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四話

「大丈夫か?」

「ああいういたずらはよくないと思います」

「いたずらじゃないけどな。甘いものだけじゃ、必要な栄養が足りていないからな」

「だからといって、あの美味しくないものを食べさせようとするのは間違っていますからね」

「それはすまない」


どうやら選択を間違えたらしく、女性は怒ってしまったようだ。

ご飯というのは必要な栄養が取れればそれでいいと思っていたが、この女性はどうやらそうではないらしい。

これだけ便利な食べ物だから、喜んで食べてくれるものと思っていたが、どうやらそうではないらしいというのは少し残念だ。

女性自身も何か小さな声で、俺にいいものを食べさせると聞こえてきたが、いいものとはなんだろうか?

どんなものなのか想像はできないが、俺が知らないものだということだけは理解できる。


「お腹は膨れたか?」

「はい」

「それじゃ、次に行くか」


俺たちは、次の場所へ向かっていく。

女性自身も、少しずつこの状況に慣れたからか、もしくはお腹が満たされたからかはわからなかったが、さらに話かけてくる。


「あの!」

「なんだ?」

「あなたのことをなんて呼べばいいでしょうか?」


女性は、俺に向けてそう問いかけてくる。

名前…

聞かれたことを考える。

ただ、その疑問の答えがすぐに俺の口から出ることはなかった。


「名前はなんでもいい」

「なんでもいいってどういうことでしょうか?」

「そもそも名前なんてものは俺には存在しないからな」

「そうなんですか?」

「ああ…呼ばれるとすれば、悪魔や容赦なし、あとは殺し屋だな」

「それは、かなり物騒な名前ですね」

「そうか?俺のことを表してくれるいい名前だ」


普通にそう答えたのだが、気づけば女性に抱きしめられていた。

意味がわからない状況に戸惑いながらも、離れようとする。


「何をしているんだ?」

「だって、あまりにも可哀そうだったので…」

「可哀そう?俺がか?」


言われたことが予想外すぎて、体が硬直してしまう。

さらに、どういう理由なのかはわからないが、さらに抱きしめる腕が強さが増す。

ただ、体が硬直した理由は言われた意味が本当にわからなかったからだ。


名前がないなんてことは、世界の中でも、一定数いるということを知らないというのだろうか?

名前がないというのは、別に珍しいことじゃない。

そもそも、生きていくために名前など別に必要ない。

だって、相手のことがわかればそれでいいものだからだ。


そもそも、名前がないことが可哀そうと考えること自体が間違っていると俺は考えている。

といっても、そう考えているのは俺であって、目の前の女性ではない。

今無理に行動をするのは難しいと考えた俺は女性に質問する。


「名前が必要だと思うのか?」

「当たり前です。名前はものではなく命あるものの証ですからね」


証…

そんなことを言われたところで、しっくりとこない。

名前を呼ばれたことがないから、それに意味があるのかさえもわからない。

考えてもわからないことに時間を使ってられない。

そう考えた俺は、早くこの状況から解放されたかったということもあり、女性にぶっきらぼうに言う。


「だったら、お前の好きなように呼べばいい」

「いいの?勝手につけて…」

「そう言ってるだろ?勝手にしろ」


すると、女性はすぐにうーんと考える素振りを見せると、すぐに何かを思いついたのか名前のようなものを口にする。


「セツ…というのはどう思いますか?」

「普通な名前だな」

「名前をつけるなんてこと初めてだったので、仕方ないじゃないですか…私だっていい名前を考えようとはしましたけど、咄嗟だったので、他の案が浮かばなかったんです」

「そうか」

「気に入ってもらえましたか?」

「ああ、もともと、お前が呼びやすいならそれでいい」

「よかったです。それでは、次は私の名前を呼んで…」

「ウタだな」


俺が急に変なことを言ったと思ったのだろう。

反論するかのように言葉にする。


「いえ、私の名前は…」

「だから、ウタだろう?」

「えっと、私にはちゃんと名前が…」

「死んだことになっているのにか?」

「ゔ…」

「俺がセツなら、お前はウタでいいだろ?」

「わ、わかりました、セツ」

「ああ、ウタ。満足したなら、次の場所に行くぞ」


俺はそう言葉にしつつも抱き着かれている腕をはがす。

ウタは、今更ながらに抱き着いていたことを思い出したのか、勢いよく離れるとその場にこけた。

本当に何をしているのだろう。

そう考えながらも、ウタに手を差し出す。


「ありがとうございます」

「こけるには早すぎるからな」

「は、はい」


ウタは申し訳なさそうにしながらも、手をしっかりと握ると立ち上がるのだった。

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