二十三話
先ほどまでいた木の中から離れた場所に休憩として二人で座ると話しかける。
「おい」
「なんでしょうか?」
「結局は何がしたいんだ?」
「そんなの、わたくしにだってわかりません。だってわたくしは死ぬことが決まっているのですよ」
ヨミが言っていることはなんとなく理解はできる。
目的があるから生きているだけで目的が無くなれば生きれなくなるというものだ。
でも、そこで思うこともある。
本当なのかというものだ。
ヨミが今からしないといけないことが生贄だと言ってはいるが、実際のところは誰かからやってくれと言われてやらないといけないというものだ。
それは結局のところ、やりたいことではないからだ。
「死ぬっていうことが決まっているなら、死ぬ前にやりたいことくらいあるんじゃないのか?」
「あの彼女はどうだったの?」
「ウタのことか?ウタは、そのままの意味だ。歌いたいってな」
「では、どうして他の都市に行くことになったのですか?」
「それは、セントラルでは歌う場所がないからだな」
「そう考えると、ここウエストで歌うことができれば、彼女は満足するの?」
「どうなんだろうな」
確かに考えてみれば、そうだった。
俺は他の都市を見てあることをしたくて、来たのだが、ウタはそれに巻き込んだ形になる。
他の殺し屋に狙われているとはいえ、ウタは、歌うことができれば、満足なはずなのだ。
「そういえば、そもそもウタの歌声をちゃんと聞いたことがなかったな」
「ええ?そんななのに、わたくしに偉そうに説教のようなものをしたんですか?」
「説教じゃないだろ…」
「本当ですか?」
「ああ、聞きたかったことを聞いただけだ」
「では、どんな答えがよかったのか教えてください」
「それは、言っただろ?やりたいことを答えろってな」
「だから、それは死ぬことが決まっているわたくしに言われても意味がないって言いましたよね」
「それなら、今から死ぬまでの間のことでしたいことを考えておけよ」
「…難しいことを聞きますね」
「難しいことなのか?」
「はい、難しいことです」
セツはそれを理解できなかった。
ヨミが難しいことだと言ったのには、ちゃんと理由があった。
そもそも、木脈に生贄を捧げるということはかなり前から決まっていたことで、ヨミ自身も最初は嫌だった。
体の一部が他と違って不自由であり、さらには人とは違う能力というものがあるというだけでも、かなり自分自身に嫌悪感というものがあったのに、さらには死ぬときが決まっているなんてものは、ヨミ自身が絶望するためには十分な出来事だった。
だからこそ、ヨミのことをなんとかするという人というのは、ロングとミミの二人しか出てくることもなく、そんな二人であれ、できたことというのはなるべくできることをするというものだった。
ウエストの中でできることをたくさんした。
だけど、それ以上というものはなかった。
逆にいえば、ウエストでできることというのは全て終わらせてしまっていた。
ヨミがもしできるならと考えることというのは、そもそも生贄になることがないという世界でしかありえない。
でも、もしヨミが生贄とならなければ、代わりに生贄になるのはウタだということはわかっていた。
「わたくしが望むことは、できないことです」
「なんでだ?」
「だって、それはわたくしが生きるということですから」
「だったら、生きればいいんじゃないのか?」
「何を言って、そんなことをすればウエストが…」
「でも、ヨミ…お前の命を簡単に殺すような都市だぞ?」
「それをあなたがいいますか?」
「ああ、奪ってきたものが多いからこそ、言ってやるよ。目の前にいる相手を生かすのも殺すのことを選ぶことができるのは、殺し屋の特権ってやつだ」
「だったら、わたくしを今すぐ殺してください」
「どうしてそうなるんだ?」
「決まっています。今死んだところで、生贄として変わりはないですから」
ヨミは俺にそう言葉にする。
かなり極論ではあるが、そうすることで何かがあってもウタが生贄にならなくてもいいと考えているのだろう。
だけど、俺は考えてしまう。
「なあ…」
「なんですか?」
「モンスターってやつは本当に殺せないのか?」
「殺すことなどできません。モンスターにそのようなことができたということをセツは聞きましたか?」
「確かに聞いたことはないな。そもそもモンスターの存在を知ったのも最近だからな」
「だったら、余計にあの異形を見れば、わかると思います。勝てないと…」
「確かにな…」
ヨミがそう言葉にするのは無理もなかった。
確かに、あれを間近で感じたときには悪寒がかなりした。
だけど、それだけだ。
俺はすぐに反撃ができた。
俺は自分の直感を信じている。
そこから考えられることというのは、何か手があるのではないのかということだ。
だが、それを試すことは今はできない。
「よし」
「どうかしましたか?」
「ウタと合流するぞ」
「何を言っているんですか?どこにいるのかわからないんじゃ?」
「そこは、能力の有効活用だ」
そう言葉した後に俺は集中する。
これをする理由というのは、ウタの能力を活用するためだ。
声に能力を持つウタには、その声で俺にあることを命じてもらった。
それは、どこにいてもウタのことがわかるようになるというものだ。
生きている限り、永遠に…
だからこそ、捕まったところでウタの場所は把握できていた。
俺はそのことをヨミに説明したのだが、ヨミはそんなことを平気で言う俺のことをおかしな人を見る目で見ていう。
「セツは、なかなかひどい人ですね」
俺はそれに対して苦笑いをするしかないのだった。




