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二話

「夜か…」


時間がたち、いつもの夜になる。

ここからが俺の仕事の時間だ。


少しの準備も一通りやり終えて、ここから行うことは仕事のために必要なことだ。

仕事依頼というのは、いつものように誰かを殺すというものだ。


世界は終わりに向かっていると言われていたとしても、誰かが誰かを憎み、殺してほしいと依頼をする。

いつものことに変わりはないとはいえ、世界がおかしくなっているのにも関わらず、人を殺したいと考える人が多いことに思わず笑ってしまう。


「どんなときでも人の醜い部分が消えることはないってことか」


思わずそんなことを口にする。

かといって、自分自身がそれを実行する当事者なのだから、俺にも醜い部分というのはかなりあることは間違いはないだろう。


俺の中でのそれは金ばかりを気にしていることになるだろう。

俺が依頼を受けるための条件は金額が一定以上あるかどうかというところが、一番重要だからだ。

お金があれば、なんとかなる。

そう考えていたからだ。


といっても、今のところはそんなお金も使う機会は全くないのだが…

とはいえ、時間が立てばそういう機会がくるはずだ。

そういう機会がくればの話にはなってくるのだが、いつそれが訪れるのかがわからない以上は、集めることが悪いことにはならないはずだから…


まずは仕事だ。

暗くなる前の明るい時間に少しの下見は行っていた。


人を殺す。

その行為を行うというのであれば、昼間と夜どちらがいいのかと考えれば夜になってくるが、夜というのは警戒を強めてしまう。

殺すには夜が最適ではあるが、ターゲットのもとに向かう必要があるとき、そこまで簡単に近づくことができるのは昼だった。

明るいというのは、それだけでも警戒を解く材料になるからだ。


だからといって、昼間に行わないのは依頼である殺しを行った後にバレるリスクが高いからだ。

夜であれば、侵入するのは難しいが逆に殺しを行っても見つかるリスクが少なく、見つかるタイミングも遅くなる。

そのことによって、逃げる時間をしっかりと確保するというのが、殺し屋としての定石だった。


「おかしいな…」


だが、今回の依頼には違和感があった。

依頼に書かれていた内容というのは、この大きい家…


屋敷と呼ぶほどに大きな家にいる、とある女性の殺害。

普通であれば、これだけ大きな屋敷であれば、見張りや世話係などといった多くの人がいるはずだ。

それなのに見えるだけじゃなくて人の気配すらもないように感じる。


「誘われているのか?そうなると、ターゲットすらもここにいないってことになるのか?」


人の気配がないということは、勘付かれていると考えるのが自然だろう。


作戦が失敗したのは明白ではあったが、ここまできて何もやらないというのも違うと思った俺は屋敷を見て回ることにする。

もしかすれば、何か逃げ込んだであろう次の場所へと続く手がかりが見つかる可能性があるだろうからだ。

それも含めて何もないという可能性だってあるだろうが、ここまで来たのだから、少しくらいは何かがあるだろうと考えている。


あの男から依頼をもらったのが昨日なのだ。

そして、逃げる時間があったとしても、今日の昼間のみということを考えても余計に何かがあるだろう。


「気配はやはりないな」


廊下から続く多くの部屋の前を歩きはするが、普通であればする物音のようなものが全くない。

油断をするわけではなかったが、このまま何もないというのが普通だ。

俺はおもむろに一つの部屋の扉を開ける。


「空っぽだな」


中は予想していた通り、何も残っていない。

本当にこの屋敷で誰かが生活をしていたのだろうか?

そう考えた俺は、気配がないことをいいことに、その後も同じ階の部屋を開けていくが何もない。


出直す必要がある。

そんなことを考えていたときだった。

一瞬だけ物音が聞こえる。


「誰かいるのか?」


ここまで誰もいなかったこともあり驚くが、逃げ遅れたり、何かを忘れておりそれを取りにやってきた…

なんてことは結構な頻度で起こる話だというのは、聞いたことがある。

実際に何度かそういう相手に出会ったということもあった。


足音を立てないようにしながらも音が鳴った屋敷の二階へと向かう。

明かりがついているということはないがそれでも物音は聞こえている。

慌てているのかドタバタと音が聞こえる。

そして声も…


なんて言っているのだろうかは、わからないが確かに声は聞こえる。

どこかで聞いたような声ではあったが、今は考えている場合じゃないと俺は警戒を強める。

なんといっても、今回の殺しを依頼された相手というのが欠落者だからだということがわかっていたからだ。


ここにいるのが欠落者なのかはわからないが、それでももしいるのが欠落者だというのであれば、特異な能力をもっている。

それを警戒しないというのはあまりにも殺し屋としてダメなだろう。

気づかれることがないようにして、部屋へ近づいていく。


「誰もいないの?どうして…」


ようやく何を言っているのかが聞こえる距離に近づいたところで、聞こえてきた内容は不安のようなものだった。

さらに慌てているのかドタバタと音が聞こえる。

見られることがないように隠れながらも部屋の扉を見ていると、扉が開いて一人の女性が出てきた。

なんとなく出てくることを予想して隠れていたから見つかることはないはずなのだが、女性は何かに気づいているのか言う。


「誰かいるの?」


女性の問いかけに当たり前だが答えることはない。

だが、女性はどういう理屈なのかはわからないが何かに勘付いているのか、今度は胸に手をあててから言う。


「いるのなら、教えてください!」


力強い声だ。

普通であれば、それだけなはずだが、俺の体は勝手に動きだす。

抵抗をしようとはしたが、それも叶わず体は動き、口から自然に声が出た。


「ここにいる…」

「よかった…人がいたんですね」

「だったらどうした?」


そう返事をしながらも、すぐにこれが欠落者の能力によるものだと理解する。

さらにはその女性を俺が見たことがある相手だとわかるとその能力で理解する。


声で間違いないだろう。

女性が使っている能力はその声であり、その声が聞こえている相手に対して影響を与えるというものなのだろう。

だから俺に話すときに何かを込めることで言うことを聞かせることができたのだろう。

体が勝手に動いたことでわかる、危険な能力だ。


今回の殺しを行う依頼相手というのは、この女性ということで間違いないだろう。

さっさと依頼をこなすためにも、女性の声を聞こえなくするためにも、俺は耳栓をつける。

ようは声に能力があると考えるのであれば、声を聞かなければ、大丈夫だと考えたからだ。

そうなったら女性が言っている言葉がわからないって?

これでもいろいろなことができるようにと、読唇術も覚えている俺には、耳から声が聞こえなくても何を言っているのかくらいは理解することが可能だった。

女性はさらにこちらに向かって言ってくるのを早速唇を読むとで理解して会話する。


「どうしてあなたはここにいるんですか?」

「それは答えないといけないことか?」

「はい、できれば…」

「じゃあ、教えるぞ。あんたを殺しにきた…それだけの話だ」

「そう、ですか…」

「ああ、だから抵抗するなら今のうちだぞ」

「抵抗ですか?」

「ああ、しないのか?」

「そうですね…一つだけ質問しても大丈夫でしょうか?」

「なんだ?」

「この家には私以外の人はいなかったのでしょうか?」

「そうだと言ったらどうなんだ?」

「よかったと思いまして…私以外の人が逃げることができたのであれば…」


俺は言っている意味がわからなかった。

だってだ、今の言葉で俺はこの家に誰もいない理由というのがなんとなくわかってしまったからだ。

多分にはなるが、この家に女性は置いていかれたということなのだろう。

それは女性もこの静けさから、なんとなくわかっているはずだというのに、彼女は置いて行かれたということを口にすることもなく、周りにいたであろう人たちを心配しているみたいだ。

でも、それは…


「は…死ぬ前なのに考えるのは周りの人のことなのか?」

「そうですね。確かに私だって死にたくはありません。ですが、この目のせいで、たくさんの人に迷惑をかけているということは私自身でも、わかっていることですから…」

「なら、ここで死ぬのも仕方ないってことだな?」

「はい…私にそう言うということは、あなたが私を殺してくれる人なんでしょうか?」

「さっきそう言っただろ?」


俺は抵抗する気のない女性に向かって用意していた最低のものであるナイフを取り出すとゆっくりと近づく。


「何か言っておくことはあるか?」

「最後の言葉ですか?」

「ああ…それだ」

「最後の言葉を聞いてもらえるのですね」

「どうせ死ぬのならな、それくらいのことは聞いてやるよ」

「そうですか…それでは、私が最後に臨むことは…」


そして言葉を聞く。

言葉を聞いた俺は向けていたナイフを振り下ろした。

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