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生贄、のち寵愛。~魔物たちに食べられるはずがいつの間にか大切にされてます?~  作者: 杏仁堂ふーこ


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59.買い物に行こう②

 そして翌日の夕方。

 修復は午前中のみとなり、午後はになるとトレーズにあれこれと着替えをさせられた。

 普段通りの服を選んでいたら「イェレミアス様の妹という設定なのですからもう少し綺麗な格好をしませんと!」と普段着ないような服に着替えさせられてしまったのだ。

 淡いブルーのワンピースは腕部分がゆったりした作りになっている。袖口には白のレース、首元とスカートの裾にも白のレースがあしらわれていた。リボンタイも白色だ。防寒具としてポンポンがついたケープコートも羽織っていくように言われている。夜ともなれば外はかなり冷えるらしい。

 ジェットに可愛い髪型にしてもらった時以上の落ち着かなさがある。

 分不相応な気がしてならないのだ。

 本当にこんな格好でいいのだろうかと不安に思いながら姿見とにらめっこしていると、扉を軽くノックしながらジェットが部屋に入ってきた。人間の姿になったルディも一緒だ。


「着替えた? お、いいじゃん」

「ほんとだ~、かわいい~! ジェット、髪の毛はやる?」

「前髪だけな。髪留めとかリボン買うんだったらあんまり弄らない方がいいだろ。……まぁ、整えるくらいはするけど」


 そう言うとジェットがルーナの後ろに立ち、髪の毛をゆっくりと手櫛で梳いていく。


「ルディ、櫛取って」

「はーい」


 ルディが鏡台に置いてある櫛を取り、ジェットに手渡す。ジェットは櫛を受け取ると、すいすいとルーナの髪の毛を梳いていった。自分でも鏡を見てちゃんと梳いたつもりだったのだが、ジェットがやると何故か更に綺麗になるのが不思議だった。


「……あの。おかしくない? ですか?」

「またそれ? いいじゃんって言っただろ。何でそう疑うんだよ」

「そうだよ~。こんなに可愛いのに」


 ジェットが呆れながら言って目を細める。ルディは笑って言うとルーナの後ろから両肩をトンと叩いた。すぐ後ろで髪を梳いていたジェットが邪魔くさそうにルディを見つめた。が、ルディはその視線に気付かないふりをして笑っている。

 三人が映った鏡を見てから、自分の姿を直視していられずに俯いてしまった。


「場違いと言うか、分不相応な気がして……どうしても……」


 こんなことをいつまでも愚痴愚痴言ってはいけない。思ったとしても、せめて三人には言うべきではないと思っているのに、どうしてか口をついて出てしまう。

 自分自身が恥ずかしくなって縮こまった。

 にこにこと笑いながら顔を覗き込むルディ。


「安心したいなら何度でも可愛いって言ってあげるよ? だって本当に可愛いからね~。でもさ、今日はレミの妹って役割でもあるんだから、こういう格好してないとおかしいのもわかるでしょ? がんばろうね~」

「安心……! イェレミアス様の妹……! ますます自分のことばっかりで恥ずかしい……!」


 その言葉一つ一つがルーナに刺さった。

 どこまでも自分視点の心配しかしてないのに気付いたのだ。

 レミの妹という設定で街に行くから綺麗な格好をしていくのは当たり前だし、二人に「おかしくないか」と聞いてしまうのはただただ安心を得たいがための発言。

 穴があったら入りたいくらいの羞恥を感じ、両手で顔を覆ってしまった。


「……そういう自分に気付いたのは結構だけど、顔上げて。前髪弄れねぇんだわ」

「す、すみません……」


 ジェットに言われて、羞恥を堪えて顔を上げる。鏡で見ると顔が真っ赤だった。

 赤い顔を見たジェットとルディがほぼ同時に「ぷっ」と笑ったので、益々赤みが増してしまった。

 ジェットが笑いを堪えながら前髪をいつも通りに前髪を編み込みで横に流し、いつものリボンを横に結んだ。なんだかんだでこのくすんだピンクのリボンには愛着が湧いたので、仮に新しいものを買ったとしても使い続けたいなと思っていた。


「ルーナが自信持てないのは別に責めないよ。多分しょうがないことだし……でも、今後こういうことも増えると思うから慣れて欲しいし、僕が可愛いって言ったら笑って欲しいな~」


 その言葉に安心する一方で疑問が湧いた。

 ──今後こういうことも増える、とは?

 意味を問おうと口を開いたところで、開けっ放しの扉をノックしながらレミが入ってきた。


「悪い。遅くなった。準備は──……できているようだな」


 ルーナの姿を見たレミが満足げに頷く。

 しかし、ルーナの方はレミの姿を見て目を丸くしてしまった。

 何も言えずにまじまじとその姿を見つめてしまう。


「何かおかしいか? ……ああ、髪と目か。見る人間が見れば吸血鬼を思い浮かべる外見は好ましくないから、街などでは変えるようにしてるんだ」


 淡い金髪は銀髪に、血のように赤い目は深い青になっている。

 普段白いジャケットに白いシャツで全身真っ白だったのに、今日は白いドレスシャツに、黒のスラックス、ネイビーのコートを着ている。足元は黒のロングブーツだ。どれもこれも繊細な装飾がされていて品がある。

 ルーナの想像する貴族の出で立ちだった。

 ちなみにジェットは普段通り軍服のような黒いコートに黒尽くめである。ルディは裾長めのシャツにやや太めのベルト、膝に掛かる程度のキュロットを履いている。こちらは少々寒そうに見えた。


「ルディ、寒そうに見えるから上に何か羽織れ」

「動きづらくなるんだけどわかった~。ジェット、コート出して~」

「お前コート持ってねーよ。マント羽織っとけ」


 言うが早いか、ルディの頭上に謎の黒い空間が現れ、そこからマントがどさっと落ちてきた。どうやらジェットがやったようなのだが、突然のことにルーナは目を白黒させてしまう。

 ただ、三人にとっては日常的な出来事らしく、何事もなかったかのようにルディがマントを羽織っていた。


「……ジェット、今のって何……? ですか……?」

「無理して敬語使わなくていいんだけど……。俺の特技の一つ。なんて説明するかな……目に見えない大きい鞄を持ってると思っといて。自由に出し入れができて便利なんだよ」

「へ、へえ……」


 目に見えない大きな鞄という説明でふんわりとは理解したが、中がどうなっているのか一体それはどういう理屈なのかはさっぱりわからない。魔法なのかどうかも理解が及ばなかった。

 ジェットが頭をぽんぽんと撫で、軽く笑う。


「無理に理解しなくていい。そういうもんだ、って思っとけば」

「まぁ、そういうこともそのうち教えるから安心していい」


 いずれレミが教えてくれるらしい。ちょっと安心したし、楽しみになってしまった。

 レミがジェット、ルディ、ルーナを順に見る。


「さて、行くか。あまり遅いと回り切る前に店が閉まる」

「てか行く店は決まってんの?」

「事前にトレーズが情報をくれたから大丈夫だ」


 トレーズが用意してくれたケープコートを手に取り、羽織ってみる。じんわり暖かくて、ほっとする。

 そして「買い物リストはこちらに入れておきますわ」と言って用意してくれた小さなバッグを手に取る。刺繍がされていて、これまた可愛らしい。自分が持っていいのかと不安になるほどに。


「待て。お前がそんなん持ってたら一発でスられるから預かる」

「えっ、でも、その中に買い物リストが……あの、魔力布(まりょくふ)の……」

「……これか。店についたらバッグごと出して渡すわ」


 ジェットがバックの中から取り出して中を確認して再度しまう。結局バッグはジェットが預かることになってしまった。スられる可能性を考えるとルーナが持っていては危ないというのは理解できた。店の中では持たせてくれるらしいけれど。


「じゃあ行くか。──ジェット、頼んだ」

「はいはい。街中には転移しねぇから少し歩くぞ」

「問題ない」


 街の近くまで転移をするという話は聞いていた。どうやるのかは不明だ。

 三人に囲まれる形になっていると、不意に足元に不思議な魔法陣が現れる。ブォンと空間を震わせるような音を発生させ、魔法陣が発行した。

 驚いているとレミが肩を抱いて引き寄せ、大丈夫だと言いたげに微笑んだ。

 その笑みと肩に感じる手の感触にホッとしていると一気に視界が変わり──次の瞬間には、街へ続く街道に立っていた。

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