七話
地面から出てきていた水が収まり始めたのを見ながら、俺はもう一人の男を見る。
「次はお前の番だな」
「ちっ、簡単にやられやがって!こっちはそうはいかないからな」
「そうか?」
「なんだと…そもそも、今のはただ運がよかっただけだろうがよ!」
男はそう言ってから、今度は武器を構える。
ボウガンという名のそれは、小型の弓矢を放つと言われている攻撃道具だ。
先ほどのナイフの男と同じで使っている武器に関しては見るだけで分かる通り、いいものを使っている。
ただ、その武器による攻撃が俺に届かないことには意味がないということをわかっていない。
「こう見えても、射撃には自信があるからな!」
男は、その言葉の通り矢を放つ。
音が鳴り、こちらに向かってくる。
射撃が得意と言っていた通り、連続で三射してくるとはなかなかだ。
「どうだ、これがトリプルショットだ!」
男は得意気にそう言葉にする。
確かに、放たれたタイミングは違うというのに、完璧に同じタイミングでこちらに矢を飛ばすというのは、かなり高度な技術だというのはわかる。
それに、しっかりと逃げても大丈夫なように次の矢を用意しながらも、矢も避けにくいように狙う場所もかなり考えられている。
でも、同じタイミングでこちらに向かってくるものというのは、言ってしまえば、最初の二つに関しては加減をして放っているということだ。
であれば、交わすことや防ぐことというのは簡単だということだ。
タイミングさえ、合わすことができれば…
「簡単にできるよな」
後ろにバックステップする。
距離をとる。
普通であれば、意味のないような行為だけれど、向かってくる矢の勢いというのは、弱まってきている。
先ほどと同じ場所で横に避けようとしていれば、確かに矢のどれかが掠めていたかもしれないが、距離を少しとることで、三つの矢はタイミングが合わず、本来の強さというのを失ってしまう。
「交わされただと…」
「これくらいは、簡単だ」
だから、普通に交わせてしまう。
簡単なことではあるが、戦いの最中で、それを見極めるというのは難しい話なのだろう。
とはいえ、避けられたところで、男は諦めることもない。
「ちっ…やっぱり、お前自身を狙うってことが、間違っていたようだな」
すぐに目標をウタに切り替えた。
予想はしていたこととはいえ、さすがの切り替えの早さというべきだろうか?
ただ、俺もそんなことを許すというわけではない。
「ダブルショットってか?」
「なんだと!」
ふざけた名前とともに、行ったのは二つの玉を投げる。
上に投げられた玉は、当たり前だが人力のため、勢いはそこまで強いものではない。
そうはいっても、このままの軌道で飛んでいけば男に当たることになるだろう。
男は、その玉を交わすわけでもなくまるで自分自身の実力を示すかのように矢で打ち落とす。
「どうだ!そんなくそ遅い玉なんてな!この矢で簡単に打ち落とせるからな!」
「くはははは…」
「何を笑っている?」
「いや、殺し屋だと、名乗っているわりには、本当にお前らは警戒というものをしないんだな!」
「何をいって…!なんだと、目が!なんだ、これしみやがる!」
「わからないか?これはシミソウだ!」
「何?あの森にだけ生えているという…」
「そういうことだ」
シミソウ。
そう呼ばれる、草の葉を乾燥させ、すりつぶしたものが入っているのが、今投げた玉だった。
これは目に入ることによって、大きく沁みるようなものだ。
森であれば警戒をすれば、防ぐことができるものでも、こうやって細かくしてしまえば防ぐことが難しくなる。
男はそれがわかったのだろう、なんとかして目を開けようとするが、開けようとすれば余計に沁みてしまい、開けることもままならないだろう。
「だが、玉の中から粉が出たことを考えると、お前も同じように引っかかっているということだろ?だったら、条件は同じってことだ!」
「本当にそう思うか?」
「何を言っている、当たり前だ!」
男はそう叫ぶ。
そんな男に俺はゆっくりと近づいた。
グッと拳を握りしめる。
そして、そのままお腹を殴る。
「ぐは!」
無防備な男のおなかに完璧にヒットする。
むせながらも、なんとか距離を取ろうと男はするが、視界がないためすぐに転ぶ。
それでも、俺に向かって言葉を発する。
「なんでだ…どうして、お前は見えているのか…」
「簡単なことだ。俺は森で生活をして、それを粉にするときも大変だった、それだけだ」
「んだよ、それは…」
簡単なことだった。
森で生活をしていれば、自然と同じような草木に体が当たるなんてことはよくある。
そのたびに、確かに体が痒くなったり、腫れたり、いろいろなことが起こったが、死ぬほどのことでなければ、周りのものを使えばうまく対処も可能だ。
今回のものをそうだ。
草木の特性を理解することで、俺には効果がない。
それだけのことだった。
俺は転んだ男にゆっくりと近づく。
そして、そのまま拳を叩き込んだ。
「じゃあな」
昏睡した二人を、殺し屋が使っている掲示板に結び付けておく。
殺し屋であれば、殺すのが普通ではないのか?
そう言われるかもしれないが、俺はそう思っていなかった。
俺が殺す相手というのには、ちゃんと理由がある。
だから殺すのだから…
「よかったのでしょうか?」
「いいだろ?負けたのに殺されないっていうのも、殺し屋としては最大の屈辱にはなるわけだからな」
「そういうものなのですね」
「そういうものだ」
俺はそう言葉にしながらも、次に備えるべく行動を開始するのだった。