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生贄、のち寵愛。~魔物たちに食べられるはずがいつの間にか大切にされてます?~  作者: 杏仁堂ふーこ


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112.『呪い』②

 きょとんとしたルーナを見て、冷や汗が頬を伝う。

 さっきの黒い霧は魔力を視認できる者だけが視ることができるものだったのでルーナは何が起こったのか理解してない。逆にルーナがアレを見てなくてホッとする。アレが自分の体の中にあったと知ったらショックだろう。

 大した事のない『呪い』だと思っていた。

 『呪い』はレミたちの想像を超えて強力なものだった。

 まさか、こんな『呪い』だったとは──と戸惑っているところで、不意にルーナが立ち上がる。弾かれたように扉のすぐ横で待機していたアインとトレーズの方へと駆け寄っていく。


「アイン! トレーズ?!」


 振り返るとアインとトレーズがその場に倒れていた。さっきの倒れる音はトレーズが倒れた音だったのだ。

 ルーナは慌てた様子で二人の傍にしゃがみ込んでおろおろしていた。人間ではないのでどうして急に倒れたのか、使い魔と自動人形(ドール)に対してどのように手当てをすればいいのか困っているのがわかる。

 遅れて駆け寄ろうとしたところで、ジェットに先を越されてしまった。

 ジェットはアインとトレーズの二人に触れてから、小さくため息をつく。


「すぐ目覚めるから気にすんな」

「ほ、本当?」

「本当。……こいつらは『呪い』に耐性がないからびっくりしただけ」


 そう言ってジェットがちらりとレミを見た。

 「そういうことにしておくから」と言わんばかりの視線である。

 ジェットはトレーズを壁に凭れ掛からせて座らせ、その膝の上にアインを置いた。深刻なダメージを受けていれば人間味など欠片もない人形に戻っているはずだ。普段の姿のままなのでジェットの言った通り、ほどなく目を覚ますだろう。

 実際のところアインとトレーズには魔力などに対してそれなりの耐性があるのでちょっとやそっとであれば意識を失ったり倒れたりすることはない。ただ、ルーナにかけられた『呪い』が「ちょっとやそっと」ではなかったため、ショック状態に陥って意識を失ったのだ。

 流石にルーナに対して「『呪い』のせい」と言うのは憚られる。

 その場にしゃがみ込んだままのルーナに近付いて肩にそっと手を置いた。


「二人のことを失念していたオレに責任がある。ルーナは気にしなくていい」

「……そ、そう」


 ルーナは不安そうな顔をしている。それでいていまいち納得してない顔だった。ジェットの口からでまかせだと気付いているのかもしれない。

 素知らぬふりをして立ち上がるように促して振り返ると、ソファでルディが口元を押さえて俯いている。


「ルディ? どうした?」


 声をかけるとルディが緩く首を振りながら、何でもないと言いたげに手を振る。血の香りがしたので微かに顔を顰めてしまった。

 恐らく、ルーナのすぐ隣にいたためにさっきの『呪い』の余波をもろに喰らってしまったのだろう。顔を上げたり声を出さないのはルーナを心配させたくないからだ。

 本当ならルーナの『呪い』について色々と調べたいところだったが、指輪を外させるのが危険すぎる。

 周りにかなりの危険が及ぶというのに、本人が何ともなさそうにしれっとしているのが不思議だった。


 今日はこれ以上は無理だと思った直後、アインががばっと起き上がった。遅れてトレーズもぱちりと目を開けて、ぼんやりと周囲を見回す。


「はっ! ワ、ワタクシは一体……?!」

「アイン、目を覚ましたか。『呪い』への耐性が低いのに部屋に置いたままで悪かった」

「へっ? ……あ! は、はい。ワタクシたちもルーナのことを気にするあまりすっかり忘れておりました。以後、注意いたします」


 レミがじっと見つめて強い口調で言えばその意図をアインが正しく汲んだ。トレーズの膝の上で、申し訳なさそうにしている。

 トレーズはぼんやりとしているが、一応話は聞いているようで浅く頷いていた。どちらかと言えばトレーズの方がダメージが大きそうだ。


「……今日はここまでにしよう。アイン、ルーナを部屋へ。それと──」


 そう言ってルーナとアインを部屋に帰した。アインには一つ頼み事をして。



◆ ◆ ◆ 



 ルーナとアインが部屋を出ていったのを見てから、レミとジェットはソファに座り直した。

 ルディが俯いたまま顔を押さえているのをじっと見つめる。


「ルディ、大丈夫か?」

「……ん、いちおう。……ちょっと鼻血出た、びっくりした……」


 言いながらルディが顔を上げ、鼻の下を少し乱暴に拭った。薄っすらと血の跡が見える。

 それを見たジェットが軽く肩を竦めた。


「お前案外耐性低いな」

「あの距離で喰らったらこうなるでしょ!? なんか掠ったしさー! ルーナに鼻血見せなかっただけ偉かったじゃん!」

「そういうことにしとくわ。で、間近で見てどうだった? お前あんま呪術は詳しくねぇだろうけど」


 ルーナのすぐ横にいたルディにはあの黒い霧を間近で見て、それに確かに触れていた。魔力の塊のようなものだったので触れれば何らか影響が出る。それを鼻血程度で済ませたのだからルディはやはり生物としてかなり強い。

 レミとジェットは距離があったのと、ルディほど濃度の濃い霧には触れてないのであまり影響がなかった。

 あの黒い霧のような『呪い』が込められた血を飲めばどうなるか──火を見るより明らかだ。

 ルディは少し考え込んでいた。


「……すっっっごく嫌な感じがしたってことしかわかんないよ」

「気配はなんかあった? 人間なのかそれ以外のナニカがかけた『呪い』なのか」

「あー、人間だった。人間がかけた『呪い』だったよ」

「ふぅん?」


 つまり術者は人間ということだ。人間がこれほどの『呪い』をかけられるとは思わなかった。相当な執念、恨みつらみがあるのだろう。

 ジェットがレミを見る。


「どうすんだよ」

「……最悪お祖母(ばあ)様に相談するしかない。呪術絡みではオレもお前もあまり役に立たないだろう?」


 ここにいる三人とも呪術は門外漢だ。やはり相談先としてはフリーデリーケが適当だろう。なんせ博識な上に顔が広い。

 しかし、ジェットがあからさまに嫌そうな顔をする。


「……。フリーデリーケにこんな個人的なこと相談すんのか。流石に笑われるし、下手するとめちゃくちゃ首突っ込んでくるぞ、あいつ。いいのか?」

「個人的かなぁ? 僕らも関わってるじゃん」

「……ジェットの懸念もわかる。お祖母様は有名で力のある方だからな……どういう影響があるかわからない。まぁ、お祖母様に相談するのは最終手段だ。……あまり事細かに説明したい話でもないし」


 我ながら気弱な発言になってしまった。

 というのも話が相談したが最後、ルーナが何なのか、何故助けたいと思うのかなどなど、根掘り葉掘り聞かれてしまうからだ。話が大きくなるのは避けたいし、何よりも両親の耳に入るのを一番避けたい。彼らはきっとルーナを助けることに否定的だろうから。レミが肩入れしている人間なら、尚更嫌がるに違いない。

 「そんな人間など捨て置け」と吐き捨てる父の顔が容易に想像できる。

 レミとジェット、二人の話を聞いたルディは「そんなもんか」と言いたげな顔をしていた。あまり納得はしてなさそうだ。


「他に解決方法がないか考えてみる」


 呪術に関する伝手(つて)を考えた場合、どうしてもレミが相談先を見つけるしかない。ルディは言わずもがなだし、ジェットも悪魔の横繋がりが薄いせいで当てにならないのだ。

 できる限り早く解決したいが、手元に何もないのが歯痒かった。

 不意にルディが顔を上げ、レミとジェットを見比べた。


「……ね~。あんまり頼みたくないけど、あいつは?」


 あいつ。

 その単語にレミとジェットの二人は揃って嫌そうな顔をしてしまった。


「あいつに頼むくらいならフリーデリーケのがマシだろ」

「そうだな。絶対に貸しは作りたくない」

「色々研究したり実験してるって言ってたから、一番適任な気がしたけど……まぁ、二人が嫌ならいいや。今はね」


 ルディの言う通り適任と言えば適任かもしれない。けれど、フリーデリーケ以上に抵抗があることには間違いない。

 『あいつ』という選択肢は除外し、もっと良い方法がないか考えることにする。


 ──しかし。

 まさか『あいつ』の方からこちらに接触してこようとはその時は想像すらしてなかった。

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