八話
「すごい、油の匂いなのでしょうね、これが!」
「そうなんだろうな」
ウタが言ったように今いるのは、運搬所という名前の車両が並んでいる場所だった。
六台ほどあるそれは一台ごとに色合いが違う。
動いたところは少し見たことがあるとはいえ、これだけの数があるのは初めて見たので、驚いていた。
「なんだ、ここは初めてか?」
「ああ」
挙動不審だったのだろう、そんな俺を見かねて一人の男が声をかけてきたのだが…
その姿は、普通の人とは違っていた。
驚いていると、男は慣れているのか、笑う。
「なんだ?顔に驚いたのか?」
「当たり前だろ?普通と違うからな」
「それをいうのなら、そっちの女性もじゃないのか?」
「そう言うってことは、欠落者なのか?」
「ははは!それがわかっているのなら、我が今回担当するってこともわかるだろ?」
「なるほど、欠落者の相手は欠落者にっていうことか…」
「ああ、でも心配はするなよ。我はな、他のやつよりも運転がうまいからな」
「そうなのか」
「ああ、楽しみにしていてくれ」
男はそう言って、さらに笑う。
だが、ここで俺は思ってしまう。
お金の確認がされていないということにだ。
「なあ、お金の確認をしなくてもいいのか?」
「お金?ははは!我がないやつに声をかけたと思うか?」
「どういうことだ?」
「何、我は目がいいからな、すべて見えているってことだ」
ニヤッと笑いながら、男は言う。
なるほど、それが男の能力ということなのだろう。
普通ではない見た目というのは、鼻がないというものだ。
だからこそ、欠落者として持っているものは、目の良さだ。
確かに、それであれば車両の運転というものも可能なのかもしれない。
俺とウタは契約というものを男と結ぶ。
燃料という油の金と、車両の一部の金、そして道中に何が起こっても責任をとれないという書類を書かされる。
「大丈夫なのでしょうか?」
「信じるしかないだろう」
「確かにそうですね。整備?というものがあると言っていましたよね」
「ああ…だから立つのは今夜と言っていたな」
「こういうものは夜に出発するのが普通なのでしょうか?」
「わからないな。俺たちには都合がいいが、それに合わせてくれたと考えたほうがいいのか?」
「どうなのでしょうか…」
実際のとこはわからないとはいえ、時間が空いてしまった俺たちは、少し買い物をする。
さすがに次の都市までどれくらいの時間がかかるのかわからないからだ。
少し前に殺し屋の二人を退けたからか、誰かが狙ってくるという気配も感じることもない。
ただ、ウタは気にしているようだった。
「こんなことをしていても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ。それにウタも何かほしいものがあるって言っていなかったか?」
「そうですが…その…」
「大丈夫だ。すぐに襲われるってことはないはずだからな」
「それならいいのですが…」
そして、買い物をするためにお店に向かって歩き始めたのだが、着くまで暇だったのだろう。
ウタが俺に話しかけてくる。
「セツに質問をしてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「セツは、どうして簡単にあの勝負に勝てたのでしょうか?」
「準備だな」
「準備ですか?」
「そうだ」
俺は、こう見えても殺しを失敗しない殺し屋と言われている。
それは、どういうわけなのかというと準備を怠らないからだ。
前もって調べられるものは調べ、できる手はうっておく。
今回の掲示板があるゴミ捨て場だってそうだ。
もともと俺は、最終的には殺しをやめようと思っていた。
足を洗うために必要なことだ。
最終的にやりたいことをするためにもだ…
「ま、最初からあそこにはいろいろな仕掛けを施していたってことだ」
「そうなのですね」
「だから、計画としては前倒しになったが、最初から計画通りってことだ」
「そういうことですか…」
「そういうことだから、さっさと買い物を済ませるぞ」
「はい」
そして、まずは服を選んでいくのだが、どうしてこう時間がかかるのかわからなかった。
「いいか?」
「も、もう少しいいでしょうか?」
「違いがわからないが…」
「わかりませんか?肌ざわりはしっかり見ておかないと、かゆくなったりしますから」
「でも、違いなんかわからないんだが」
「そんなことはありません。ここには…」
いらないことを言ってしまったと思ったが、後の祭りだった。
その後、服のあらゆることを力説された俺は、先ほどの男二人の戦いよりも疲れを感じるのだったが、そんなことを言えるはずもなかった。
「これは美味しいです」
「よかったな」
「はい!」
嬉しそうに言うウタを見ながらも、空を見る。
そろそろだろうとは思うのだが、如何せん荷物が増えてしまった。
なんとか、入れられるものは大きなカバン一つにはなったのでよしとするのだが…
「いつまで食べているつもりだ?」
「美味しくなかったものを食べさせられたので、お口直しです」
「だからといって、食べすぎじゃないのか?」
「そんなことはありません。体重はそこまで増えていません」
ウタはそう言いながらも、さらに持っていたお肉を頬張る。
俺はそれを見ながらも、同じように肉を頬張るのだった。
「うまいな…」
思わず口からそんな言葉がでる。
ウタはそんな俺のことを笑顔で見ていたのだが、それに気づくということはなかった。
そんなことがありながらも、俺たちは車両が置いてある場所に向かうのだった。