何もねぇよ。今日は俺が手ぇ出さない方がいいと思っただけ。髪は自分でやれよ。バレッタが無理でもカチューシャなら簡単だろ」

「う、うん……?」


 どうして今日に限ってこんなことを言うのかさっぱりわからず、ルーナはポカンとしたまま首を傾げてしまった。

 すると、ジェットが呆れたようにため息をつく。

 憐れむような視線を向けてくるので急激に居心地が悪くなった。居候とは言え、ここはルーナの部屋なのに。


「……デートだろ、ルディと。身支度くらい自分でやれよ」


 カチコチと、時計の秒針の音がやけに響く。

 一瞬何を言われたのかわからずに硬直した後、その意味を理解してボッと顔が熱くなった。


「でっ!??!? でーと?!?!?! で、でもあの、に、庭で遊ぶだけで」

「男女が二人で遊びに行く。デートだろ?」

「遊びに行くってほどじゃ」

「どちらにせよ二人きり。レミは寝てるし、俺も邪魔する気はねぇし」


 ルディと二人きりということよりも、ただただ『デート』という言葉に動揺している。

 火照った頬を両手で押さえて俯いたところで、「ぷっ」と吹き出す声が聞こえた。顔を上げようとしたところでジェットの手が頭に乗っかり、顔を上げられなくなる。


「なんてな。冗談だよ、冗談。まぁ、とにかく練習だと思って、髪も自分でやって」

「もっ……もう~~~!!!」


 一気に体の力が抜けてしまった。怒った声を出した直後、ジェットの姿が消える。

 部屋に一人きりになり、さっきジェットが持っていたバレッタとカチューシャはテーブルに上に置いてあった。

 ゆっくりと深呼吸をして自分を落ち着けてから、着替えをするのだった。

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