十九話
「そんなことが可能なのか?」
機械にできることを知った俺は、驚いた。
ヨミが言っていることが正しいのであれば、この都市の雨と呼ばれていたものは、ここで降らせていたということだ。
「雨は必要なものですから」
「確かにそうなのかもな。でも、わざわざ降らせる必要はないんじゃないのか?必要なことは水をまくということじゃないのか?」
「はい。それについては、おっしゃられている通りです。セツが言った通り、必要なことは確かに都市で育てている作物や、人々に綺麗な水を与えることであり、それができるのであれば、空から降らす必要はありません。ですが…」
「なんとなく、わかる。空から降る水がかなり神聖化されていたからな」
ウエストに入ってきたときに感じたことだった。
多くの人々は、雨というものについて話すとき、どこか熱を帯びて話す。
まるでそれに陶酔しているかのようにだ。
だが、俺はそこで思い出す。
「そうか、そもそも空から水が降るということ自体が特別なのか…」
「セツ。わかりますか?」
「そうだな。考えてみればわかった」
言われれば、セントラルにいたときに水が降るなんてことが起こるなんてことはなかった。
いや、そもそも雨が降るということすらなかった。
「何も降らないというのが普通のことだ」
「はい。このウエストで行っているのは、人工的に雨という天候に変えるというものです」
「でも、なんの意味があるんだ?雨を降らせるというものにどんな意味が?」
「セツは、どうすれば神の存在を信じてもらいますか?」
「それは、決まっている…何か大きなことをすればいい」
「そうなんです。大きなことをすればいいんです」
「それが、雨を降らせるということなのか?」
「はい。神の御業と呼ばれることすら、あります」
言われてみて、理解する。
確かに神の御業と言われてもおかしくないことだ。
でも、疑問があった。
「でも、どうして俺をここに連れてきたんだ?」
「決まっています。セツに知っておいてほしかったのです」
「なんで俺なんだ?」
「セツには変える力があります。あなただから、変える力が…」
ヨミはそう言葉にすると、ゆっくりと俺の手に触れる。
ヨミには、俺の隠していることなどわかるということなのだろう。
だが、俺には…
「セツ、怖い顔をしないでください」
「そんな顔はしてねえよ」
「わかりました。それでは、大雨を降らせましょう」
「どうしてそうなるんだよ」
「やりたかったので?」
「どうして疑問形のことをやるんだよ。おかしいだろ…」
「いえ、きっとうまくいくはずです」
ヨミはそう言葉にしながらも、機械の操作を始める。
俺はそれを慌てて止めるのだった。
※
意識が戻る感覚がある。
どうやら手足が縛られているのを感じる。
死んでいないはいないようだということをウタは確認する。
「よかった。セツが無茶をした感じではないですね」
まだ拘束されているということは、セツが助けに来たということではないことを感じた。
セツであれば、周りの人たちを簡単に殺してウタを助けることは容易いとわかっていたからだ。
ウタ自身は、常に考えていた。
殺されるのであれば、傷つくのであれば、自分がいいと…
どうしてそう思ったのか?
それは、セントラルでのことだ。
「罪を犯したのは私も同じ」
口にしてしまうほどに、ウタはセツと同じくらい、もしくはそれ以上に酷いことを行ってきた。
口にした言葉によって、強制的に相手に言うことを聞かせられる。
その能力というものは、思っている以上に強力であり、さらには利用したいと目論む人が多いものだからだ。
最初はある人の役に立てばと思っていたことだったはずなのに、気づけば多くのものを傷つけるだけの、私腹を肥やすのを手伝うだけの存在となってしまった。
「私が願えば、ふふ…」
一人でいる時間が多くなれば考えてしまう。
そんなときだった。
近くに人の気配がする。
「起きた?」
「はい、ここはどこでしょうか?」
「決まってる。うちらだけの特別な場所」
「おま、そういうことを言うなよ。秘密な場所だからな」
「大丈夫でしょ?目の前の彼女はこの場所が見えないんだから」
「かもしれないが、そもそも彼女の能力を知らないんだぜ。なのに、こんな警戒しなくてもいいのか?」
「大丈夫でしょ。でえ、あなたは、どうしたい?」
「どうしたいというのは、私が言えば叶うことなのでしょうか?」
「内容によるかな」
「トイレは…」
「いいわよ別に、行かせてあげる。その前にいろいろ話をさせてくれたらね」
「話ですか?」
「うちらには必要なことだと思うけど、あなたもどうして捕まったのか、気になるでしょ?」
「そうですね」
女性のほうがウタにそう話しかける。
ウタも気になっていたので、女性の話を聞く。
「あなたにしてほしいことというのは、ある人の生贄の変わりになってほしいってこと」
「生贄の変わりですか?」
「そうそう、うちらの大切な人の変わりにそうなってほしいんだ、わかる?」
「大切な人ですか?」
「うん、そう…だから、死んでよね、うちらのために」
女性が言ったその言葉は、嘘がなく。
そして、死ねなかった私に必要な言葉なのかもしれなかった。




