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51.ナイショの話②

「言うことを聞いてたっつっても、自主的に聞いてたわけじゃないからな? 言うことを聞かざるを得ない状況だっただけ」


 それは一体どういう状況なのか、さっぱり想像がつかない。

 ジェットは自分が気に入らないことは梃子でもやらない印象がある。そんなジェットに言うことを聞かせる状況というのは一体何なんのだろう。

 疑問がありありと表情に浮かんでいたのだろう。ジェットがふっと笑った。


「俺が人間の言うことを大人しく聞いてたのが意外?」

「う、うん。あ、いえ、はい……全然想像がつきません……」


 口調が崩れたのを慌てて直す。昨日ルディに言われた「そのうち敬語を使わないでくれると──」という言葉も影響していた。とは言え、ルーナの言い直しをジェットは気にした様子はなかった。ジェットも口調は気にしてないのだろう。


「悪魔と人間の関係って基本的に『契約』なんだよな。人間側が悪魔を喚び出して対価を差し出す。悪魔がその対価に納得すれば、悪魔と契約して悪魔は人間側の望みを聞くって感じ。

 で、俺はその『契約』でチビの面倒を見ることになったってわけ」


 つまり、人間が差し出した対価にジェットは納得したのだ。一体どんな対価だったのだろうか。


「えー、その話って本当だったんだ~? レミから聞いたけど何か面白おかしくされてるだけかと思ったよ~」


 もっと詳しく聞いてもいいか躊躇っていると裏庭からルディが入ってきた。

 人間の姿で果物を抱えていたのでちょっとびっくりする。朝はいつも魔獣の姿だったので、余計に。


「ルディ、おはようございます」

「おはよ~、ルーナ。……あ! 今日の髪型可愛いね、僕それ好きだな~」


 ルディが近付いてきてルーナの髪型がいつもと違うことに気付いてにこにこと笑う。褒められ慣れてないので照れてしまった。


「似合うから自信もっていーよ。ね、ジェット」

「それはさっきも言った」


 ルディが髪の毛に少しだけ触れてから、ジェットへと視線を向ける。ジェットがやや呆れ顔で「もっと言ってやれ」と付け足していた。あまり褒められすぎると、居心地の悪さを感じるので困る。

 ルディが抱えていた果物をテーブルの上に並べていく。どれもこれもルーナが見たことないものばかりで目を白黒させてしまった。林檎に似ていたり葡萄っぽかったりするので、それらの亜種だろうか。

 驚きを隠せないまま、ルディと果物を見比べる。ルディはルーナと目を合わせてにっこり笑った。


「山の奥に珍しい果物があるのを思い出して取ってきたんだ。見慣れないかもだけど、美味しいから安心して」

「あ、ありがとうございます……」

「……花の次は食い物かよ。ガキの発想だよな、ほんと……」


 ルーナとルディを見たジェットが呆れ混じりのため息をついている。一体何のことかとルディともう一度顔を見合わせてしまったが、流石に「ガキ」と言う単語にルディがむっとしていた。


「ルーナルーナ。さっきの話の続きなんだけどね、ジェットって、喚び出した術者の孫の命令を聞くって契約を受けちゃったんだって。だから、その孫娘に逆らえなかったんだよ。お嬢様と執事みたいな関係だったらしくて、髪の毛結うのが上手いのはその子に色々とケチつけられたから、練習してたらしいよ。おっかしいよね~!」

「おい、ルディ。適当なこと言うな」

「え~? レミが笑いながら話してくれたよ? 小さな女の子の言うことに振り回されてるジェットがめちゃくちゃ面白かったって言ってたな~」

「……あの野郎」


 小さな女の子に振り回されるジェット──。

 想像したら随分と面白い光景だった。笑いそうになるのを堪えるため、口元に手を当てて肩を震わせる。

 しかし、そんな抵抗などジェットにもルディにもすぐにバレてしまった。ジェットに頭を軽く叩かれる。


「笑うな」

「ご、ごめんなさ」

「いやいや、笑うでしょ~。ジェットって命令されるの大嫌いなのにさ」


 咄嗟に謝ろうとしたところでルディがそれを遮ってしまった。「命令されるの大嫌い」と聞いて「やっぱりな」と心の中で同意した。

 けれど、命令されるのが嫌いなのにどうして契約をしたのだろうか。対価に納得する必要があるとしても、いまいちしっくり来なかった。


「ジェット。『契約』って絶対なんですか……?」

「『契約』を交わしたらもう絶対。術者が死ぬか、契約を完遂するか、約束の期限までな。無理やり破棄したり無視したりすることもできるけど、大抵ペナルティがあるからな……どの悪魔も基本破ったりはしない」

「なるほど。だから、小さな女の子の言うことを聞いてたんですね」

「……。……まぁ、あのチビに先に会ってたら『契約』しなかっただろうけど」


 またもルディと顔を見合わせて、二人で首を傾げてしまった。どういうことなのかわからなかったからだ。


「俺を喚び出したジジイに『いい子だから手も掛からないだろう』って言われて、その時はそれを信じたんだよ。ジジイの目が腐ってるだけだったし、実際は甘やかされまくったとんでもない暴君だった」


 盛大なため息と共に過去のことを教えてくれるジェット。これまで見たどの表情よりも実感が籠もっており、本当に大変だったのだろうというのが伝わってくる表情と声だった。

 ぷっとルディが吹き出していた。釣られてルーナも笑い出しそうになったが、どうにか耐える。


「おい、笑うな」

「あははは! だって、ジェットがそんな風に言うってことは本当に大変だったんだろうなーって想像したら……ぷぷぷ」

「わ、笑ってな……っふ、……ふふふ……!」


 ルディが盛大に笑っているものだから、今度こそ釣られて吹き出してしまった。一度笑いが出てしまうと止めるのは非常に困難である。

 ルディと一緒になって笑っていると、ジェットが深くため息をついた。


「……ったく」


 ジェットの手が伸びてきたかと思えば、ピンっと額を弾かれてしまった。まぁまぁ痛い。ルディはチョップされていた。


「いった?! もう、すーぐ叩く!」

「笑うなって言ってんのに笑うからだろ」

「笑える話する方が悪くない?!」

「笑い話のつもりじゃねぇんだよ。ただの昔話だっての」


 デコピンされた額を押さえつつ、ルディがジェットに文句を言っているのを眺めていた。

 今の話をルディがレミを通して聞いていたのに驚いたし、レミが笑いながら話したというのにも驚いた。ジェットとルディ、二人を見比べていると、二人の視線がこちらに向いた。


「何だよ」

「ルーナ? どうかした? なんか気になる?」

「三人の年齢ってどうなってるんだろう、って……ふと気になったんです」


 控えめに聞いてみると二人が一度顔を見合わせてから、もう一度ルーナを見る。


「俺が一番年上、その次がレミ、コイツが一番ガキ」


 ジェットがレミの祖母と面識があると聞いていたから、何となく想像していた通りだった。説明の仕方が気に入らなかったのか、ルディがジェットを横目で睨む。


「まーたガキって言う~! ルーナ、僕らの場合は人間と違って生きた年数はそんなに重要じゃないよ。年齢よりも強さや魔力量とかの方が重要だから」

「強さって言うと……」

「まぁ、実際戦うと手っ取り早い。だから意見が割れて譲れない時は結構バトっちゃうよ、僕ら。勝った相手の言うことを聞くってルールでやってる~」


 先日の屋根の上での戦いを思い出して軽く身震いをする。案外日常的なことだったらしい。

 人間であるルーナとは常識や価値観がやはり違うのだ。

 もっと聞いてみたいような、聞きたくないような──微妙な戸惑いを感じながら、ルディの持ってきてくれた果物に触れる。


「え、えっと、そろそろ朝ご飯いただきますね。……ルディ、これ、貰います」

「うん、どーぞ。僕にもちょっと分けて?」

「わかりました。ルディの分も切り分けますね」

「ルーナ、俺も」


 珍しくジェット欲しがったので驚く。ルディがジト目でジェットを睨んだ。


「……ジェットに食べさせるつもりで取ってきたわけじゃないんだけど」

「いいじゃん、一口くらい」

「……普段食べ物要らないって言うくせに……」


 ルディが不機嫌そうなのが不思議だった。そんなルディを見てジェットが笑いを堪えている。

 二人を見ているとジェットが嫌がらせのつもりで欲しがったのがわかる。しかし、どうしてこんな嫌がらせをするのか、ルーナにはわからなかった。

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