三十七話
「終わったの?」
「一応ここはな…」
気絶したロングを見ながら、そう言葉にする。
気づけば時間は夕方になっていた。
「あと少しか…」
期限を超えればどうなるのか?
正直なところはわからないが、ここ生贄が行われる場所だ。
何かが起こるとすれば、ここであることは間違いないだろう。
それまでにできることはやっておく必要がある。
事前に準備することが大事だということを知っているからだ。
「何が来るかだな」
「セツは、あのモンスターが倒せると思っているのでしょうか?」
「ああ、なんとなくな」
「どうしてでしょうか?」
「どうしてか…」
確かに、俺もどうしてかは、うまく言葉にできていない。
でも、そう思ってしまったのだ。
倒せる、そもそも抵抗できるはずだと…
「わたくしはできるとは思いませんけど」
「だったら、どうして俺の計画に賛成する気になったんだ?」
「それは、その…わたくしが見えているものが変わっても変わらなくても、何もやらないということはわたくしのこれまでを全て否定するものだということに気付きましたから…」
ヨミはそう言葉にするとそっぽを向く。
間違いというものを認めたくないということなのだろう。
ちゃんと自分の口でそう言葉にするだけで、進歩なのだろうが…
「(贄はまだか?)」
声が聞こえた俺はハッとしながら周りを見る。
いつもであれば、聞こえすぎる力によって、すぐに能力を封印してしまうが、今は周りに聞こえる声がほぼすべて裏表がない人ばかりになったことで忘れていた。
だが、それによって、気づくことがなかったそれに気づいてしまった。
何か聞こえた声。
思い出したいわけじゃないが、自分自身の能力というものを再度考える。
俺の能力というのは、他人が考えているのがわかるというものだ。
口ではどんな言葉で飾ったところで、本当に思っていることがわかる。
だが、それは距離としてはどれくらいなのかはわからないが、ある程度の距離までしか聞こえることはない。
だというのに、先ほど声は聞こえた。
そこから考えられる可能性というのは二つだ。
一つは、聞こえる距離に誰かが来た。
もう一つは、モンスターと呼ばれたあいつらの考えていることが聞こえたかだ…
「(贄だ!)」
「(こっちへ来い)」
「(新入りをよこせ!)」
ああ、なるほどな…
「うるせえよ」
「セツ?」
急に話始めた俺のことをウタは心配そうに見つめる。
言いたいことはわかる。
おかしくなったと思うよな。
でも違う。
俺は理解した。
どうして俺は、モンスターというものが襲ってきたところで倒せる可能性があると思えたのか…
あの時から、何かを感じていたってことかよ。
「来るぞ!」
俺は三人に向けてそう声をかける。
三人は、その言葉の意味を理解したのだろう、身構える。
「(贄を)」
「(贄を)」
「(よこせよこせよこせ)」
「(よこせよこせよこせ)」
何人もの声が近づいてくるのがわかる。
やつらが来るというのだろう。
モンスターの声が何故聞こえるか、そして本当に倒せるのか…
結局のところはやってみないと、相手をしないとみえてこないということをわかっているのだからだ。
「こいよ!」
俺はそいつに呼びかける。
背中に悪寒を感じながらも、俺たちはそいつを待つのだった。
「ギャアアアアア!」
まるで叫び声のように聞こえるそれは、どこか嫌な感じがする。
神木から周りが、夜になり暗闇に包まれ始めると同時にそいつ、異形の存在は姿を現すのだった。




