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生贄、のち寵愛。~魔物たちに食べられるはずがいつの間にか大切にされてます?~  作者: 杏仁堂ふーこ


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54.些細ではない変化③

 その日も昨日と同じメンバーで夕食を囲んだ。

 違うのはジェットの分も用意されていることだろうか。あとはアインとトレーズの他に使い魔のミミ(黒ネコ)、自動人形(ドール)のカリタも同席している。

 聞いた話では使い魔や自動人形たちはレミが食事をしているところを一目見たいと揃って駄々を捏ね、結局「静かにしているなら給仕係として二人までなら同席可能」ということで同席を許可されたらしい。カリタがミミを胸に抱き、おしゃべりなミミの口をぎゅっと押さえていた。

 おかげで見られている感があって落ち着かなかったのだが、視線が自分に向いてないとわかると徐々に緊張は解けていった。


「へえ? じゃあ、今日はジェットも手伝ったのか」


 昨日は「食べている最中だぞ」と食事中の会話を窘めていたレミだが、ルディやジェットが話すのを見て嗜めるのは諦めたようだ。食事の妨げにならない程度に会話へ加わってきた。

 本日のメニューは魚と野菜のグリル(野菜多め)、スープにパンである。

 レミ曰く、「品数はこれくらいがいい」ということだったのでメインとスープとパン、という構成になっていた。


「はい、すごく面倒くさそうでしたけど……手伝ってくれました」

「なんで一番面倒くさい野菜の下処理させるんだよ」

「……だって、私がやってるのを見て下手くそって言うし……」

「下手くそを下手くそって言って何が悪いんだよ。だからって俺がやるって意味じゃねぇんだけど」


 レミの正面にルーナ、そしてその右隣にジェット、反対側にルディだ。

 むっと口を尖らせてジェットに反論すると彼はやれやれと肩を竦めた。いちいち意地悪だし、口は悪いし、この悪魔(ひと)は一体何なのだろう。

 二人のやり取りをレミが楽しそうに見つめ、ルディは不満そうにしている。


「もー、文句ばっかり言うならジェットは手伝わなくていいよ。どうせ僕らと違って食事はしてもしなくても一緒でしょ? なら、食べなくてもいいじゃん」

「でも俺がやった方が早いんだよな。器用だから」


 ルディの文句などどこ吹く風と言わんばかりの態度のジェット。パンを千切って口に運んでいる。


「ふふ、面倒くさいというポーズを取らずに積極的に手伝ってやればいいのに。暇つぶしにもなるし、孤独にもならないんだから」

「うるせぇ。わかったような言い方すんな、ムカつく」

「それはお互い様だな」


 空気が若干ピリついた気がするのも一瞬のこと。レミとジェットが軽く睨み合ったかと思うと、すぐに視線を外してしまった。そんな二人を見たルディが小さくため息をつく。

 ほぼ全員食事は終わっており、トレーズが食後のお茶を用意し始める。

 ミミとカリタが手分けをしてテーブルの上の食器を下げていく。ルーナが手伝おうとするとカリタに「いいからいいから」とやんわり拒絶されてしまった。誰かに何かをやってもらう、というのは相変わらず落ち着かない。

 お茶が順番に配られはじめたところで、レミがトレーズの手伝いをしているアインを見た。


「──アイン、本を取ってくれ」

「はいっ!」


 アインは元気よく返事をすると奥の戸棚に置いてあった本を三冊持ってレミのところに戻っていく。レミの隣の席にぴょんっと飛び乗り、どこか嬉しそうに本を手渡していた。

 レミはアインから本を受け取ってタイトルを確認すると、それをルーナの前にそっと置く。テーブルは少し幅があったのでおそらくは魔法を使ってルーナのすぐ目の前まで移動させた。

 一番上の本をじっと見つめ、恐る恐る表紙に触れる。これまで渡された児童書とは雰囲気が違うので戸惑った。


「さっき言っていた本だ。ジェットのリクエストで歴史に関するも本も入っている」

「へー。お前が俺のリクエスト聞くとか珍しいじゃん」

「お前がうるさいからだ。それに……こういう知識は持っておくに越したことはないしな」

「え~? じゃあ、僕が何かリクエストしたらそういう本を選んでルーナに渡してあげるの~?」

「ルディはそもそも本に興味がないだろう……」


 ルーナの知らないところでそんなやり取りがあったとは知らなかった。

 歴史の本を手に取り、じーっと表紙を見つめる。

 祖父母には「勉強なんてしなくていいからとにかく働け」と言われていたので、自分がこんな風に知識を得られる日が来るとは思わなかった。

 難しそうなのが気がかりだ。


「……ルーナ? どうかしたか?」

「えっ!? い、いえ、……こ、こういう本は、初めてで……読めるかなぁって……よ、読めなかったり理解できなかったら、イェレミアス様にも、ジェットにも申し訳がなくて……!」


 ルーナの言葉にレミはもちろん、ジェットも驚いている。ルディは「気にしなくていいのに」と笑っていた。


「──なるほど。いきなり本だけ与えても難しいか。なら、オレが少し教えよう」

「……へ?」


 その「へ?」を発したのは間違いなくルーナだったが、ジェットとルディ、そしてアインたちも似たような声を発していた。

 何を言われたのか処理できず、反応ができない。

 代わりにジェットが目を(すが)めてレミを見つめていた。何か探るように。


「お前が? 教える? 歴史を?」

「別に歴史に拘らないし、誰かに教えられる程度の知識はあるつもりだ。知りたいことがあれば教えるさ。知識はいくらあっても困らないだろう」

「てか、どうしたんだよ。急にやる気じゃん」


 ジェットの疑問はそのままルーナの疑問だった。

 ずっとしんどそうにしていたのに、たかだか一回や二回食事をしただけで元気になったように見える。普通の家庭料理しか出してないのでひたすら不思議だった。

 自分の前に置かれた紅茶に砂糖を入れながらルディがくすくすと笑っている。


「僕やジェットと違ってルーナと関わる時間がないから寂しいんじゃないの~? 何ならミミよりも関わってないもんね」


 丁度すぐ傍を通ったミミを見て笑うルディ。テーブルの上で皿を片付けていたミミはびくっとしてから、レミとルディをあたふたしっつつ見比べていた。「静かにしているように」という言いつけをしっかり守っているようで、以前のように喋る気配はない。何か言いたそうな雰囲気ではあったが、自分の口元に手を当てて喋らないようにしているのが窺える。

 そして、ルディの言葉に地味に気まずそうな顔をしたのはレミ。

 レミの表情の変化を見過ごすはずがなく、ジェットが意地悪そうに口の端を持ち上げた。


「何だよ、仲間外れが嫌ならそう言えばいいだろ」

「ほんとほんと。お願いすればレミに合わせた生活サイクルにしてあげてもいいのに~」

「勝手なことを言うな。そんなことは考えてない」

「坊っちゃんはプライドが高ぇんだよなぁ……」

「プライドでお腹は膨れないのにね~」


 どこか得意げなジェットとルディ。拗ねたような表情を見せるレミ。

 三人の気の置けない関係。三人の間だからこそ通じる軽口。

 それらが伝わってきて、「いいなぁ」と心の中で羨む。羨ましく思うのに決して嫉妬なのではなく、じんわりと心が温まる感じがするのが不思議だった。

 が、ジェットとルディの間にいることにそわそわしてしまう。本当に自分がこんなところに座っていてもいいのかと。

 場違いな気がして縮こまっていると、横からトンッとジェットにこめかみを小突かれる。


「ルーナ、気を付けろよ。アイツ、プライド高いから」

「そーそー。歴史を教えてくれるって言ってもさ、ぜーったい知識をひけらかしたいだけだから。面倒だったら『すごーい』って言っておけばいいよ」


 ジェットもルディも楽しそうに笑っている。ルーナがそこにいることを忘れず、当たり前のように。


「……ルーナ、二人の言うことを真に受けるなよ」


 レミは気まずそうにお茶を飲みながらルーナに忠告をする。

 ふわりと心が軽くなる。

 ここに居てもいい、と許されたようで。

 これ以上この話を続けたくなかったのだろう。レミがわざとらしく咳払いをした。


「──話は変わるが、そのうち街に買い物に行こうと思う」

「は? お前、まだ体調が万全じゃ……」

「いや、食事をする前に比べたら調子がいい。夕方から夜にかけてなら出掛けても問題なさそうだ」

「ふーん。買い物って何買うの~? 必要なものはトレーズが買ってきてくれてるよね?」

「ルーナの衣類や装飾品だ」


 ぶっ! と、ルーナはお茶を吹いてしまった。

 いい気持ちになってお茶を飲んでいたところだったので衝撃である。


「リボンだっていつも同じものしかしてないだろう? もう少し種類があってもいいし、このあたりの冬を過ごすには衣類が足りないからな……」


 レミが当たり前のように言うのを、ジェットとルディが信じられないものを見るような目で見つめている。

 アインたちも似たような表情をしていた。


「……急にめっちゃ貢ぐじゃん、お前」

「どういう意味だ」

「いや、いいわ。まぁ、行く時は声かけろよ。移動は俺がやってやった方が早いし、まだお前は本調子じゃねぇから不安だし」

「僕も行くからね! ……なんかレミってずるいなぁ……」


 どうやら決定事項らしい。ルーナが「いいです」と言う暇もなく決まっていた。

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