二十一話
あれから、時間はたったが、ヨミから何かを話をしてくるということはない。
だけど、何かブツブツと一人で話しているのは、何かを考えているからだろうか?
手持ち無沙汰になった俺は、殺し屋時代のときの癖で、周りの探索を始めたのだった。
少しウタのことを心配しながら…
※
ウタは拘束されている間にいろいろなことがあった。
雨というものが急に大量に降ったと思ったら、外が騒がしくなり、気づけば時間がたっていた。
ようやく外も落ち着いてきたころに、少し外を出ていた二人が戻ってきた。
「何かあったのですか?」
「あんたには関係ないこと」
「でも、もしかすれば、何かわかるかもだろ?」
「確かにそれはあるけど。いいのかしら?」
「いいと思うけどな。聞いてはダメだとは言われていないんだからな」
「そうかもしれないけど。何かあったらまずいと思わない?」
「そうならないためにも、拘束してるんだろ?」
「確かに、言われてみればそうかもだけど…」
ミミと呼ばれていた女性がウタに話しかける。
「ねえ、あなたと一緒にいた人はどんな人なの?」
「セツのことですか?」
「そうそう、一緒にいた男のことを教えてほしいんだけど」
「教えてほしいと言われましても、私だって、ほとんどセツのことを知りません」
「じゃあ、聞くけど、どうしてそんな相手と一緒に行動しているわけ?」
「どうしてと私に聞かれましても、一緒にいるというのは、目的が同じだったからです。それだけではダメでしょうか?」
「その目的って何なの?」
「違う都市を感じてみたいというものです。おかしいものなのでしょうか?」
「へー、じゃあほかの都市にも行ったってことなの?」
「いえ、私たちが初めて来たのが、この都市でしたので、まだほかの都市へは行ったことがありません」
「そうなんだ。だったら、先に謝っておくね。ここしか見せられなくてごめんね」
「そうですね。本当に私を変わりに生贄にするのであれば、謝ってもらう必要があるかもしれませんね」
ウタがそう言葉にしたときだった。
外が騒がしくなる。
「入るのはいけません」
「どうしてだ?俺様が来たと言えば、いいだけだろう?」
ウタは当たり前だけれど、誰かわからない。
ただ、ロングとミミの二人は声だけで誰かというのがわかったのだろう、舌打ちをする。
「ロング」
「時間稼ぎをしろってことだろ?」
「そうよ」
ロングがすぐに外に出ようとしたが、それよりも早く扉が開く。
バンという音とともに勢いよく開いた扉には、歩き方の音でわかるが男がいるのだろう。
「勝手に入ってくるってどういうこと!」
「仕方ないだろ?お前たちが侵入者を庇っているのをわかっているからな」
「侵入者を庇っているってどういうこと?」
「わからないのか?俺様たちは御使い様に選ばれた優秀な兵士だからな!」
「いつも勝手にしてるだけの暴れん坊の間違いでは?」
「何を言っている?それはお前たちのほうだろう?そちらは新たな御使い様になられるようなお方だぞ?拘束するというだけであり得ない侮辱だということをわかっているのか!」
男はそう言葉にする。
ウタ自身は、すぐに言われている内容というのが、自分に言われていることだということに気付いた。
急に御使い様になる存在だと言われたところで納得ができるはずもない。
そもそも、ウタ自身がやりたいことというのは、いろんな都市を感じてみたいことなのだ。
ここに来ただけで終わらせるつもりはなかった。
このままではどうしようもない。
そう考えたウタは、自分の能力を使うべく気持ちを落ち着かせようとしたときだった。
「ほら、これを知っているか?」
男の声がするのと同時だった、何かが地面に落ちたと思うと、何かがまかれていくのを感じた。
まずいと思いながらも、手足を縛られたウタは抵抗ができない。
気づけば意識を失っていた。
「く…」
意識を取り戻したとき、先ほどと違う場所の感じがする。
腕と足は縛られたのか変わらないけれど、今度は何かに固定されているのか、身動きをとるのも難しい。
「起きたのね」
もぞもぞとしだしたウタを見て、ミミが話しかけてくる。
「何が起こったのでしょうか?」
「嫌なやつらが、乗り込んできたのよ」
「嫌なやつですか?」
「そうよ。かなり面倒な奴らなのよ。うちも捕まったしね」
「そうなんですね」
ミミも焦っていることからわかる通り、本当に予定外のことなのだろう。
ウタはなんとか雰囲気で状況を把握しようとするが、そううまくもいかない。
今度はどこにいるのだろうか?
見えたところでわからないが、それでも気にはなってしまう。
「これからどうする予定なのでしょうか?」
「わからないわよ。捕まるなんて考えてなかったし、こうなったら、うちらだって心配になる人がいるのよ」
焦っている理由というのは、それなのだろう。
彼女が焦っている。
その理由を簡単に考えるのであれば、ウタの変わりの存在である御使い様が心配ということなのではないのだろうか?
ウタ自身もセツのことを心配…
「私のほうは心配の必要はありませんね」
「うちらのほうは、そうは言ってられないのよ」
「でも、私はどこか、あなた方が言う御使い様がセツと一緒にいるのではと思いますよ」
「そんなわけ、うちらにだってあまり話をしてくれないあの子が、そんなに簡単に会話をできるわけないじゃない…」
ミミはそう言葉にして唇をかむ。
ミミ自身もそんな風にして頼られたなどという経験がなかったからだ。
だけど、ウタはどこか感じていた。
どこかこれはセントラルで起こっていることと同じようなことではないのかと…




