二十七話
「ここだと広いからな、振り回しても大丈夫だということだ!」
男はそう言葉にすると、背中に背負っていた武器を取り出す。
わかっていたことだが、男の身長を考えると大剣と呼ぶにはかなり大きなものだ。
これを振り回されると、守り切るなんてことはできない可能性もある。
「ウタたちは出ていろ!」
「いえ、セツ。私はここにいます」
「どうしてだ?」
「この目ですし、逃げるのであれば、あなたが必要だから!」
「だったら、ミミだったか?お前は、ヨミを逃がしてくれ!」
「いえ、セツ。わたくしは動きません」
「御使い様?」
「ミミ、わたくしのお願いを聞いてもらえるのであれば、ここでセツの戦いを見たいです」
なんでかはわからないが、全員が動かないという。
なんでだ?
ここでこの男ともし戦うとしてもだ、狭い場所では避けるのすらも苦労する。
目の前の男もそれがわかるのだろう。
「おいおいいいのか?全員を殺してしまうことになるぞ?」
「いいえ、本当にそうですか?」
「何が言いたい?俺様に敵うやつなどいるのか?」
「それは…どうだと思いますか?」
ヨミが含みのある言い方でそう言葉にする。
「だったら、生き残れよ」
男はそう言葉にして、大剣を振りかぶる。
上段からの振り下ろしなのだろうが、距離的には当たるほどではない位置で振りかぶっている。
だが、相手は胸にボディズを埋め込まれた人だ。
力は当たり前だが、俺よりも上であり、遠いと思っている距離も簡単に詰められるという自信があって、今の距離から構えをとっているのだろう。
「ちっ」
「はああああああああ!」
「くっ」
上段は横にかわし、俺が避けるということをわかっていたのだろう、すぐに横なぎを振るってくる。
「はああああああああ!」
「ぐおおおおおおおお!」
俺は懐から出していたナイフでそれを防ぐために大剣をそらすように振るったのだが、男は強引に切り替えて、上から潰すように鍔迫り合いをしてくる。
「くおおおおおおおお!」
「軽い、軽いぞ!」
「くそが!」
俺はなんとか鍔迫り合いから離れるために、後ろに飛ぶ。
だが、今の一撃でわかる。
俺では攻撃を防ぐことはできない。
そうなると避けるしかないということだ。
「やはり細いな!だからこそ、弱い弱すぎる!そんな力では、俺様に攻撃すらとどくことはないぞ」
「ちっ…」
「ははは!もっと足掻いてくれないのであれば、意味がないぞ!」
「うるせえよ!」
俺は油断したタイミングで小さなナイフを投げる。
ナイフは、油断していた男に刺さったのだが、余裕なようで笑うだけだ。
「なんだ?何かを投げたのか?」
「だったらどうした?」
「俺様には全くもって効くものじゃないからな」
男はそう言葉にすると、体に力を込める。
筋肉に押されるようにして刺されたナイフが出てくる。
筋肉の壁みたいなものだろう。
ボディズというのは、ここまでの力があるということに驚く。
「傷すらついてないとか、あり得ないだろ…」
「だから言っただろう?弱すぎる攻撃など、俺様には無意味だとな。この力がある限りな!」
男は胸にあるボディズを指さしながら言う。
この男を倒すためには、あの胸にあるボディズを破壊するしかないだろう。
男もそれをわかっているのだろう。
「わかっているのだろう?先ほどのナイフ程度ではこいつには傷がつくということもない!」
わかっているからこそ、どうするべきかを考える。
武器は限られている。
俺が持っている武器で破壊できるものは、一つだけだ。
使えるのは爆弾と呼ばれる武器だけだ。
これは使うことはないだろうと思いながらも、必要になる可能性がゼロではないと思っていたが、ここで必要になるとは思わなかった。
使わなかった理由というのは、殺し屋をしていて、相手を形がないものにしてしまう可能性があったからだ。
だが、今回に関してはこれを使うしか可能性はない。
「なんだ?秘策でもあるのか?」
「だったら、なんだ?」
「楽しみだと思ってだな。俺様がやられるなんてことはないだろうが、それでもこの力をもってからは退屈しかなかったんだ!俺様を楽しませてみろ!」
男は再度大剣を上段に構える。
素早さは相手のほうが速い。
爆弾を当てるのであれば、攻撃を弾くか避けるかを繰り返し、相手の態勢を崩すしかない。
「行くぞ!おら!」
「ちっ…」
俺は舌打ちしながらも、先ほどと同じ攻撃を避けたが、男は先ほどと違って大剣を完全に振り下ろす。
ドンと音がなる勢いで振り下ろされたそれは、地面をえぐる。
圧倒的な力を見せつけるとともに、その振動によって態勢が崩れそうになる。
だけど、俺はなんとなく先ほどと全く同じことをしてこないだろうということをわかっていた。
「おら!」
「なめんな!」
態勢を崩れそうになったところに大剣を振るってくるが、俺はそれを後ろに転がるようにしてかわしながらもナイフを投げる。
男はさらに畳みかけるべく向かってくる。
だが、それは阻まれる。
「なんだ?体が動かないだと?」
「は!舐めた末路だ!」
何が起こっているのか気づかれる前に倒さないといけないということくらいは理解できていた。
だからこそ、俺は爆弾を投げると同時にナイフも投げる。
ある程度の衝撃を加えないことには爆弾は爆発しない。
だからこそ、俺はナイフで衝撃を与えることにしたのだ。
狙い通りに、爆弾は大爆発を起こす。
それにより、先ほど男が振り下ろした大剣の数倍の勢いで爆発が起こる。
かなりの爆風で、俺は転がるようにして後ろに下がったが、近くにいなかった三人にも音と風が届いているようで、悲鳴が聞こえる。
急なことだったこともあり、爆発の音で耳がおかしくなる。
「やったか?」
俺は爆発のほうを見た、そのときだった…
体に衝撃が走る。
何かで殴られたような感覚で、体はその勢いで吹き飛び壁にぶつかる。
「ぐは、ごは…」
やられたのか?
何をくらったのかはわからないが、考えられるのは大剣の腹で思い切り殴られたのだろう。
体が痛む。
立つことができない、そんな俺に対して、男の嬉しそうな声が聞こえてくる。
「いやいやいや、今の攻撃は最高だった!」
にやにやとしながらも、男は俺のほうを見る。
そんな男は確かに体には少しだけ焼けたような跡がついてはいるが、本当に体の表面というだけで、大きなダメージがないのがわかる。
「おいおい、そんなに睨むなよ。いい攻撃をしたんだ。それだけでいいことじゃないのか?」
「はあはあ…いいわけないだろ…」
「なんだ、いい目をしてやがる。本当に殺してしまいたいな!」
男はゆっくりと近づいてくる。
それがわかったのだろう、ウタの声がある言葉を言おうとするのがわかる。
だから、それよりも早く俺は口を開く。
「おい、おっさん」
「なんだ?今、あいつが面白そうなことをしようとしていたのを感じたんだが?」
「だったらなんだ?俺はやられてねえぞ?」
「そうか?死にたいということか?」
「セツ!」
ウタの悲痛な声が聞こえる。
だけど、俺は大丈夫だ。
俺はウタに言う。
「ウタ」
「なんでしょうか?」
「勝てるように歌でも歌ってくれ」
「何を…わかりました」
ウタは歌い始める。
男はバカにしたように笑う。
「なんだ?気でも狂ったのか?」
「ああ、そうかもしれないな。だが、本当に狂うのはここからだ」
俺はそう言葉にすると両腕を解放するのだった。




