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生贄、のち寵愛。~魔物たちに食べられるはずがいつの間にか大切にされてます?~  作者: 杏仁堂ふーこ


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121.運命の外側をなぞって①

 以前から距離感が変わったと思う。

 ルーナに対して一線引くようになった反面、こういう時のルディはルーナとのスキンシップを積極的に行ってくる。それがちぐはぐで不思議だったのだ。屋敷を逃げる前に見た夢とかその前のルディの行動などから、てっきり嫌われたのかと思ったけれど、昨日の夜や今の行動を見る限りそうは思えない。

 前から「言いたいことは言え」とジェットにも言われていたし、三人に対して何も言えない自分ではなくなった。

 そう思って聞いてみたのだが──ルディは酷く動揺していた。


「えっ。えーっとぉ……それは、ほら、前に言ったじゃん。まずいって……」

「まずい……?」


 残念ながらルーナには何故まずいのかがよくわからず、首を傾げるしかない。

 ジェットは笑いを堪えながら様子を伺っているし、レミは何とも気まずそうな顔をしている。二人の様子も謎で、ひたすら頭上に「?」を揺らすことになった。


「……聞かない方がいい、ってこと?」


 てっきりこれまでのように教えてくれるかと思ったが、これは聞いてはいけないことらしい。残念な気持ちもあったが、三人にも事情があるのはわかっている。

 戸惑うルディをじっと見つめていると、ジェットが目を細めてルーナを見る。


「聞いてもいいけど、それなりの覚悟を持って聞いてくれねぇと困るんだよなぁ」

「か、覚悟???」

「そ。覚悟」


 何が何だかわからない状態だ。一体何の覚悟が必要だというのか。

 ルディ、ジェット、それぞれとのやり取りを聞いていたレミがゆっくりと立ち上がる。


「話したいことは話したのでこの辺にしておこう。もう昼だ。……オレは少し寝る。ルーナも気疲れしただろうから休んでいるといい」


 そう言ってレミはこの場を終わらせてしまった。

 やや釈然としない気持ちもあったが、目の前でクリスが血を飲み苦しんだことはショックである。フェイが途中で隠してくれたとは言え、黒い血のような物を吐き出すシーンは夢に出そうだ。

 レミの言葉に甘えて、少し休ませてもらうことにした。



◇ ◇ ◇



 部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。

 少し遅れてアインが部屋に入ってきた。ぴょんぴょんと跳ねるように走ってきてベッドに飛び乗る。


「ルーナ、大丈夫でしたか?」

「うん。びっくりすることもあったけど大丈夫」

「……そうですか」


 複雑そうな声音で頷き、アインは寝るのに邪魔にならない位置に座り込んだ。アインはこうしてずっとルーナの傍にいてくれた。ぱっと見はぬいぐるみなので見ているだけで癒やされる。

 少し眠ろうかと思っても、黒い血を吐くクリスの姿を思い出してしまって眠れそうにない。

 ぼーっと天井を見上げているだけだ。


「……ねぇ、アイン」

「はい、何でしょう」

「世の中、色んな人がいるんだね。私、自分の寿命のことなんて深く考えたことなかったよ。……特にここ最近、ううん、呪われてからは……来年の今頃には生きてないんだってくらいしか考えてなくて……」


 アインは何も答えなかった。いや、どう答えるべきか迷っているようだった。

 天井を見つめたまま、永遠に生き続ける自分のことを考えてみるが、上手く想像できない。


「長く生きるってどういう感じなんだろう……二百年前の戦争って言われてもピンと来ないし、五百年生き続けてるって言われても全然想像できないよ」

「……それは、人間であれば当然じゃないでしょうか」


 座り込んだアインがルーナを見つめて控えめに言う。ゆっくりと起き上がってアインを見つめた。アインは短い手で腕組みをしながら考え込んでしまう。


「ワタクシの寿命もあってないようなもので……体にガタが来れば動けなくなるのですが、中にある核が無事なら動き続けられます。ただ、人間は明確に体の限界もありますし、魂の限界もあります。二百年や五百年なんて途方も無い時間ですよね」


 魂の限界というものはよくわからないが、体の限界はわかる。怪我や病気、そして老い。或いは稀なケースでルーナのように『呪い』によって体が蝕まれるケース。

 ルーナの体はまだ健康そのものだが、クリスによれば『呪い』をかけられてから半年ほどで体に変調があるらしい。自覚症状は一切ないが、普通に動いていられるので今は大丈夫なのだろう。


「だから、あまり気にしない方がいいですよ。まずは『呪い』を解くことを考えましょう!」

「そう、だね」

「前にも聞きましたが、『呪い』を解いたら何をしたいですか? 例えば新しい本をたくさん読みたいとか、学校に行きたいとか、何なら旅行に行きたいとか! イェレミアスさまは喜んで叶えてくださるはずです! どうせですから未来のことを考えましょう!」


 先日聞かれた時よりも前向きに想像ができる。

 確かに本も読みたいし、通えるなら学校にだって通ってみたい。ルディと話していた氷の湖というものも見てみたい。

 ただ、どれも自力で叶えられそうにないのが気がかりだ。アインはレミが叶えてくれると言うけれど、本当にそれで良いのだろうか。


「……『呪い』が解けたら、」

「解けたら?」

「……。……三人に、何かお返しがしたい」

「へっ?!?!」


 そう言って膝を抱えた。アインの頓狂な声が聞こえる。

 これまで口にした時よりももっとずっと気恥ずかしくて、アインと言えど誰かに対して言うにはあまりにも照れくさい。


「レミには血を飲んでもらいたいし、ジェットにもルディにもお返しがしたいの……私、してもらってばっかりだったから……」


 ずっと三人に甘えてばかりだった。

 最初こそ怖いこともあったけれど、今は全くそんな気持ちなどない。感謝があるだけだ。

 だが、問題なのは人間であるルーナよりもジェットとルディは格段に何でもできるし、自分で手に入れられる。何かお返しがしたいと言ってもルーナにできることなど何も無いのが現実だった。その事実が歯痒く、そして悔しい。

 アインの驚いた空気が伝わってきて、それ以上は何も言えなくなってしまった。

 いざ自分の言葉を振り返ると恥ずかしいのだ。


「はー、ええなー。そういうの。愛やな、愛」


 すぐ傍で明るい声が発せられ、驚きとともに顔を上げた。

 いつの間に部屋に入ったのだろう。

 人懐こそうに笑うフェイがベッドのすぐ横に立ってルーナを見下ろしていた。

 アインがまるでルーナを守るように両手を広げて立つ。


「な、なんですか! ノックもせずに!」

「え。ごめーん。必要やと思わんくて……」

「必要ですよ、普通は! 女の子の部屋なんですから!!」

「堪忍。次から気を付けるわ」


 そう言ってフェイはぱちんと手を合わせる。愛嬌のある仕草だったが、どこかわざとらしく感じてしまう。

 突然の登場に言葉を失っていると、フェイは後ろから何かを取り出した。


「じゃじゃーん」


 取り出したのは透明な小瓶だった。青い液体が入っている。フェイはその小瓶を揺らしながら笑った。


「ルーナちゃんにお願いがあって来ましたー。面倒やけど、これを寝る前に──」


 フェイがセリフを途中で中断し、どこかうざったそうに扉の方を振り返る。

 廊下を走る音が聞こえてきたと思えば、ルディが慌てて部屋に入ってきた。


「ルーナ! 大丈夫?!」

「ルディ……!」


 ほっとして名を呼べば、ルディはルーナとフェイの間に割り込んできた。そしてフェイの体をぐいっと押しやってしまう。フェイはつまらなさそうな顔をして、これみよがしにため息をついていた。


「何もしとらんって……」

「そういう問題じゃない! キミが! ルーナに無断で近づくのが問題なの!」

「解呪に必要な話やったんやけど……」

「……その話、本当に今しなきゃダメだった?」


 ルディが敵意を剥き出しにしつつ声を落ち着かせて問う。フェイはちょっと驚いたような顔をしてから、視線を逸らして肩を竦めた。


「夜寝る前にこの薬を飲んで欲しいって話やで? ……夜、寝る前に二人きりでした方がよかったん?」


 フェイは目を細め、どこか挑発するように言う。人形のように整った顔だからか、その表情がやけに嫌らしく見えてしまう。

 ひくりと口元を引くつかせたルディ。ゆっくりと深呼吸をしてから口を開いた。


「そうは言ってない。勝手に、ルーナと二人きりになるなって言ってるの。怖がってるでしょ」

「アイン君がいるやん?」

「使い魔と自動人形(ドール)は別だよ」


 挑発に乗るまいとルディが冷静に対処しようとしているのがわかる。

 その態度を見たフェイはどこかがっかりしているように見えた。

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