おまけ② ~雪の降る日のこと~
おまけ②です。ルーナ不在。クリスとフェイが出てきます。
「ただいまー!」
冬も深まり、しんしんと雪が降った日の夕方。
屋敷の玄関扉をバーンと開け放ち、フェイが意気揚々と入ってきた。その後ろにはクリスの姿もある。
確かに屋敷へ自由な出入りと滞在の許可は出した。
しかし、あたかも実家のように使っていいとは言ってない。
外はもう暗いため、たまたま玄関近くにいたレミが彼らの元に向かった。ルーナは風呂に入ったところだ。
「フェイ。『ただいま』は違うだろう」
「え? もう実家気分なんやけど?」
「そういう意味で許可を出したわけじゃない。というか、なんだその荷物は」
フェイは手に荷物を抱えていた。
綺麗にラッピングされたプレゼントの箱が重ねられている。そのせいで顔が良く見えないほどだ。
「ルーナちゃんへのプレゼントやけど?」
「プレゼント? ……何故だ?」
訝しみながら尋ねると、フェイが驚いた顔をする。バランスを崩しそうになったので抱えているプレゼントを一度床に置いた。
フェイが助けを求めるようにクリスを振り返る。
クリスも同じようにプレゼントらしき箱や袋を持っていた。
質問を向けたタイミングで、ジェットとルディが「なんだなんだ」と集まってきた。
二人ともクリスとフェイの来訪に嫌な顔をしてから、彼らが持ってきた溢れんばかりのプレゼントを見ていぶかしげな顔をしている。
「イェレミアスさんはご存じありませんか? もうすぐ『聖夜祭』があるんですよ。
レムス王国の人間なら誰でも知ってる特別な日です」
「なんやっけ? 初代国王が生まれた日?」
「ええ。同時に、レムス王国の建国日でもあります。まぁ、今はただのお祭りという要素が強いですが……親しい者同士でプレゼントを渡し合ったり、一日を共に過ごす日になっています」
ジェットとルディが「そう言えばそうか」「へー、そうなんだー」と納得している。
しかし、引っ掛かりを覚えたらしいジェットがフェイを見た。
「でもお前らは別にルーナと仲がいいわけじゃねぇだろ」
「ぶっぶー。告白の日でもあるんですぅ」
フェイが手で大きくバツを作り、あからさまに茶化した。当然ジェットは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。レミもルディも似たような反応をしてしまった。
二人の反応を見たクリスが肩を竦めて苦笑する。
そして、「まぁまぁ」と言いながら二人の間に割って入った。
「『聖夜祭』を共に過ごした者同士は、その関係が長く続くという言い伝えがあります。レムス王国が八百年も続いているようにね。
そのため、若い人たちにとっては『恋人の日』や『告白の日』、家族がある人にとっては『家族の日』なんですよ」
なるほど、理由はともかくとしてクリスとフェイの二人がこうしてプレゼントを持ってきた理由は理解した。
が、疑問なのはその量だ。
「でもさー、なんでそんなにたくさんプレゼントがあるの?」
同じように不思議に思ったルディが口を尖らせながら聞いた。
二人は顔を見合わせて肩を竦めて笑う。
「自分らはルーナちゃんの境遇よう知らんけど……まともに『聖夜祭』」過ごしたんはいつまでやったんかなーって考えたんや。で、変に区切るのもやらしー話やから年齢分用意してきたってだけ」
「まぁ、私たちからルーナさんへの気持ちの代わりですね」
気持ちの代わり――。
その発言にモヤッとしたのはレミだけではないはずだ。
三人揃って苛立っているのを感じたのか、フェイがおかしそうに笑った。
「まぁ、もちろんルーナちゃんが『聖夜祭』にええ思い出がないかもしれん。その場合はただのお土産ってことにするわ」
「そうですね。先に確認すべきでしたが、気付いたのが買った後だったので……。
とりあえず、イェレミアスさん。このプレゼントを置く部屋をお借りしますね」
そう言ってクリスとフェイはもう一度プレゼントの山を抱え直し、屋敷内を遠慮もせずに歩き出す。
三人の前を通り過ぎたクリスが「ああ」と小さく声を上げて視線を向けてきた。
「……『聖夜祭』までまだ十日ありますよ。今からでも準備されたらどうですか?」
「せやせや。自分らより君らから何かもらった方がルーナちゃんも嬉しいやろうしな」
それだけ言い、クリスとフェイは三人の元から去っていった。
そして。
残されたレミ、ジェット、ルディは顔を見合わせる。
あの二人があれほど用意しているのに、何もなしというわけにはいかない。
――あと十日。
当日までに三人が山のようなプレゼントを用意したのは言うまでもなかった。
ここまでお読みくださってありがとうございます!
「生贄、のち寵愛。」はこれにて更新終了です。お付き合い、本当にありがとうございました^^




