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心声・神歌が交わるときに  作者: 美海秋


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三十九話

聞いたところで、何をしたらいいのかなんてものは簡単にわかるはずもなく、俺はただ右手を握りしめる。

だが、そうやって握りしめたところで意味がないことはわかっていた。


「心に聞けってなんだよ…」


よくわかっていない。

確かに、俺は他の人の声というものが聞こえる。

でも、それだけだ。

何を考えているのか、何を思っているのか…

聞こえるのは俺以外の周りの人たちだけだ。


「周りのやつらだけ?」


俺はそこで一つだけ新しい考えが頭に浮かぶ。

聞こえるのが他の人のみだということが、そもそも正しいことなのか?

自分が考えていることというのは頭の中で思い浮かべることができるくらいだ。

それをどうにかするとは考えていなかったし、そもそも何ができるというのだろうか?

動けないでいる俺の手を、ウタの手が触れる。

気づけば歌が止んでいる。


「ウタ…」

「セツはこの黒いものをどうしたいですか?」

「黒いものをか…」


モンスターをどう倒すのか…

ウタに言われるまではずっとそう考えていた。

でも、本当に倒せるのかということを考えると、わからない。

対峙してそれなりに時間はたっているが、倒せる気は確かにしない。

倒せないとすれば、どうするのか?

わからない。

何をすれば正解なのか?


「ウタはどうするのが正解だと思うんだ?」

「正解ですか?」

「ああ」

「わかりません。ですが、何か変えるきっかけが必要だということはわかります」

「変えるきっかけか…」

「はい。それが、なんなのか言葉にはしにくくて…」


言葉にしにくいことといえば、なんだろうか?

ウタの心の声は聞こえる。


「(黒い(もや)をなんとか、なんとかしないと…)」


黒い靄?

目が見えていないからこそ、感じるものがあるということなのだろう。

俺にはこいつが黒い人の形をしたヤバいものにしか見えない。

だが、声は聞こえるということは人のなれの果てだ。

だが、ウタが感じているのは靄のようなものがかかっているということだ。


「わかったかもしれない」

「何がでしょうか?」

「こいつをどうにかする方法だ」


俺はそう言葉にすると、ゆっくりとモンスターへと近づく。

この見た目ですべて勘違いしていた。

こいつらは悪いものだと…

そういえば、最初から言われていたのはよくわからない存在というものであり、そういうものだからこそ危ない、怖いものだと言われていた。

だが、わからないものというものを怖いと感じるというのは当たり前のことだ。


「殺し屋としてか…」

「どうかしましたか?」

「いや、少し言われたことを思い出してな」


俺は昔に言われていたことを少しだけ思い出した。

何事も理解するためには時間が必要だという言葉を…

正直なところを言ってしまえば、あまり意味がわからなかった。

今でも、その言葉を理解できているのかといえば、そうではない。

ただ、今までのように殺してしまうやり方ではダメだということだ。

隣にウタがいるということも含めて、そういうことなのだろう。

俺が殺さないと決めた相手なのだ。

そして、もしかすれば俺の能力についても、一つだけ仮説というものがあった。


「なあ、俺の声は聞こえているか?」

「何をいっているのでしょうか?隣にいるのですから当たり前ですよ」

「確かにそうだったな」


心で考えていることが、隣にいるウタに聞こえることがあるのだろうか?

そんなことを考えたが、実際には伝わるはずない。

当たり前のことだ。

だって、そんなことができてしまえば、俺の能力は誰かの心に思っている言葉を聞くというだけのものじゃなくなってしまうからだ。

だったら、できることは周りの声と届けることだろう。

それが、ほんの少しの声だとしてもだ。


聞こえる声は多くない。

隣にいるウタと、後ろにいるヨミとミミのものだけだ。

ヨミはどこか確信をしている、俺ならできるというもので、ミミはそんなヨミの確信に少し疑問を持つもの…

そして、ウタは俺ならできるというものだ。

どうして、出会ってほとんど時間がたっていないはずの俺にそれだけの信頼をよせてくれるのか、わからない。

でも、どうしてだろうか、人を殺したときよりもプレッシャーというものを感じる気がする。

まるで全てを背負っているかのような気分だった。


「ウタ」

「なんでしょうか?」

「なんか歌ってくれるか?」

「はい、もちろん」


ウタは俺の言葉によって、歌う。

いつもと同じように、気分を上げてくれる。

俺の能力は相手の心を聞くものだ。

でも、もしも、もしもだ…

この能力が、俺が触れている人にだけは、俺が考えていること、思っていること、触れている状況そのものを伝える効果があるのであれば、きっと何かが変わるだろう。


「さあ、声を届けるときだ」

「はい。私たちの」


つい口に出た言葉を、ウタが俺のてをしっかりと握るとそう口にする。

俺はウタとゆっくりとモンスターに歩みよると、その手をモンスターに触れさせるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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