九話
「何台か、いなくなってるな」
「いないってことは、すでに出発したってことだ」
「じゃあ、俺たちも行くか?」
「おう、いつでも出発できるぜ」
男にそう言われて、俺はお金を渡す。
男はしっかりと受け取ると、にんまりと笑うのだが、顔が特徴的すぎて怖いのは言うまでもない。
お金の確認を終える。
「予想はしていたが、しっかりとお金をもっているいいお客様だな、お前たちは」
「何も聞いてこないお前もいい運転手?だな」
「当たり前だろ?金さえ払うのなら、我はそれ以外のことは全く気にしないからな。さあ、ほめるのはもういい、さっさと乗り込め」
男の言う通り、車両に荷物を積んでいく。
初めて乗るものだということで、どうやって動くのかがわからない以上不安しかないのだが、ウタはそうではないらしい。
「すごい、すごいです」
エンジンというものがかかり、音が鳴りだした車両に乗ってはしゃいでいる。
これも、ここセントラル以外の都市に向かうために外の世界に出るからというのもあるのだろう。
俺たちが乗り込むのを確認し、男は運転席と呼ばれる場所に乗るという。
「お金はもらった。どこの都市から向かうんだ?」
「ウエストへだ」
「了解」
ウエスト。
最初にセントラルとは違う都市に向かうとなったとき、どの都市に向かうのか?
俺はどこでもいいと考えていたのだが、ウタはそれなら私に決めさせてほしいとお願いしてきた。
そこで決まったのが、ウエストだったのだが、選んだ理由というのが、俺に美味しいものを食べさせたいということだった。
食べられればなんでもいいと言ったのが、そんなに悪かったのだろうか?
今となってはわからないが、決まっているのだからいいだろう。
「ウエストだったら、こっちだな」
ゆっくりと車両が動きだす。
ガタガタと揺れは確かにあるが、嫌なものではない。
「いいか?」
「俺は大丈夫だ」
「私もです」
そして、車両は走り出す。
暗くなった場所で、それなりの音を出して走るというのは確かに少しの注目を集めはするが、この頑丈な車両の前に出てくるものは誰もいなく便利だ。
セントラルの門も車両に乗っているだけで通行が可能ということを考えても、これまでのお金の半分以上を払ったかいというものがあった。
ただ、セントラルの門をくぐって、外の世界をちゃんと見たとき、驚く。
こんなに暗闇だったのかと…
確かに壁に上ったときに外を見ることはあった。
暗闇だったので、むやみに行くことはできないということだけはわかっていたが、外を進むにつれて、余計にそれがわかる。
目を凝らすことで、なんとか薄っすら周りが見えるが、それだけだ。
そんなときに、前のほうから明るい何かが近づいてくるのが見える。
「あれは、なんだ?」
「ほかの車両だ」
ゆっくりと運転をしていた男がそう言葉にする。
「この車両には明かりはつけられないのか?」
「つけられるが、つけない。理由はすぐにわかる」
意味深な言葉だけを言った男は、集中しているのか、押し黙る。
ただ、理由というのはすぐにわかった。
明かりをつけた車両というものの後ろに何かが張り付くようにしてうごめいていたからだ。
「あれは、なんだ?」
「わからねえ…でも、我たちの間ではモンスターって呼ばれている」
「モンスター」
初めて見る異形の怪物に、驚く。
そんなときだ静かだと思っていたウタが、ゆっくりと車両の中で倒れる。
「ウタ!」
俺は慌てながらも、声をかける。
だが、初めて見る症状にどうしていいかわからないでいると、男は車両を横に止める。
「おい、手伝え」
「ああ…」
荒い呼吸のウタを見た男は、これが何なのかを理解したのだろう。
俺に指示をすることで、ウタを車両から降ろす。
「あてられたか…」
男はそう言葉にするが、意味がわからない。
そんなときだった、気配を感じる。
咄嗟に動く。
持っていた投げナイフを気配に投げつける。
ただ、当たったという感じはない。
避けられたか?そう思って、追撃を行おうとしたときだった。
「動くな、そして目を閉じろ!」
男のその言葉で、咄嗟に目を閉じる。
何かの気配を近くに感じながらも、そのままそれは去っていく。
気配が完全に遠ざかったタイミングで男はため息をつく。
「ふぅ…危なかったな」
ただ、俺はセントラルの中でしか、感じられなかったものとの違いに驚くのだった。