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生贄、のち寵愛。~魔物たちに食べられるはずがいつの間にか大切にされてます?~  作者: 杏仁堂ふーこ


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37.散歩②

「アイン、どうしたんですか……?」

「ルーナが今日一日お休みと聞きましたので追いかけてきました。今日からワタクシがルーナについていますので」


 アインはジェットの足元まで来るとルーナを見上げた。ジェットがそれを見下ろして鼻で笑う。


「……どうせトレーズに邪魔になるとか言われたんだろ」

「ちちちち違いますよ! 換金できそうなものはある程度見繕い終わりました! その後、じゃあ使い魔の誰がルーナにつくのがいいのかと検討した結果、ワタクシになっただけです! ですので、ワタクシもお連れください!」


 そう言ってアインがジェットの足元で跳ねた。可愛い。

 アインが魔法などを使っているのを見たことがないし、ぽてぽてと走ったりテーブルの上に飛び乗ったりしているシーンを見たことがあるだけだ。とてもじゃないがジェットやルディのように単独でこの高い石壁を飛び越えられるとは思えない。

 つまり、ルーナが抱っこして連れっていて欲しいということだと思われる。

 が、ジェットは動かず、代わりにルディがアインに近付いた。


「しょうがないな~? 特別だよ?」

「えっ? う、うわ、ぎゃあぁー!」


 あろうことか、ルディはアインの頭を咥えた。上からがぶりと咥えられたせいで前が見えないのだろう、アインがばたばたと暴れる。

 あれは怖いなと思っていると、予備動作も何もなくジェットの体が宙に浮いた。突然のことに驚き、思わずジェットに抱きついてしまった。


「お。怖かった?」


 石壁の上に片足を乗せたジェットがおかしそうに笑ってルーナを見る。顔が近かったが、そんなものは気にならない。

 ルディはアインを咥えたまま、ぴょんっと石壁を越えていく。


「飛ぶって言ってください!」

「スリルがあっていいだろ?」

「もうっ……!!」


 すとんと地面に着地し、ジェットがルーナを開放した。

 石壁の向こう側、人の手が全く入っていない森が広がっている。ルディの言っていた通り、木々は黄色や赤に染まりつつあった。紅葉は確かに綺麗で、思わず周囲の木々の彩りに見惚れてしまう。

 今は秋で、すぐに冬が来るのだ。

 村での冬支度は大変だったなぁと思い出していると、ジェットの手が頭の上に乗っかった。


「な、なんですか?」

「あっちだってよ」


 そう言ってジェットが森の奥へと顎を向ける。見れば、ルディがゆっくりと歩いていた。足元にはルディから開放されたアインがいる。


「ここに来たの、初めてです」

「だろうな。お前のいた村からこんなところまで来ることねぇだろうし」

「はい、そもそも屋敷には近付かないですし……あ、そうだ。アイン、抱っこしてあげますね。歩くの大変でしょう?」


 そう言って腰を屈め、アインを抱き上げる。アインは驚いたようにルーナを見つめていた。

 胸に抱いて、ルディの後を追ってゆっくりと歩き出す。少し後ろをジェットがついてきた。


「ルーナ、ありがとうございます。歩く速さが違うので助かりました」

「こうしてアインのことを抱っこして歩いてみたかったので丁度良かったです」


 腕の中のアインがこちらを見上げたので、ルーナも見つめ返して笑った。昔、両親に買ってもらったぬいぐるみを思い出すのは秘密だ。そのぬいぐるみはクマではなく、白いウサギだった。

 その様子をジェットが眺めている。

 ルディがどんどん奥に進んでいくのでついていくのが大変だ。

 しかし、ルディが足を止めてルーナたちの方に駆け寄ってきた。ルーナの目の前に戻ってきたかと思いきや、突然人間の姿になってしまう。


「えっ?! ル、ルディ、どうしたんですか?」


 ルーナの横に並ぶルディを見て首を傾げる。ルディは眉を下げて頬をかいた。

 どうしても獣の姿に慣れているので、こうして人間の姿になられると戸惑うのだ。全く知らない人間がルディの声で喋っているような印象が拭えなかった。もちろん、姿が違うだけで中身がルディだというのは理解している。


「んー? いや、屋敷の外に出るなら僕も人間の姿の方が良いかなって思って……元の姿の方が動きやすいんだけど、万が一人間に見つかったら色々厄介だし……」

「へぇ、お前もそれくらいの知恵が回るんだ」


 横から余計なことを言うジェット。茶化すような言い方にルディが口を尖らせた。

 ルーナの左側にルディ、右側にジェットがいるので必然的に挟まれている。間に挟んで喧嘩は止めて欲しいなぁと思うものの、まだそこまでの雰囲気ではない。屋根の上での喧嘩を見てしまうとこれくらいはじゃれ合いに思えた。


「ルーナ、ジェットはほっといてさっさと行こ。あっちはもっと綺麗だし、小川もあるよ」


 そう言ってルディがルーナの手を取って引っ張る。

 片手でアインを抱いて落とさないようにし、ややつんのめりながらルディに引っ張られるまま奥へと向かった。

 森の中は静かで、自分たちの足音がよく聞こえる。遠くからは鳥の声が聞こえた。

 ゆっくりと過ぎてゆく景色を眺めつつ、ジェットを振り返ると呆れたようにため息をついているの見えた。すぐルーナの視線に気付いて意味ありげに笑い、距離が開きすぎない程度に追いかけてくる。

 衝動的に抱きついてしまってから、どうにもジェットの顔がうまく見れない。慌てて進行方向を向いた。


「あ、あの、ルディ!」

「ん~?」

「……朝のこと、気にしてない、んですか?」

「朝??? ……ああ、ジェットと言い合いしたのと、レミにごちゃごちゃ言われたこと?」

「ごちゃごちゃ……」


 ルディが前を向いたまま、ちらりと視線だけ向けてくる。

 ルーナが思うほどに気にしてなさそうな雰囲気だ。ルディは少し考え込んだ。


「気にしてもしょうがないって感じかな~? 僕らの意見がぶつかるのって結構よくあることだしね。そのせいでよく喧嘩もしたし。……でも、今回はルーナがいるのを忘れてた。たぶん、レミはルーナのこと忘れるなって言いたいだけだと思うよ。……まー、色々モヤモヤはするけど、……最初にルーナに声かけたのって僕だしね。そういう意味では、まぁ、責任みたいなのがあるよね~」


 軽い調子で答えが返ってきた。ルーナにとっては彼らが言い合いをしたのを見るのは初めてだったが、本人たちにとってはよくあることらしい。

 納得しながら歩いていると、いつの間にかジェットがすぐ近くにいた。ルーナの斜め後ろを歩いている。


「レミって人間が好きなんだよな、結局。だからほっとけない」

「確かにね~。甘すぎって思うことがあるよ」

「慈悲深いと言って下さい!」


 ジェットとルディの会話にアインが参戦する。あるじであるレミを悪く言われるのは我慢ならないらしい。ルーナの腕の中で、小さな手をぶんぶんと振っている。

 それを聞いたジェットとルディが顔を見合わせ、楽しそうに笑った。


「あはは、そうそう。慈悲深いんだよねぇ、レミって」

「たまに慈善活動とかやってる。酔狂だよなぁ、ブラッドヴァールの奴らは」

「むきー! 茶化さないでください! ──ルーナ! 本当に、いい意味で! イェレミアスさまは慈悲深くお優しい方なのですよっ」

「えっ!? は、はい。優しい方だと思います。本を教えてくれたり、今日も落ちそうになったところで助けてくれたり……本当に、感謝しています」


 アインがルーナを見上げて必死に訴える。そこまで必死にならなくてもと思いつつアインの言葉に同意をした。ジェットとルディの目にレミがどう映っているのかは知らないが、少なくともルーナにとってはとても優しい存在である。

 ジェットとルディが面白くなさそうな顔をするのを見て、こっそり笑う。


「私、ジェットとルディにも感謝しています。……食べ物をくれて、面倒を見てくれて……髪の毛も、こうしてやってくれて……今の私は、とても恵まれているなぁって思ってます」


 二人の顔を見つめながら言えば、さっきまでの面白くなさそうな表情が満足そうなものに変わった。案外単純なのかも、と思ったのは秘密である。

 「アインにも感謝してます」と伝えれば、腕の中のアインが嬉しそうにするのが伝わってきた。

 少しずつだが周りとのコミュニケーションもできるようになってきている。上手くいってるといいなと思いながら秋特有の彩りと香りを楽しむのだった。

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